フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。遠いと思っていた南米は、行ってみればあっという間でした。

「ほとんど同じ リマ」 

南米は遠いと思っていた。 

行くだけで丸一日かかるとなると、最低でも2週間は滞在したい。 
会社員時代は、当分難しいだろうと諦めていた。 

実際には、メキシコシティまで直行便で11時間半。 
そこからさらに6時間。 
映画を観たり本を読んだり、ぼんやり過ごしていたらあっという間で、 
ペルーの首都リマは、今の私にとって、そんなに遠くない場所になっていた。 

思い描いていたのと少し違った。 
街は歩きやすく快適で、海沿いの公園は景色が良く気持ちが良い。 
Uberも、呼べばすぐにやってきた。 

コーヒー店でカフェラテを頼もうとすると、英語が通じなかった。 
ペルーの人は、基本的にスペイン語しか話さないが、 
決して冷たいわけではなくて、 
身振り手振り、懸命にコミュニケーションをとろうとしてくれる。 

歴史的建造物が並ぶ旧市街は、ヨーロッパを歩いているような雰囲気で、 
碁盤の目状に道が広がっているため、迷うことなく散策することができた。
世界中から集まった観光客と、普段の買い物をする人たちが行き交う。 
そんな人の波に流されているのが好きだ。 

遠いと思っていた南米 想像とは違った「近さ」 宇賀なつみがつづる旅 (63)

美術館が閉まっていたので、目の前の芝生に寝転がってみた。
木々のざわめき、鳥の声、遠くの方でクラクションの音も響いている。 
何組かのカップルが肩を寄せ合い話し込んでいて、 
幼い子供が池の横で鴨を追いかけていた。 

世界中どこに行っても、人の暮らしがある。 
少しの違いがあるだけで、ほとんどは同じなのだろう。 
コンドルが、空高く悠々と飛んでいた。 
彼らにも、日々の悩みがあるのかもしれない。 

翌日は、かの有名な世界遺産「ナスカの地上絵」を見に行った。 
風もなく穏やかな晴天。 
予定通り、セスナに乗って出発することができた。 

遠いと思っていた南米 想像とは違った「近さ」 宇賀なつみがつづる旅 (63)

30分ほど飛行すると、機長からアナウンスがあった。
見下ろすと、無数の直線や図形が確認できた。 

アンデス山脈と太平洋に挟まれた砂漠地帯に広がる、巨大なアート。 
ハチドリ、サル、クジラ、宇宙人? 
動物や植物の絵に近づくと、皆が一斉にカメラを向けた。 

乾いた大地に浮かび上がる白い線は、 
どのくらいの人数で、どのくらいの時間をかけて、描かれたのだろう? 
そして一体、何のために? 
様々な仮説が立てられながら、未だほとんどのことが解明されていない。 

紀元1年前後から800年頃に栄えたという、ナスカ文化。 
この時代の人々は、私たちよりもっと多くのことを知っていたのだろうか。 
それとも、同じように迷っていたのだろうか。 

遠いと思っていた南米 想像とは違った「近さ」 宇賀なつみがつづる旅 (63)

左右それぞれの乗客がしっかり見えるように、セスナが何度も急旋回した。
新しい絵を見つけるたびに興奮したけれど、 
この地上絵は、私たちのために描かれたわけではない。 
もっと遠くて大きな何かのため…。 

途中で、考えるのをやめた。 
謎があるからこそ、惹かれるのだろう。 
わからないことがある方が、正しいのだろう。 

夜遅くに、リマに戻った。 
通り沿いの賑わっているレストランに入り、 
有名なペルー料理セビーチェに合わせて、ピスコサワーを飲んだ。 

飲みやすいのに度数が高いので、すっかり気分が良くなってしまった。 
ホテルに戻ろうと歩いていると、いきなり爆竹のような音が響く。 
時計を見ると、ちょうど0時を過ぎたところだった。 

そういえば、今夜はクリスマスだった。 
お祝いのために、自分たちで花火をあげる風習があるらしい。 
おしゃれをした若者のグループが、はしゃぎながら追い越して行った。 

少しの違いがあるだけで、ほとんどは同じだと思った。

WACOCA: People, Life, Style.