次は『こうのとりのゆりかご』、そして『内密出産』についてです。

『ゆりかご』の開設から15年余り、先日熊本市で開かれたシンポジウムでは母子の支援のあり方をめぐって意見の対立もみられるなど白熱した議論が交わされました。

パネルディスカッションでの議論、テーマの一つは『出自を知る権利』です。

『ゆりかご』に預けられその後 里親の下で育った宮津航一さんは明確に自らの考えを述べました。

【ゆりかごに預けられた当事者 宮津航一さん(熊本県立大1年)】
「私の場合は小学校低学年の頃にわかった。それまで全くわからなかったが、(育ててくれた)両親がしっかりと、わからないということも含めて真実告知をしてくれたことに本当に感謝している。僕は出自がわからないということも出自だと思っている。矛盾しているかもしれないが。子どもが出自を求めているときにしっかりと寄り添うこと、寄り添う姿勢を見せることが大きいと思っている」

親が育てられない赤ちゃんを匿名でも預かる、熊本市にある慈恵病院の『こうのとりのゆりかご』、2007年に運用が始まりこれまでの15年で161人が預けられています。

同じく慈恵病院が取り組む『内密出産』は2021年の最初の事例からこれまでに8例の出産が明らかになっています。

熊本市の慈愛園乳児ホームの潮谷佳夫施設長は現状に警鐘を鳴らしました。

【慈愛園乳児ホーム(熊本市)潮谷佳夫施設長】
「内密出産の子どもやこうのとりのゆりかごの子どもが増えてくると熊本県内の里親で対応できなくなっている現状にある。里親の数が足りない。こうのとりのゆりかごはだいたい母親一人の判断だが、内密出産には数人の大人の介入が存在している。誰がそれを判断し子どもたちが大きくなったとき納得できるように伝えられるのか。ゆりかごや内密出産の子どもたちを育てている者としてこの子たちの代弁者でもある。もし自分がこの子どもだったらと考える機会になってくれれば幸い」

野田聖子衆議院議員はこども家庭庁が4月に設置されるのを前に国の姿勢について述べました。

【野田聖子衆議院議員 元こども政策担当大臣】
「出自を知る権利は当たり前だが土台ができていないところを今つくっていると理解してほしい。国は具体的な現場の施策は持ち得ていない。皆さんが熊本でやってきたことで良かったことが国を通して全国の事例になっていく流れと受け止めてもらえたらいいと思う」

一方、『困窮した妊婦の支援のあり方』をめぐっては慈恵病院の蓮田健理事長と、
各地の産婦人科医が連携して妊婦支援を行う団体を設置している埼玉県の産婦人科クリニック・鮫島浩二院長の間で、見解の違いもみられました。

【あんしん母と子の産婦人科連絡協議会理事長・さめじまボンディングクリニック
鮫島浩二院長(埼玉県)】
「内密出産、特別養子縁組、シングルマザー。全く支援の手が届かないのはどれか。それは内密出産の生母たちだ。慈恵病院式の内密出産の最大の問題点はソーシャルワーク(社会福祉援助)を全くしないまま、悲しみに打ちひしがれた生母を元の環境に帰してしまうこと」

【『ゆりかご』『内密出産』を運用 慈恵病院・蓮田健理事長】
「一般的には(赤ちゃん遺棄など)事件になる人たちは病院を受診していない。
結局産婦人科としてはなす術がなくなってしまう。そこを何とか手を尽くしたいというのが『ゆりかご』『内密出産』の世界。そこはスタンスが違うと思った」

【あんしん母と子の産婦人科連絡協議会理事長・さめじまボンディングクリニック
鮫島浩二院長(埼玉県)】
「私たちは命を守るだけではなくて人生を守る支援をしてあげたいと思っている。そのためにはきょうは内密出産を支援しようというような雰囲気があったがそれでも私たちは内密出産にならない支援をしつこく追求していきたいと思っている」

【『ゆりかご』『内密出産』を運用 慈恵病院・蓮田健理事長】
「どうしたらいいのかとなると結局(妊娠に悩む女性は)知られたくないという気持ちが強い。ごく一部の人に対してはやはりそれを保障しなければならない」

【(終了後のインタビュー)潮谷義子元熊本県知事】
「二人は確かに差があるように見えたけれど、妊娠している人をきちんとフォローしていきたいという思いは共通していた」

【(終了後のインタビュー)熊本市で里親支援を行うNPO法人を運営・黒田信子 理事長】
「いろんな立場の方の本音が聞けてとてもよかったです」

【終了後囲み・蓮田健理事長】
「バトルもありましたけどこれは貴重な一歩かなと思います」

困窮する母子をどう支えるか引き続き議論を重ね、社会で考えることが求められています。

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