
『GUN FISH あなたの知らないフグの世界』
── 今回の1枚目のチラシは、料理ドキュメンタリー『GUN FISH あなたの知らないフグの世界』です。
みうら 「ガンフィッシュ」っていうのは、フグっていう意味なんですか?
── フグは英語だと“パファーフィッシュ”らしいですけど。
みうら うーん、もうタイトルからして「あなたの知らないフグの世界」じゃないですか(笑)。もちろん邦画ですよね?
── フグの別名が「てっぽう」だからGUN FISHって呼んでるみたいです。
みうら なるほどね。実は僕、昔からフグにすごく興味があったんですよ。
昭和時代、「カニ、フグ、スッポン」といえば「3大奢れば後輩一生ついてくる」だったじゃないですか。イメージとしてはカニ、フグ、スッポンとランクが上がっていくと思っていて、僕、一応スッポンもクリアしたんですけどね。
ただその頃やっていたテレビ番組で行ったので、そのときのスッポンがいくらしたかは知らないんですけど。しかも、ああいうのって大概、時価じゃないですか。せめて、フグまではちゃんと奢れる人間にならないとダメだと思ってたんで、一時期何人かは奢ったことがあるんですけどね。
── もはや大人のステータスですね。
みうら そうなんです。ウチの事務所に30年も務めてくれてる人も、どうやら初めはフグを奢って「うちに来ない?」って勧誘したみたいです。とりあえず大きな決断をしなきゃなんないときは、フグ、そんな時代があったんですよね。
フグを奢るって簡単に言いましたけど、僕の周りの年上の方はもっと高いフグを知っているんですよね。実は大変な世界なんだと教わったことがあります。一度、「奢らせて下さい」と申し出たこともあったんですが、「また今度な」と奢らせてくださいませんでした。
だったらというので、僕は自分でフグを捌ける人になればいいんじゃないかと『フグ調理検定必携』っていう本を買ったんです(笑)。
みうらさんが昔購入したという「フグ調理検定必携」本
──
そこまで(笑)。切り身じゃない丸ごとのフグってスーパーとかで見たことがない気がするんですけど、普通に買えるんですか?
みうら いや、そこはね、この本には書いてないし、よく知りません(笑)。
── 仕入れについても教えてほしいですよね。
みうら それはフグ料理屋にバイトか何かで入るのが先なのかもしれないですね。そこはすっ飛ばして考えてたもんで、てっきりこれを読めば捌けるんじゃないかと思ってたんでしょうね(笑)。ま、その話、30年近く前の話なんですけど、そのままうちの本棚に押し込んでたところ、このチラシのおかげでお見せすることができたってわけで。このドキュメンタリー映画を予想するために買ったんだなとすら思えます。
── では、本を買っただけで調理はしてなかった?
みうら もちろん、してません(笑)。全然してないんです。本を買うことでもう満足しちゃったんでしょうね。本を買って、免許を取ったような気になってました。とにかく“あなたの知らないフグの世界”のことは、たぶんこの本を読めば大体分かるんじゃないかと。
──
チラシのウラ面によると、監督自身も取材を重ねる中でフグの魅力に取りつかれ、フグ取扱登録者になったようです。
みうら やっぱ、そうでしたか。おいくつぐらいの方か分からないけども、ちょっといい調子になってフグを年下の人に奢ってた世代の方じゃないかと。
ひょっとするとこの監督も『フグ調理師必携』を持ってる可能性があるんじゃないですか。えーと、この本をお書きになったのは、魚沼勝さんという方なんですけども。
── ふぐ調理師の本の著者が魚沼さんって、お名前が出来すぎじゃないですか?(笑)
みうら 確かに(笑)。この映画にも魚沼さんは出てこられるかもしれないですよね。斎藤工さんがナレーション、武田砂鉄さんがコメント書いてるのもなんかありますよ、このフグ映画。
── そうなると、映画自体にみうらさん向けのメッセージがありそうですね。
みうら 僕が『フグ調理師必須』本を持ってるってことは、きっとみなさんのお耳には入ってないと思いますけどね(笑)。
でもこれはハッキリ言えますよ。「三大奢る」の話で間違いないです(笑)。映画のオープニングにダーンッとヒエラルキーのピラミッドが出てきて、スッポン、フグ、カニの図解から始まるでしょう。だから次回作は、『スッポン』に決まってます。
── それは3部作ですか?
