AMDが発表した新CPU&GPU。これほど大量の製品を一斉に発表するのは前例がないほどで,力の入れようがうかがえる
米国時間2025年1月6日,AMDは,米国・ラスベガスで1月7日から行われる大規模展示会「CES 2025」に先だって開催した独自イベントで,次世代GPUアーキテクチャとなる「RDNA 4」を採用する新型GPU「Radeon RX 9000」シリーズを発表した。
また同時に,大容量L3キャッシュメモリを実装したデスクトップPC向けの最上位CPU「Ryzen 9 9950X3D」や,携帯型ゲームPC向けの新世代APU「Ryzen Z2」シリーズ,AI処理ユニットを内蔵する「Ryzen AI MAX」シリーズも発表している。本稿では,ゲーマーの注目を集めそうな製品に絞って簡単に紹介しよう。
2025年1月7日9:30頃追記:初出時,タイトルに誤記がありました。訂正してお詫びいたします。
Radeon RX 9070 XT&9070
RDNA 4アーキテクチャを採用する初のデスクトップPC向けGPUとして,「Radeon RX 9070 XT」と「Radeon RX 9070」が発表となった。搭載製品の登場時期は2025年第1四半期を予定している。
ただし今回は,NVIDIAが今後発表すると予想されている次世代GPU「GeForce RTX 50」シリーズを牽制するための発表という印象が強く,GPUの細かい仕様については明らかになっていない。発売時期に合わせて,詳細も明らかにしていくだろう。
Radeon RX 9070シリーズは,ASRockやASUSTeK Computer(以下,ASUS),GIGABYTE,Sapphire,PowerColorといったお馴染みのブランドから搭載カードが登場する
仕様は明らかになっていないものの,AMDの説明によると,Radeon RX 9000シリーズからは名称における4桁ナンバーの表記ルールを変え,型番の末尾2桁を揃えることで競合となるNVIDIA製品と比較しやすくするという。
簡単に言えば,Radeon RX 9070シリーズは,NVIDIA製品における「GeForce RTX 4070」シリーズをターゲットとした性能を有するわけだ。同様に,Radeon RX 9000シリーズのミドルクラス市場向けとなる「Radeon RX 9060」シリーズは,「GeForce RTX 4060」シリーズ対抗という位置付けになる。
「それなら,GeForce RTX 5070が登場したらどうなるんだ?」という疑問が真っ先に浮かぶものの,あくまでも発表済みの競合製品と比較すると,ということのようだ。
GeForce RTX 40シリーズと比較したときのRadeon RX 9000シリーズの位置付け。末尾2桁が同じ数字の製品に対抗する
アーキテクチャやGPU仕様の詳細は明らかになっていないものの,AMDは,RDNA 4向けに開発した新しい超解像&フレーム生成技術「AMD FidelityFX Super Resolution 4」(以下,FSR 4)については,簡単に説明している。
AMDによると,FSR 4は機械学習技術を用いた超解像度技術とのこと。NVIDIA独自の同種技術「DLSS」と同じように,GPU内のAI処理ユニットを超解像処理に用いるのかもしれない。また,4K(3840×2160ドット)解像度に耐えられる高品質な超解像処理を実現しているほか,高性能なフレーム生成や,AMD独自の遅延低減技術「Radeon Anti-Lag 2」にも対応するという。
FSR 4はRDNA 4向けに開発された超解像&フレーム生成技術となる
そのほかにも,AMD Softwareから利用できる生成AI機能も実装されるようだ
Ryzen 9 9950X3D,9900X3D
Ryzen 9 9950X3Dと「Ryzen 9 9900X3D」は,2024年11月に登場した「Ryzen 7 9800X3D」に続く,第2世代「AMD 3D V-Cache Technology」(以下,3D V-Cache)を採用するデスクトップPC向けCPUのハイエンド市場向け製品である。
発売時期は2025年第1四半期の予定だ。
Ryzen 9 9950X3D
Ryzen 9 9950X3D:16コア32スレッド,定格クロック 4.3GHz,ブースト最大クロック 5.7GHz,L2+L3キャッシュメモリ容量 144MB,TDP 170W
Ryzen 9 9900X3D:12コア24スレッド,定格クロック 4.4GHz,ブースト最大クロック 5.5GHz,L2+L3キャッシュメモリ容量 140MB,TDP 120W
