「融雪型火山泥流は時速50キロ以上」専門家が警告 「津波と同じ」避難の重要性 岩手山噴火警戒レベル2 (24/12/12 22:53)
岩手県のシンボル、岩手山。その雄大な姿は多くの人々に親しまれているが、2024年10月、噴火警戒レベルが2に引き上げられた。
江戸時代には積雪がある季節特有の「融雪型火山泥流」とみられる現象も発生している。万が一への備えについて専門家に聞いた。
岩手県のシンボルとして親しまれる岩手山。
八幡平市、滝沢市、雫石町にまたがるこの山は、江戸時代の1686と1732年、そして大正時代の1919年に噴火を起こしている。
それ以降は噴火こそ起きていないが、2024年の春ごろから微小な火山性地震など火山活動の活発化が観測されるようになった。
気象庁は10月、火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生するおそれがあるとして、噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げた。
人の居住地域では普段通りの生活で問題ない一方、山の西側の想定火口からおおむね2キロの範囲で大きな噴石への警戒が必要とされている。
11月上旬以降は火山性地震の頻度は低下傾向にあるが、警戒レベル2は継続されている。
岩手大学地域防災研究センターの越谷信客員教授は、起こりうる様々な災害に備えるために、岩手山の特徴を理解することの重要性を強調する。
岩手山は火山学的に見ると、東経140度付近を境に「東岩手火山」と「西岩手火山」に分けて理解するのが分かりやすいという。
越谷教授は「東側がきれいな『片富士』と呼ばれるくらい裾野が滑らかに引いているのに対して、西側はゴツゴツしているように見える」と説明する。
岩手山の東側と西側では火山灰などの堆積物が異なっていることから、過去起きた噴火は東側はマグマによるもの、西側は水蒸気爆発による「水蒸気噴火」と考えられるという。
マグマ噴火と水蒸気噴火の違いは、マグマ噴火は地下にあるマグマそのものが上昇して吹き出し溶岩流などを発生させる。一方、水蒸気噴火はマグマで熱せられた地下水が水蒸気となって周囲の岩石とともに噴き上がる現象だ。
現在、主に警戒が必要なのは西側の水蒸気噴火とされている。
岩手大学地域防災研究センター 越谷信客員教授
「約1万年の間を(堆積物で)比較すると西側では水蒸気爆発の堆積物しかない。東側ではマグマ性の噴火がたくさん起きる。これがハザードマップを作るときの重要な根拠になっている」
岩手県などが作成した「岩手山火山防災マップ」は、これまでの噴火に関する調査を元に作られている。
西側は約3200年前の水蒸気爆発、東側は1686年のマグマ噴火と同規模の噴火を想定し、噴石や火山灰の到達範囲が記されている。
特に注目すべきは、雪のある時期特有の現象である「融雪型火山泥流」だ。マップでは、この現象の影響が想定される地域が青で示されている。
融雪型火山泥流は、山に積もった雪が溶けて火山灰や噴石と混じり、大量の泥流となって川などを流れ下る現象だ。その流れる速さは時速50キロ以上とされ、発生から数十分で山麓の居住地に到達する可能性があるという。
越谷教授は「『あっ』と見て走って逃げるという代物ではなく、津波と一緒で高台に逃げるというのが基本」と話す。
越谷教授はその危険性をこう強調する。「岩手山の山頂には2~3メートルの雪が積もると思うが、そういったものが非常に短い時間で溶ける。全部解けると単純計算で200ミリの雨量に相当する」
マップによると、火山泥流は岩手山の東側の火口から7方向に分岐し、滝沢市や八幡平市を中心に、盛岡市にまで到達する可能性があるという。
発生した場合、被害は大規模になるおそれがある。
こうした危険性を踏まえ、地域では防災への取り組みが始まっている。
岩手山山頂から約20キロ東に位置する盛岡市立渋民中学校では、火山泥流が到達するおそれがあるとされることから、11月に初めて噴火に備えた避難訓練を実施した。
訓練では生徒たちが火山灰対策としてゴーグルやマスクを着用し、避難場所となる小学校まで移動する手順を確認した。
越谷教授は、火山防災への意識を高めることの重要性を強調する。
岩手大学地域防災研究センター 越谷信客員教授
「岩手山はどんな火山で、何をどのような範囲で起こすのかということを知らないといけない。それをこのハザードマップを見てもらって理解を深めてもらう。逃げる場所だけではなく、逃げる道筋、避難経路もきちんと理解してもらう」
現状では普段通りの生活で問題ない一方で、状況を正しく理解し、万が一の事態に備えることも大切だ。
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