本来、誰もこんなことを口にする必要はないはずだ。しかし、手遅れになる前に大きな声ではっきりと伝えなければならない。米国はスタートアップではない。もしスタートアップのように運営すれば、必ず破綻する。

“米政府の乗っ取り”

イーロン・マスクによる連邦政府の中核機関の乗っ取りに関連するニュースが次々と報じられている。その量の多さと規模の大きさもさることながら、世界一の富豪が権力を掌握するのを「Big Balls(大きいタマ)」と名乗る19歳の若者が手助けしているという、あまりにもカオスで荒唐無稽な状況に理解が追いつかない。しかし、これをどう捉えればいいのかは明白だ。

ドナルド・トランプは米国の大統領になったが、マスクは米国の最高経営責任者(CEO)になろうとしているのだ。

これはどう考えても問題である。マスクはいかなる公職にも選ばれておらず、政府と数十億ドル規模の契約を結んでいる上に、@redpillsigma420のような陰謀論を振り撒くXアカウントをもち上げることで他者を煽動し、自らも極端な考えに傾倒している。

マスクの取り巻きは米国政府の人事部門と情報技術部門を掌握し、民主主義を動かす歯車とも言えるデータとコードベースを好き勝手に改変できるよう、熱心な元インターンたちで構成される精鋭部隊を送り込んだ。こんなことが起きていいはずがない。

しかし、実際にそれが起きている。このような乗っ取りは政府にとっては前例のない事態だが、マスクにとってはいつもの手法にすぎない。現在のマスクの行動は、2022年のツイッターの買収時の行動と驚くほど一致している。労働力の大半を削減して忠誠心のある人材を配置する。そして安全策を撤廃し、思い描いた通りにすべてをつくり替えているのだ。

これこそがスタートアップのやり方である。泥臭く、型破りで、試行錯誤を繰り返す。それが、マスクの側近たちが身を置いていた世界であり、いま人事管理局(OPM)や一般調達庁(GSA)に押し付けようとしていることなのである。

マスクの狙い

マスクとマスクの側近たちは何をしようとしているのか? 目標はいくつかある。

まずは人工知能(AI)の導入だ。マスクら全員がAIを求めている。特にGSAでの導入を狙っている。政府の主要なIT部門であるGSAを統括しているテスラの元エンジニアは、AIによるコーディングエージェントこそ公的機関に必要と考えているのだ。

大規模言語モデル(LLM)は効果を発揮するかもしれないが、本質的かつ構造的に信頼性に欠けるという点をマスクらは考慮していない。AIエージェントは基本的に特定のタスクを実行するチャットボットであるが、その信頼性も検証されていない。

さらに、AIは単に情報を出力するだけでなく、情報を取り込み、最先端の次世代モデルの訓練データとして活用できるという点も無視されている。そして、驚くべきことに、イーロン・マスク自身がAI企業を所有していることに誰も気づこうとしないのだ。まったく異常な話である。

データについて言うと、マスクらはそれも求めている。DOGEの職員は米国の財務省、海洋大気庁(NOAA)、中小企業庁(SBA)、疾病予防管理センター(CDC)、メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)、教育省、保健福祉省(HHS)、労働省に配置されたり訪れたりしている。おそらく、ほかの公的機関にも関与しているだろう。

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