最大8基のZen 5世代CPUコアを実装したCPUダイ(CPU Complex Die,以下 CCD)を2基と,1基のI/O Dieで構成する点は,既存の「Ryzen 9 9950X」と変わらない。
Ryzen 9 9950X3DとRyzen 9 9900X3Dでは,2基のCCDの片方に容量64MBの第2世代3D V-Cacheを組み合わせることで,総容量128MBというL3キャッシュメモリを実現している。CPUダイの下に3D V-Cacheを置いた構成により,第1世代の3D V-Cache搭載CPUよりも,CCDの冷却効率が向上して高い動作クロックを実現できるようになったという特徴は,Ryzen 7 9800X3Dと同じだ。ゲーム用途には嬉しい改良と言えよう。
AMDは,第2世代3D V-Cacheによって,Ryzen 9 9950X3Dは「世界で最も優れたゲーム向けプロセッサ」になったとアピールしている。たとえば,前世代の3D V-Cache搭載CPUである「Ryzen 9 7950X3D」との比較では,平均で8%,Intel最新の「Core Ultra 9 285K」との比較では,平均20%も高いゲーム性能を発揮するとのこと。Ryzen 7 9800X3Dの高性能ぶりを考えれば,決して誇張ではなさそうだ。
上のグラフはRyzen 9 7950X3D,下はCore Ultra 9 285KとRyzen 9 9950X3Dのゲームにおける性能を比較したグラフ
ただ,3D V-Cacheを搭載するのはCCDの片方だけなので,CCDの性能は3D V-Cacheの有無で変わってしまう。そのため,ドライバソフト側と協調して,3D V-Cache搭載CCD側でゲームを実行させるといった対応が必要となる点は,Ryzen 9 7950X3Dと変わらないだろう。ゲームだけでなく,実況配信ソフトなども同時に動かしたいという人向けのCPUとなりそうだ。ノートPC向けにもついに3D V-Cache搭載CPUが登場
Ryzen 9 9955HX3D
AMDは,ハイエンド市場用のノートPC向けCPUとして,「Ryzen 9000HX」シリーズ(開発コードネーム Fire Range)を発表した。なかでも注目を集めそうなのは,ノートPC向けCPUとしては初めて,3D V-Cacheを搭載するCPU「Ryzen 9 9955HX3D」だろう。
ついにノートPCにも3D V-Cache搭載CPUが
ノートPCは消費電力と放熱機構の制約が厳しいため,これまでAMDは,3D V-Cache搭載CPUを提供していなかった。しかし,第2世代3D V-CacheによってCPUを冷却しやすくなったこともあってか,今回の製品化につながったようだ。その代わり,デスクトップPC向けRyzen 9 9950X3Dが,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)170Wでブースト最大クロック5.7GHzなのに対して,ノートPC向けのRyzen 9 9955HX3Dは,cTDPが55〜75Wでブースト最大クロックは5.4GHzに抑えられている。
Ryzen 9 9955HX3D:16コア32スレッド,定格クロック 2.5GHz,ブースト最大クロック 5.4GHz,L2+L3キャッシュメモリ容量 144MB,cTDP 55〜75W
Ryzen 9 9955HX:16コア32スレッド,定格クロック 2.5GHz,ブースト最大クロック 5.4GHz,L2+L3キャッシュメモリ容量 80MB,cTDP 55〜75W
Ryzen 9 9850HX:12コア24スレッド,定格クロック 3GHz,ブースト最大クロック 5.2GHz,L2+L3キャッシュメモリ容量 76MB,cTDP 55〜75W
Ryzen 9000HXシリーズ搭載PCは,2025年第1四半期に登場する予定だ。次世代Steam Deckにも採用!? Ryzen Z2
Ryzen Z2
ゲーマー向け製品のトリを飾るのは,新世代の携帯型ゲームPC向けAPUとなる「Ryzen Z2」シリーズだ。搭載PCは,2025年第1四半期に登場の予定である。
そもそも現行世代の「Ryzen Z1」シリーズが発表となったのは,2年近く前の2023年4月のこと。新世代APUの登場が待ち望まれていたのは間違いない。
Ryzen Z2シリーズは,3製品がラインナップされている。ただ,それぞれが搭載するGPUは異なるようで,実際のゲーム性能がどの程度違うのかは気になるところだ。
また,Z2シリーズ最上位モデルの「Ryzen Z2 Extreme」は,CPUコア数が8基であるのは既存の「Ryzen Z1 Extreme」と変わらないものの,3基の高性能コアと5基の高効率コアに分けられているという。
