韓国は、人工知能(AI)を規制する法律を導入した世界で2番目の法域として先例となりましたが、それは、AIの推進と抑制の間でバランスを取る試みのようだ、とBrian Yapは指摘します。

韓国がAI開発の規制という新たな時代に突入する中、上級の法務専門家たちは、法律事務所は、AIサービスやそのプロバイダーを慎重に選択することが重要であると警告しています。韓国の尹錫悦大統領による戒厳宣言とその後の弾劾という政治的に不安定な背景の中で、国会は2024年12月26日に「人工知能の発展と信頼基盤の構築に関する基本法(AI基本法)」を可決しました。

2026年1月に施行される予定のこの法律は、19の個別のAI法案を統合したものであり、2024年5月に制定されたEUの「AI法」に続く、世界で2番目の包括的なAI規制法となります。

ソウルのLee & Koのテクノロジー・メディア・通信グループのパートナーであるHwan Kyoung Ko氏と、城南市の嘉泉大学校の法学部教授でAIデータ・政策センター所長のKyoungjin Choi氏は、昨年9月に国会で開催されたAI基本法に関する公聴会に、法務専門家として参加していました。

Ko氏は、法律事務所がクライアントに法的助言やサービスを提供する際に、単にAIを利用するだけならAI基本法の対象となる可能性は低いものの、クライアント情報を保護するためには、AIサービス・プロバイダーと協力するに際して、慎重な注意が必要であるとAsia Business Law Journalに語りました。

「法律事務所、個人経営の弁護士、企業内弁護士などのプロフェッショナルなユーザーは、AIサービスによって効率性が大幅に向上することを期待しています」とKo氏は話します。「しかし、生成AIによるハルシネーション問題、法的トレーニング・データの不足による限界、そのようなサービスへの信頼性に関する懸念など、いくつかの課題が依然として存在しています」

Hwan Kyoung Ko氏Hwan Kyoung Ko氏

韓国人工知能法学会の会長でもあるChoi氏は、クライアントや関連企業が高影響AI関連製品・サービスを開発または提供する場合、法律事務所や弁護士にとってこの新法への遵守が「問題となる」と警告しています。

「したがって、法律事務所や弁護士がAI基本法によって課されるさまざまな義務を理解し、それに従うことが重要になります」とChoi氏は語ります。

EUのAI法と同様に、韓国のAI基本法はAIシステムを高影響AIと生成AIの2つのカテゴリーに分類しています。

高影響AIシステムとは、10の特定分野のいずれかで使用された際に、個人の生命、身体の安全、基本的人権に重大な影響を及ぼす、またはリスクをもたらす可能性のあるAIシステムです。これには、エネルギーの供給や医療機器の開発などが含まれています。

生成AIシステムとは、入力データを模倣してテキスト、音声、画像、その他の創造的なコンテンツなどを生成するものとして定義されています。

この法律の下では、AIを開発または使用し、関連製品・サービスをクライアントに提供する企業は、これらの製品・サービスが高影響AIまたは生成AIによって動作している場合、事前にユーザーに通知しなければなりません。また、AIシステムの安全性と信頼性を確保し、リスク管理計画、影響評価、ユーザー保護の戦略を策定する必要があります。

しかし、高影響AIの定義については、現在のところ具体的な解釈や政府の指針がなく、大統領令や関連の下位法令によって明確化される予定で、これらは同法の施行前に公表される見通しです。

科学技術情報通信部のウェブサイトでは、これらの下位法令は2025年上半期に完成する予定であると記載されています。しかし、特に技術分野の企業にとっては多くの疑問が残っています。

「特に、高影響AIの運営者は、安全性と信頼性を確保するために具体的な措置を講じなければなりません」と、ソウルのMicrosoft Koreaのシニア・コーポレート・カウンセルであるKum Sun Kim氏は言います。「しかし、『AI事業者』という用語がAIを開発する事業者とAIを使用する事業者の両方を含むため、どの特定の事業者がこれらの義務を負うのかが不明確なのです」とも話しています。

Kum Sun Kim氏Kum Sun Kim氏

Kim氏は、このような規定に違反すると、科学技術情報通信部による事実調査、是正命令、罰金などにつながる可能性があるため、慎重になる必要があると論じています。また、AI基本法の導入に関する議論の中で浮上したAIモデルのトレーニングに関連する著作権問題も、未解決のままであると語っています。

Kim氏は、企業内弁護士は、この法律が自社に適用されるかどうかを徹底的に分析し、自社が開発または使用するAIシステムを特定し、関連するリスクを評価する必要性があると指摘しています。同氏によれば、この法律が適用されると判断された場合、企業内弁護士は包括的な規制遵守計画を策定し、新たな規制に従うために必要な措置を講じなければならないのです。

