発売から2年半が経過してマイナーチェンジを実施したマツダの「CX-60」。何を改良したのか早速試乗してみた
マツダの「CX-60」が大幅な商品改良を行ない、2月21日から発売を開始した(PHEVモデルは3月中旬発売予定とのこと)。機種体系の見直しが実施され、価格は326万7000円~646万2500円だ。
そもそもCX-60は、エンジンからプラットフォームまで刷新したマツダの次世代ラージ商品群を支える1台として2022年にデビュー。3.3リッターの直6ディーゼルを縦置きで搭載し、FRベースの4WDモデルとして鳴り物入りでデビューしたが、トルクコンバーターレスのトランスミッションはなめらかな変速を苦手としていたり、ハイブリッドモデルにおける巡航時にi-stopからの復帰において減速Gが出たりなどの課題を抱えていたように思う。
また、サスペンションは独特な考え方で成立しており、リアのトー変化を嫌ったマルチリンクの採用に始まり、ピッチングセンターは車両後方へ飛ばすことを行なっていた。それだけが理由ではないが、実際に乗れば不整地路面における瞬間的な入力に対して弱く、突き上げ感が強い傾向にあったのは否めない。一方で、揺らぎが始まると上下動が収まらずにリアが常にバウンスする感覚。巡航時には直進安定性が薄いといったことも気になったことを思い出す……。
1台目の試乗車は「XD-HYBRID Premium Modern」で、駆動タイプは4WD。本杢や織物、伝統的な工法を用いた日本の美を感じさせるモデル。旅行などで長距離を走ることが多い人や、山道などを走ることが多くパワフルに走りたい人、発進や合流での加速もパワフルで余裕のある走りを楽しみたい人向けモデルだ。ボディカラーはマシーングレープレミアムメタリック
全グレードともにボディサイズ4740×1890×1685mm(全長×全幅×全高)に変更はなく、ホイールベースも同様で2870mm。ロングノーズ&ショートデッキの力強く動きのある骨格と、「生命体が地面に踏ん張り、後ろ足で前に向かって跳躍するような生命感」を表現した魂動デザインは継承
48Vマイルドハイブリッドシステム“M Hybrid Boost”を搭載する「e-SKYACTIV D」は、直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジン(最高出力187kW[254PS]/3750rpm、最大トルク550Nm/1500-2400rpm)とモーター(最高出力12kW[16.3PS]/900rpm、最大トルク153Nm/200rpm)が組み合わせられる。トランスミッションは8速AT
試乗車2台目は、外装をブラックで引き締めスポーティさを研ぎ澄ませた新グレード「XD SP」で、駆動タイプは4WD。ボディカラーはソウルレッドクリスタルメタリック
「ブラッククローム」のサイドシグネチャーガーニッシュ(テクノロジーバッジ「INLINE6」付き)や「グロスブラック」のドアミラーも装備する
「ハニカムタイプ(ピアノブラック)」のフロントグリルと「ブラッククローム」のシグネチャーウィングが特徴となる
XD SP専用となる20インチホイール(ブラックメタリック塗装)
搭載する直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジン「SKYACTIV D」は、最高出力170kW(231PS)/4000-4200rpm、最大トルク500Nm/1500-3000rpm。トランスミッションは8速AT
試乗車3台目は、2台目と同じ直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジン「SKYACTIV D」を搭載する「XD L Package」だが、駆動タイプは2WD(後輪駆動)だ
ボディカラーはロジウムホワイトプレミアムメタリック
今回の変更は多岐にわたる。まず、フロントサスペンションはダンパーの減衰力、そしてナックル締結ポイントの変更を行なっている。バンプするとトーアウトになるが、以前のモデルではその量が少なく、今回はトーアウト量を増やすことで安定性を出しているという。
リアサスペンションはスプリングレートやダンパーの減衰力、バンプストッパー特性、スタビライザー、クロスメンバーブッシュ、サスペンションリンクブッシュの特性変更を行なっている。また、バネレートは落としつつも、減衰力は引き上げたとのことで、10%ほどそれぞれ変更したそうだ。
今回の改良ではハードと制御の最適化を行なうことで、CX-60の持つ潜在能力を引き出したという
