4月2日、トランプ米大統領が世界の経済秩序を「破断界」に到達させようとしている。写真は同日、メキシコ・シウダーフアレスで、国境を越えて米国に入るトラック。ドローンで撮影(2025年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)
[ワシントン 2日 ロイター BREAKINGVIEWS] – トランプ米大統領が世界の経済秩序を「破断界」に到達させようとしている。2日に発表した相互関税についてトランプ氏は、政権が算出した貿易相手国の関税率の半分程度に引き上げただけの「親切な」内容だと強調した。しかし消費者や企業、世界各国の指導者はそれほど寛大だとは感じないだろう。
米国は各国に一律で10%を課すほか、途方に暮れるほど幅広い貿易相手に追加関税を発動する。例えば中国は34%、欧州連合(EU)は20%、インドは26%で、大恐慌時代以来の高水準だ。米国にとって最大の貿易相手であるカナダとメキシコには、独自の関税体系が適用される。政権が掲げる数兆ドル規模の歳入増加と製造業を米国に呼び寄せるという2つの目標は決して両立せず、妥協を引き出す交渉のための土壇場の取り組みを複雑化させる。一方で相互関税がもたらす痛手は相当大きいだろう。
トランプ氏がこの日を「解放の日」と称して打ち出した関税措置は、事前段階であれだけ大きな騒動になったにもかかわらず、改めて衝撃を与えた。フィッチ・レーティングスによると、昨年2.5%だった米国向け全輸入品の実効関税率は22%に跳ね上がり、1910年以来の高さになった。農家や自動車メーカー、米商工会議所、労働組合などは新たな貿易障壁による経済的な打撃に警鐘を鳴らしたが、聞き入れられなかった。
This chart depicts the trade deficits of the top 20 economies with the highest U.S. trade deficits in 2024
実際、米国製品への直接的な関税から鶏肉を巡る規制、消費税まで数え切れないほどの不平不満が存在した結果、他国が課しているとされる関税の計算は紛糾した。しかし、トランプ氏は米国自らが形成に助力した戦後の国際秩序で組織的に不利益を被ってきたと主張しているが、それを一掃すれば自国が景気後退に陥る公算が大きい。
ムーディーズが示した最悪のシナリオに基づくと、20%の関税は今年2月時点で4.1%だった失業率を2027年初めに7.3%まで押し上げ、この間に株価は25%下落する。これまでに実施された分と合わせると、関税による米世帯の平均負担額は最低でも3400ドルに達するとイェール大学予算研究所は試算している。消費者と企業は既に動揺し、3月のミシガン大調査によると、向こう1年で失業率が上がると予想した消費者は全体の66%と金融危機以降で最も高くなった。
おそらく米国は、自らの行為がどのような事態を招くかはそれが現実となるまで分からないだろう。中国の買い手は米国産大豆ではなくブラジル産大豆の保有を拡大しつつあり、カナダは欧州との間で軍事・経済協力を強化しているほか、中国と韓国、日本は米国の関税対応で協調しようとしている。
米通商代表部(USTR)と世界銀行のデータによると、米国の消費者は世界全体の4.2%に過ぎないが、全世界の輸入の最大14%を購入していることが分かる。つまり、米国市場の引力はなお大きい。またトランプ氏が違法な関税と見なしている各国のさまざまな政策が存在し、それは対象国にとって是正案を示して交渉できる可能性を意味する。
ただ、米国内向けのより壮大なビジョンの存在がある以上、関税政策に軌道修正の余地は乏しい。トランプ氏側近のピーター・ナバロ氏は関税によって国庫に6兆ドルが入ると発言している。財政赤字拡大が続く中でその効果は重要だ。
一方で、トランプ氏は関税政策を通じて世界中の製造業が米国に集まってくると想定するが、そうなると関税収入はなくなる。各国がこれら矛盾するトランプ政権の動機をどうやって満足させるのかは不透明で、はるかに長期にわたる危機を招く恐れがある。
●背景となるニュース
*トランプ米大統領は2日に相互関税の詳細を発表し、全ての輸入品に一律10%を課すとともに、主要貿易相手の多くに追加関税を適用する方針を明らかにした。一律関税は5日、追加関税は9日に発動される。 もっと見る
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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