バランスの模索

AI基本法は、近年のAIの急速な進展を背景に誕生しました。この急速な発展によって、AIに関連する潜在的なリスクへの備えについて、幅広い議論が引き起こされました。

Lee & KoのKo氏は、既存の法律に基づいてAIを規制することの難しさや、リスクの高い分野で人間が介入することなくAIに過度に依存することへの懸念が高まっていると指摘します。

これまで、AIに関する明確な規制枠組みが存在しなかったため、個別の法律を適用せざるを得ませんでした。このことから、法的安定性や予測可能性が低下し、AI関連インフラへの積極的な事業投資を妨げているという可能性が懸念されていました。

AI基本法は、AIの過剰な規制を防ぐことを主な目的とする一方で、ディープフェイクなどのAI技術の悪用を抑制するために透明性に関する規制を取り入れ、AIの安全性と信頼性を確保するための自己規制措置を確立しています。

嘉泉大学校のChoi氏は、韓国はAI基本法を起草するに当たって、EUのAI法と米国の自己規制のアプローチの両方を主なモデルとして検討した、とABLJに話しました。

米国には、AIを規制する包括的な連邦法や、AIの使用を明確に禁止または制限する法律は存在しません。その代わりに、既存の連邦法やガイドラインを通じてAIを管理し、連邦政府、州政府、産業界、裁判所に規制を委ねています。

しかし、Choi氏はによれば、韓国は米国と同等のAI競争力を持たず、法制度も異なるため、米国のアプローチを直接採用することが困難でした。

韓国の法制度はEUの民法制度に類似していますが、EUの厳格な規制は韓国のAI産業の発展を妨げるのではないかという懸念がありました。このため、EUのAI法と韓国のAI基本法の間には、規制枠組み、制裁のレベル、具体的な規定において顕著な違いが生じました。

「韓国は、EUほど厳格ではない法的規制枠組みを導入しつつ、一方で米国のアプローチに似た自律的なAI開発を推進することを選択しました」とChoi氏は語ります。

EUのAI法は、AIに対してリスクベースのアプローチを採用しており、禁止されたAI、高リスクAI、特定タイプのAIに分類して、汎用目的AIモデルに対して個別に規制を課しています。

また、AIの提供者、展開者、輸入者、販売者に対して、包括的かつそれぞれ異なる義務を課しています。EU域内で禁止されているAIサービスを提供した場合、全世界の年間売上高の7%、または3500万ユーロ(3620万米ドル)の罰金が科される可能性があります。

これに対し、韓国のAI基本法には、特定の種類のAIを明確に禁止する規定は含まれていません。その代わりに、高リスクではなく高影響のAIの安全性と信頼性を確保すること、生成AIの透明性に関する規制、高影響AIの使用に焦点が当てられています。これらの規定に違反した場合、最大3000万ウォン(2万500米ドル)の罰金が科される可能性があります。

Ko氏は、EUの包括的な規制枠組みや厳格な制裁を採用しなかった理由について、AI技術に対する社会的容認の違いが背景にあると説明しています。「また、これはAI技術と産業の発展に対する韓国の楽観的な見方、そして韓国独自のAIエコシステムに合わせた国家戦略・政策を反映しています」

チャンスの到来

韓国の法律事務所には既に、国内外のさまざまな業界の企業から、この法律への遵守に関して法的アドバイスを求める問い合わせが寄せられています。

ソウルにあるBae Kim & Lee(BKL)の知的財産プラクティス・グループとデータ保護チームのパートナーであるTae Uk Kang氏によれば、これまでのところ、ほとんどの問い合わせは、各企業の具体的な状況に応じた準備、例えば規制遵守措置や法的リスク管理に焦点を当てているとのことです。「さらに、AI基本法の個々の条項に関する具体的な意味や影響だけでなく、実際の適用可能性について、非常に多くの詳細な質問が寄せられています」とKang氏は述べています。

ソウルのYoon & Yangのパートナーで新プロジェクト・グループの副責任者であるKeun Woo Lee氏は、知的財産とAIなどの新技術を専門としています。この法律の成立以降、半導体、二次電池、クラウドサービス、ゲームなどの業界のクライアントが同氏のもとを訪れています。

「あるクライアントは、この法律がクラウド・ビジネスにどのような影響を与えるかを分析し、それに対応したいと考えています」とLee氏は言います。「同様に、ゲーム会社であれば現在のゲーム開発環境にどのような影響を及ぼすかを分析し、それに対応したいと考えているのです」

Keun Woo Lee氏Keun Woo Lee氏

Lee氏によれば、クライアントは、AI駆動のリーガル・テクノロジーが企業内弁護士の業務にどのような影響を与えるか、AI技術の進歩に備えるための企業戦略、そしてAIを採用する際に注意すべき倫理的・法的問題などについて、レビューや包括的な対応を求めているのです。

WACOCA: People, Life, Style.

Exit mobile version