新たに「なめらかさを測る指標」を追加しつつ、技術の進化で“なめらかな走り感”を実現させた
さらにブッシュマウントは前後と左右の特性を分けるために、“すぐり”と呼ばれる空洞を開けているが、その特性を見直し、搭載方向も見直したという。結果として瞬間的な入力に対して徐々に反発するプログレッシブな特性を持たせることに成功したそうだ。加えてバンプストッパーを短くして、すぐに当たっていたところを改善しているとのこと。
トップグレードのHD-HYBRYDのAWDモデルから走ってみた
まずはトップグレードのHD-HYBRYDのAWDモデルから走ってみる。そこでまず感じたことは荒れた路面であったとしても、リアからの強烈な突き上げ感がないことだった。全体的にかなり引き締められたにも関わらずこのフィーリングは好感触だ。入力があったとしても、即座に収束する感覚にあふれており、フラットに乗れるようになったところもうれしい。以前のようなリアがいつまでもバウンスしていた感覚はもうない。また、高速道路に乗って揺らいでも、直進安定性が崩れることもなかった。
i-stopから復帰するときも減速感が出るようなことはなくなった
懸念材料だったi-stopからの復帰においても、減速感が出るようなことはなくなった。高速巡航状態で低負荷になるとエンジンが止まる機能なのだが、そこからの復帰で従来はガクンと減速感が出ていた。それが新しいプログラムではきちんと回転同調が行なわれ、減速Gが出ないように改められていた。
これは従来モデルに乗るユーザーにもサービスキャンペーンを行ない改められたとのことだから、もう問題を抱えているような車両は少ないだろう。また、各ギヤのつながりもなめらかな感覚が備わった。それでいてダイレクト感が損なわれていないところもいい。
マイチェン前のリアがいつまでもバウンスしていた感覚はもうなかった
エンジンは力強くリニアさにあふれている。音も調教されているが、上り勾配でギヤをホールドしすぎてノッキング音がチリチリと感じるところがやや気になる。効率優先で仕方ないかもしれないが、やはり適度なギヤを選んで音は解決してほしいような気もする。
続いて乗ったXD SPというノンハイブリッドモデルは、先ほどよりもさらにしなやかに調教されている感覚があった。スポーティを意味する「SP」という文字とは裏腹に、路面からの当たりが柔らかく、程よく肩の力が抜けた感覚がある。
2台目の試乗は新グレードのXD SP。今回もっともバランスがよく感じられた1台
パノラマルーフが付いてないせいか、はたまたハイブリッドが降ろされているからか? こちらの車両重量は80kgも軽い1870kg。いろいろとのちに聞いてみたが、実は重量は違っていても足まわりは同じ。重い方がどっしりとしていて乗り心地もよさそうなものだが……。
実は2台の違いはホイールだそうで、ハイブリッドモデルのホイールは空力などの燃費対策とNVH対策を施しているため、数百g重く、15%ほど剛性が高いという。結果的に減衰がよく効く設定ではあるが、硬いタイヤが付いたようなフィーリングになるのだという。ただXD SPのホイールは程よく入力をいなしてくれる感覚があり、即座に減衰はしないがマイルドなフィーリングを与えてくれる。
ホイールの剛性が異なるからか、とてもマイルドなフィーリングだった
最後に乗ったXD L Packageの車重は1820kg。4WDじゃなくFRなので当然ながら軽くて軽快な身のこなしをしてくれる感覚。アクセルを踏めば即座にリアだけにトルクが流れてしまうこともあり、リアが一気に沈み込むようなフィーリングや、フロントのバタツキなど、やや荒々しいところが見え隠れしていた。ただ、以前のように一定の円弧を描いてコーナリングしにくいなど、先読みできない動きはなくなったように思える。
最後に乗ったのはXD L Package
このように、今度のCX-60はマツダにもあったという自覚症状をかなり払拭できたように感じる。方向性をひと言で語るなら全体的に引き締めてネガを消したという感じ。これがスタート地点であってほしかったというのが正直なところだ。
今後はこの動きを保持しつつ、しなやかさが出てくれたら最高かもしれない。いずれにしても、独特な考え方のシャシーを残しつつ、このフィーリングが出せるなら、マツダのラージ商品群の未来も明るいかもしれない。シリーズ全体がこんな仕上がりになってくれたらうれしい。
マツダは「これからもラージ商品群の乗り味の改良は続けていく」とのことだ
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