中国の習近平国家主席は、トランプ米大統領の関心が他に向いている隙を突き、インド太平洋地域で自国の存在感を強めようとしている。センシティブな問題で地域の米同盟国に揺さぶりをかけ、中国の影響力を拡大するという戦略だ。

  そうした動きには、中国軍によるオーストラリア沖での実弾演習、台湾周辺に気球を飛ばしたりする「グレーゾーン戦術」、人権問題を巡るタイへの圧力などが含まれる。日本に対しても中国は、台湾独立派による分裂活動と日本を含む外部勢力の干渉には断固反対するとの強い言葉で警告を発している。

  アジアでは過去数十年にわたり、米国が対中抑止力として機能してきた。しかし、トランプ氏がロシアに接近する一方、北大西洋条約機構(NATO)同盟国に懐疑的な姿勢を示し、さらには友好国にも関税を賦課するなどの行動を取っていることで、最近では安全保障上の信頼できるパートナーとしての米国の立場に懸念が強まっている。

  トランプ氏は台湾に防衛費の負担増を求め、日米安全保障条約を巡っては、米国は日本を守る義務があるものの、日本はそれと同様の安全保障を提供していないとして不満を示した。

  一方で中国当局はアジア域内での影響力行使において、米国の報復を招かないよう瀬戸際を見極めながら動いている。

  英国の独立系シンクタンク、チャタム・ハウスのアジア太平洋プログラムの研究員ビル・ヘイトン氏は「中国はあらゆる方向に圧力をかけて、どこまで行けるかを試している」と指摘。「行けると判断すれば進むが、抵抗に直面した時には立ち止まって状況を見極めようとするだろう」と語った。

習氏とのディール

  ヘグセス米国防長官は今週に開始するアジア歴訪で、安全保障上のパートナーであるフィリピンと日本を訪れる予定となっている。同氏は米国の継続的な支援というメッセージを伝える一方で、アジアの同盟国は防衛費を増額すべきだというトランプ氏の要求を強めるとみられる。

  トランプ政権の外交方針について、アトランティック・カウンシルのジオエコノミクス・センターでシニアディレクターを務めるジョシュ・リプスキー氏は「通商政策が基本だ」と指摘。「バイデン政権は違った。中国を米国にとって最大の敵対国とみなす安全保障最優先のアプローチだった」と語った。

  トランプ氏はアジアにおいて中国の影響力拡大を阻止したいと考えているが、実際にはその取り組みを緩めていると、人道対話センターでシニアアドバイザーを務めるマイケル・バティキオティス氏はみている。

   同氏は、パナマ運河を取り戻そうとする動きなどを引き合いに、「トランプ氏が求めているのは利益であり、ディールだ」と指摘。その上で「私の直感では、習氏が求めるのは『台湾問題から手を引け』ということだろう。トランプ氏はそれに同意するかもしれない」と語った。

原題:Xi Tests US Allies in Indo-Pacific as Trump Focuses Elsewhere(抜粋)

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