みうら はい。もう『カニ』は上映済みかもしれませんよ。
──
ちなみに今調べたら、魚沼勝さんは『新・ふぐ調理師必携』という2冊目も出してますね。
みうら マジですか。それはもう買わなくていいですよね(笑)。
ま、一度でもフグを奢られたことのある方は、観ておいた方がよさそうですよ。
『GUN FISH あなたの知らないフグの世界』
(C)GUN FISH FILM PARTNERS

『グルスポングの奇跡』
──
2枚目のチラシは、スウェーデンのドキュメンタリー『グルスポングの奇跡』です。
みうら そもそも「グルスポング」って何なんですか?
──
いや、知らないです。みうらさんが選んだチラシですけど、それも把握されてはいなかった?
みうら よく分からないから選んだので(笑)。でも、このチラシの女性、何かいわくつきに決まってますよね。僕が選んだんですか? まあそりゃそうですよね。この手のチラシに弱いんですよね。ホラーっぽくて好きなんですよ。なんか怖い感じしません?
── ちょっと『ツイン・ピークス』感がありますね。
みうら そうです。その『ツイン・ピークス』感がチラシを選んだ理由かもしれません。
── 「無限にねじれるラビリンス・ドキュメンタリー」と書かれてます。
みうら 「ラビリンス」といや、僕の世代はデヴィット・ボウイ主演と相場は決まっているんですが。このチラシの写真、首と体が不自然じゃないですか? 葬式の遺影にちょうどいい写真がなくて、喪服姿の人の写真の顔だけをすげ替えることってあるじゃないですか。これも身体に顔がつけてある感じがするんですよね。
とすると、おそらくこの人は死んだことになってますね。葬式はしたけど、実はこの人は生きていた!みたいな。きっと死んだことにしなきゃならない理由があったか、それとも行方不明になってる人が何年も帰ってこなくて、葬式は行ってしまったんだけど、記憶喪失になった状態で戻ってくるみたいな。それを「奇跡」って呼んでるんじゃないかって、このチラシを見て読み解いたんですけど。日本でいう「死んだはずだよお富さん」系映画ですかね(笑)。
──
オモテに「姉妹が偶然出会ったのは亡くなった姉にそっくりな女性」って書いてあります。みうらさんが言ったとおりですね。
みうら やはりね。何か犯罪に巻き込まれて、命を狙われてるんじゃないかな。で、妹たちが偶然立ち寄った奥多摩の方の喫茶店で、その姉にそっくりな女性は働いていた。
── 奥多摩の喫茶店で?
みうら はい。少なくともスウェーデンの奥多摩的なところだと思います。声を掛けてみたが、その方、記憶をすっかりなくされていて。いや、これも考えられますね。犯人がまだ生きているとのウワサを聞きつけて奥多摩にやってくるんですけど、実は犯人への復讐を誓った妹がおびき寄せてたってことです。
── ますますミステリーっぽくなってきましたね。
みうら あとね、チラシの写真、下の方にスポンサーみたいなロゴが入ってますよね。これも何か事件と関係あるんじゃないかと。
── 確かにめちゃくちゃたくさんロゴが入ってますね。何なんでしょうか?
みうら 妹が、広告業界にいるのかもしれないですよ。で、いろんなスポンサーを集めて、この写真を広告にして、雑誌や新聞に掲載したり、街中にポスターを貼ったりしてね。だからチラシのコピー、「真実に近づくほど家庭が壊れていく」っていうのは、被害者よりもむしろ犯人の家族のことかもしれないですよ。
その犯人にも家族がいて、もう逃げ切ったと思ってたところに、このポスターがあちこちで目に入る。協賛までついてますからね。
── その話がドキュメンタリーになっていたら、すごい実話ですね。
みうら 実話なんですか? そこは見逃してました(笑)。
『グルスポングの奇跡』
(C)2023, Ballad Film, SVT, Film i Vast, Film Stockholm, Mer Film, Good
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取材・文:村山章
プロフィール
みうらじゅん
1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』『アウト老のすすめ』『見仏記
三十三年後の約束』(ともに文春文庫/『見仏記…』はいとうせいこうと共著)など著作も多数。

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