クリントン元米大統領の政治顧問だったジェームズ・カービル(80)氏は「生まれ変わるなら債券市場になりたい。債券市場は人々を恐れさせるからだ」と語ったことがあった。
米国債市場は再び人々を恐れさせており、政治家も他の皆と同様に恐れるべきだ。
今回の米国債急落は複雑で不吉なものだ。
また、米国に限ったことでもない。欧州の債券利回りも2023年後半に付けた高水準を試している。主要中央銀行が政策金利を引き下げたことで、23年の水準がピークになるとの確信があったが、それが今揺るぎ始めている。
It Ain’t Over Til It’s Over
The 2023 peak in government bond yields is being tested
Source: Bloomberg
売りの主な対象である期間が長めの債券の動きは、中銀の行動への短期的な期待以外のものにも依存している。
2年物と10年物の米国債利回りの差は過去2年6カ月で最も大きくなっている。長く続いた逆イールドの後、イールドカーブはここ数週間で急速にスティープ化した。ただ、歴史的な標準から見ればまだ特に急ではない。
Thoroughly Dis-Inverted
The Treasury yield curve is its steepest in 30 months
Source: Bloomberg
米連邦準備制度を非難したくなるのは自然なことで、当局が50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の「ジャンボ」利下げで緩和を開始した昨年9月から今までの間に、市場の期待が大きく変化したのは事実だ。
当時の予想では、今年の半ばまでに金利は3%を大きく下回るだろうと考えられていた。今では4%まで下がるかどうかさえ、微妙なところだとみられている。フェデラルファンド(FF)金利先物は、今後6カ月の間に少なくとも1回の利下げがあることをもはや確実視していない。
Expectations Changed, Changed Utterly
Since the September jumbo cut, rate-cut hopes have evaporated
Source: Bloomberg World Interest Rate Probabilities
他の条件が同じであれば、このような期待の変化は利回りを上昇させる。しかし、当局が昨年9月に利下げを開始した後の反応としては異例だ。下のチャートが示すように、いったん利下げサイクルが始まると長期債利回りがこのように反発することは通常ない。
インフレは債券から得られる将来の収入の価値を損なうため、論理的にはインフレ懸念は利回りを上昇させる。しかし、固定利付債とインフレ連動債の利回りの差が示すインフレ期待は、ここ最近上昇しているとはいえ、大局的に見れば極めて安定している。債券市場はインフレについてまだ安心していることが示唆される。
Well Anchored
The bond market does not as yet show any great alarm about inflation
Source: Bloomberg
債券利回り上昇が米金融政策とインフレに対する期待の単純な再調整でないなら、なぜ起こったのだろうか。
答えを知るにはタームプレミアムを見るのが最善だ。タームプレミアムは、投資家が長期債保有のリスク、つまり保有期間中に金利が変化するリスクを負う代償として求める上乗せ利回りだ。
このコンセプトは、金融政策に直接起因しない利回りの上昇や低下を説明する。興味深いことに、タームプレミアムがマイナスであった時期が長く続いた後、現在では過去10年で最高となっている。
The Highest Term Premium in a Decade
Investors are back to wanting protection against longer-term risks
Source: Bloomberg
なぜタームプレミアムが上昇しているのかというと、それは政治的リスクがあるからだ。米選挙での共和党の圧勝は放漫財政への懸念を高める。債券市場は米議会の膠着(こうちゃく)状態を好む。トランプ氏の大統領復帰に伴う政策の不確実性は、当然ながら投資家に高いタームプレミアムを求めさせる。
それに加え、需要と供給の力がある。企業は新年を祝って盛大に社債を発行したが、大量発行は当然、全ての債券が提供しなければならない利回りを上昇させる傾向がある。
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イエレン財務長官の下で米財務省は例年よりはるかに多くの資金を超短期の借り入れで調達している。これは長期債の供給を減らし、利回りを下げる効果がある。
一方、トランプ大統領が後任に指名したスコット・ベッセント氏は、長期債の発行に戻したいと考えている。長期債の供給が増えれば利回りは上昇する傾向があり、投資家はそうなることを予想している。
最も重要なのは長期的なトレンドかもしれない。1980年代初期にポール・ボルカー氏がインフレを抑えてから数十年間、10年物米国債利回りはグローバル金融において最も予測可能なパターンにのっとり下降トレンドにあった。利回りが上昇してこのパターンを脅かすたびに、ブラックマンデー、オレンジ郡の財政破綻 、ドットコムバブルの崩壊、世界金融危機といった危機が勃発し、利回りは低下した。
しかしそれはもう終わった。今回の利回り上昇は、下の図で示したように、新たなトレンドが形成されつつあることを示唆している。
人口動態から説明することもできるし、インフレ心理への回帰や米国の財政状況が持続可能かどうかへの懸念から説明することもできる。
現時点でのポイントは、さまざまな力のバランスが利回りを押し上げているということだ。
30年以上にわたって国際資本市場を支配してきたのは、さまざまな意味での下降トレンドだったが、当面は利回りが下降トレンドではなく上昇トレンドになるという考えに慣れ、それに従って行動を変えることが理にかなっているかもしれない。
(ジョン・オーサーズ氏は市場担当のシニアエディターで、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ移籍前は英紙フィナンシャル・タイムズのチーフ市場コメンテーターを務めていました。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Bond-Yield Breakout Is Much More Than Inflation: John Authers(抜粋)
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