焦点:駆除か啓発か、ワニの増加に頭を悩ませるオーストラリア

オーストラリア北部地域の当局は、ワニによる襲撃の頻度を減らそうと、より積極的な啓発から物理的な駆除に至るまで、試行錯誤を進めている。画像は7月に北部準州ワクワクで撮影された動画から(2024年 ロイター/Stefica Nicol Bikes)

[ダーウィン/シドニー 13日 ロイター] – 黄緑と茶色のマダラ模様を持つイリエワニは、オーストラリアの濁った川の水中に体の大部分を沈め、三角形の鼻先の上に黄褐色の両眼をのぞかせて獲物をうかがう。

15年前、シャーリーン・オサリバンさんの娘はこうしたワニに襲われて命を落とした。オサリバンさんは当初、他の人が同じ悲しみを味わわずにすむよう、地元ダーウィンの周辺からこんな人喰い動物を1頭残らず駆除、あるいは捕獲すべきだと考えていた。

だが今のオサリバンさんは、もっと穏やかな安全対策に傾いている。啓発である。

「当初、すべてのワニを駆除すると言われたら、私はたぶん賛成していただろう」とオサリバンさんは言う。2009年、11歳の娘ブライオニーさんは、友達と水場で泳いでいてワニに襲われた。

かつて不動産仲介業を営んでいたオサリバンさんは、「だが、小川や水路からワニを1頭除去しても、別の1頭が入り込んでくるだけだ」と語る。

「周囲の環境を尊重し、ワニたちがそこで暮らしていることを知り、自分がどのような状況に身を置いているのか、賢く考える必要がある」

オサリバンさんの気持ちの変化に象徴されるように、熱帯域に属するオーストラリア北部地域ではこの問題を巡る議論が盛んになっている。乱獲により「ソルティーズ」と呼ばれるイリエワニは1970年前後にほぼ絶滅状態に追いやられたが、それ以降は保護ルールが導入され、生息数は増加を続けている。

当局は現在、ワニによる襲撃の頻度を減らそうと、より積極的な啓発から物理的な駆除に至るまで、試行錯誤を進めているところだ。ワニ襲撃に関するデータベース「クロックアタック」によれば、2023年初頭以降、こうした襲撃は全豪で18件発生、そのうち5件が死亡事故だった。

だが、イリエワニは「トップエンド」と呼ばれる豪州北部地域の経済とアイデンティティーに深く絡んでいるだけに、当局の対策も種の存続を脅かさないようにする必要がある。イリエワニは、北部準州の15億豪ドル(約1460億円)規模の観光産業にとっても大切な存在なのだ。

この2カ月、ワニの襲撃により北部準州では先住民アボリジニの少女1人、隣のクイーンズランド州で医師1人が犠牲になった。

だが、4月に発表された少数の駆除割り当てでさえ、環境保護活動家やアボリジニの長老、観光事業の経営者の反発を呼んでいる。

北部準州のワニは、第2次世界大戦から1970年代にかけてハンターの乱獲により3000頭以下にまで減少したが、準州政府はそれ以前の水準を維持するため、推定生息数10万頭のうち年間1200頭を駆除したいとしている。

だが今年、推定3万頭が生息するクイーンズランド州は、ワニの命を奪わないゴム弾での射撃によりワニを追い払うと発表した。

3年前、クイーンズランド州のチーフサイエンティストは大型動物の捕獲や駆除を考えるべきだと勧告したが、同州はこれに従わなかった。

クイーンズランド州元チーフサイエンティストのヒュー・ポッシンガム氏は、ワニの増加を放置すれば死亡事故につながると主張する。ポッシンガム氏の2021年の調査は、体長2.4メートル以上の個体を対象とするものだ。

「とはいえ、ワニの全面駆除というのも、やはり馬鹿げている」とポッシンガム氏。「あちらを立てればこちらが立たず、だ」

数千頭のイリエワニが生息する西オーストラリア州の自然保護当局の広報官は、同州では駆除という選択肢をとらないと述べ、駆除が襲撃リスクを減少させる科学的な証拠がない、と続けた。

<駆除反対の声>

北部準州は、オーストラリアでの興行収入記録を打ち立てた映画「クロコダイル・ダンディー」の舞台にもなった。総人口に対するイリエワニの生息数の比率は世界最高であり、準州政府は、もはや啓発キャンペーンだけでは不十分だとしている。

準州政府によれば、ワニの生息数は50年間で3000%という爆発的増加を示しており、まもなく25万人の総人口を上回りかねないという。

この状況は、ワニの近くで働き、生活する人々を悩ませている。

データベース「クロックアタック」を立ち上げたチャールズ・ダーウィン大学のブランドン・サイドルー氏は、「北部準州の新たな計画は、全く不必要かつ無駄であり、ひょっとすると危険でもある」と語る。

駆除計画によって、これまでは立ち入り禁止だった地域まで安全だという誤解が生まれてしまえば、むしろ襲撃が増加する可能性すらある、と同氏は続ける。

「オリジナル・アデレード・リバー・ジャンピング・クロコダイル・クルーズ」のオーナー、トニー・ブラムス氏の観光客向けアドバイスは、「水底が自然のままの場所では泳がない」というものだ。さらに、一般向けにワニの危険に関する啓発を強化する方が、駆除するよりも多くの生命を救うことになるだろうとブラムス氏は言う。

アボリジニの「ダンガバラ」(イリエワニの意)部族の長老であるティビー・クオール氏も、駆除に反対している。

「イリエワニは私たちと共生している。私たちの文化、私たちは何者でどういう存在なのかという点に深く結びついている」とクオール氏は語った。

冒頭のオサリバンさんは現在、パートナーとともにワニ園を経営し、肉や皮を取るために数千頭のワニを飼育している。この事業が、娘の命を奪った捕食動物への理解と敬意を深める手掛りになっている、と話す。

「起きてしまったことがワニのせいであるとは一瞬たりとも思わない」とオサリバンさんは言う。「ワニはそういう動物で、私の娘は水路にいた。ワニは、ワニとして普通にやることをやっただけだ」

(翻訳:エァクレーレン)

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Byron Kaye is the Reuters chief companies correspondent for Australia, based in Sydney. Over 10 years at Reuters he has covered banks, retail, healthcare, media, technology and politics, among other topics. He can be reached at +612 9171 7541 or on Signal via username byronkaye.01

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