Ryzen Z2 Extreme:8コア16スレッド,定格クロック 2GHz,ブースト最大クロック 5GHz,L2+L3キャッシュメモリ容量 24MB,RDNA 3.5世代GPU,CU(Compute Unit)数 16基,cTDP 15〜35W
Ryzen Z2:8コア16スレッド,定格クロック 3.3GHz,ブースト最大クロック 5.1GHz,L2+L3キャッシュメモリ容量 24MB,RDNA 3世代GPU,CU数 12基,cTDP 15〜30W
Ryzen Z2 Go:4コア8スレッド,定格クロック 3GHz,ブースト最大クロック 4.3GHz,L2+L3キャッシュメモリ容量 10MB,RDNA 2世代GPU,CU数 12基,cTDP 15〜30W
Ryzen Z2シリーズの主な特徴。CPUおよびGPUの高性能化と,バッテリー駆動時間の増加がポイントだ
AMDは,Ryzen Z2シリーズを採用する携帯型ゲームPCとして,ASUSの「ROG Ally」シリーズや,Lenovoの「Legion Go」シリーズに加えて,Valveの「Steam Deck」も挙げている。本稿執筆時点では,次世代Steam Deckに関する情報は入っていないのだが,登場すれば携帯型ゲームPCの世界に,また旋風を巻き起こしそうだ。
Ryzen Z2シリーズ搭載PCの例として,Lenovo,ASUS,そしてValveのSteam Deckが挙げられている
Ryzen AI Max
Ryzen AI Max。メインメモリチップを統合しているのが特徴だ
ゲーマー向け製品ではないが,AMDは,ノートPC向けの新型APUとして,AI処理ユニットを内蔵する「Ryzen AI 300」シリーズの追加モデルと,「Ryzen AI Max」シリーズも発表している。なかでも注目が集まりそうなのは,Intel製CPUだけでなく,Apple製CPU「Apple M4 Pro」よりも優れた性能を有するというRyzen AI Maxだ。
末尾に「PRO」が付いたRyzen AI Max PROは,ビジネスPC向け管理機能を搭載するバージョンだ
Ryzen AI Maxシリーズは,最大16基のZen 5世代CPUコアと,RDNA 3.5世代のGPUコア「Radeon 8000S」シリーズ,さらにAI処理ユニットを統合したAPUである。メインメモリもパッケージ上に実装しているため,PCの性能を大きく左右するメモリバス帯域幅が高いのもポイントだ。
最上位モデルとなる「Ryzen AI Max+ 395」の場合,16コア32スレッド仕様のCPUに,CU数40基のGPU「Radeon 8060S」を統合。GPUコアの動作クロックは,最大2900MHzで,APU内蔵型グラフィックス機能としては高いクロックで動作する。
Ryzen AI Maxの主な特徴。メモリバス帯域幅は256GB/sと,Apple M4 Proの266GB/sに迫るほどだ。最大50 TOPSというAI処理ユニットの性能は,既存のRyzen AI 300シリーズと変わらない
ゲーマーにとって気になるグラフィックス性能では,IntelのノートPC向けCPU「Core Ultra 288V」と比べて,平均で1.4倍の性能を有するという。メモリバス帯域幅の影響もあれば,実際のゲーム性能も期待できそうに思える。
グラフィックスベンチマークソフト「3DMark」での比較では,Ryzen AI Max+ 395がCore Ultra 288Vを圧倒するという
Apple M4 Pro搭載のMacBookとの比較では,各種ベンチマークソフトで上回る性能を発揮するとのこと。残念ながら,ゲームグラフィックスの性能をApple M4 Proと比較した情報はないのだが,グラフィックス性能でも匹敵するのであれば,Ryzen AI Max搭載PCはゲーム用途でも有力な製品となるかもしれない。
M4 Pro搭載MacBookとの性能比較グラフ。CPU性能ではM4 Pro上位モデルと互角だが,それ以外のベンチマークテストでは上回る
実際,ASUSはゲーマー向け2-in-1 PCの「ROG Flow Z13」で,Ryzen AI Maxを採用するとのこと。ゲーマー向けノートPCの新潮流となることに期待したい。
Ryzen AI Maxのラインナップ。4製品が登場する予定で,2025年第1〜第2四半期に搭載製品が登場するという
AI処理ユニット内蔵のノートPC向けAPU「Ryzen AI 300」シリーズに,下位モデル計4製品が登場した
「Ryzen 200」シリーズは,ミドル〜エントリー市場向けノートPCを狙ったAPUだ。下位モデル以外はAI処理ユニットも内蔵する
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