『ふつうの軽音部』はどうやって生まれたのか


(c)クワハリ・出内テツオ/集英社

――ここからは『ふつうの軽音部』についてお話を伺っていきます。なぜ先生は音楽を題材にした青春マンガを描こうと思ったのでしょう。

クワハリ:そもそもマンガは商業連載のためとかじゃなくて、趣味として描き始めたものだったんですけど、音楽を題材にした物語とか音楽マンガが描きたいというよりは、自分が過去に軽音部の顧問をやっていた時代がありまして、「大人数の軽音モノのマンガはあまり読んだことないな、もしあったら面白いかもしれないな」と思ったのがひとつ。あと、当時趣味で自分の高校時代のエッセイマンガを描いていたんですけど、自分は女子との関わりが全然なかったので、女子があんまり出てこなくて(笑)。それを描いているうちに、フィクションとして女性を主人公にして物語を作りたいなという気持ちが湧いてきてという、その2つがきっかけになって描き始めました。

――確かに、これまで軽音部を題材にしたマンガの多くは、主人公とそのバンドメンバー中心になって物語が進行していくものばかりで。そういう点でも、『ふつうの軽音部』でのさまざまなキャラクターが交流していく風景はすごく新鮮でした。今おっしゃっていただいたように、クワハリ先生は過去に高校の教員として軽音部の指導をされてたこともあるそうですが、その頃の経験は実際の作中にどの程度活かされているのでしょう。

クワハリ:活かされているとしたら、その舞台ですよね。大人数の軽音部っていうのは人数が多い分、全員が一度に練習できなくて、部室以外に視聴覚室とかで練習したり、中には廊下で個人練習していたりする子もいて。そういう風景は、実際の作中でも活かされています。あと、必ずしも毎日部活に行かなくていいからバイトができるとか、そういう日常風景も反映されているのかな。なので、キャラクターとかそこで起きるドラマに関しては実際に体験したことを参考にしているわけじゃなくて、創作です。

――僕も学生時代、同級生とバンドを組んでいたりしましたが、『ふつうの軽音部』の作中ほどはバンド人口も多くなかったので、部室から溢れて廊下で個人練習するっていうシーンがとても新鮮でした。

クワハリ:軽音部って学校によって形態も違うと思いますし、読む人によっては「こんな軽音部じゃなかった」って言われるだろうな、とは思っていました。僕の場合は土地柄っていうのもあるかもしれないですが、大阪府の公立高校って軽音部が盛んな印象があって。教員時代は何校か行ったんですけど、どこも大人数だった記憶があります。

――クワハリ先生が指導されていた頃、学生の皆さんはどういう曲をよく演奏していましたか?

クワハリ:僕が関わっていたのがもう10年ぐらい前なんですけど、その時はKANA-BOONとかフォーリミ(04 Limited Sazabys)とかONE OK ROCKとか、あとは時代がちょっと違うけどELLEGARDENとかですね。

――主人公の鳩野ちひろを取り巻くいろいろなキャラクターが作中に登場しますが、物語を進めていく中で「こういうキャラクターがいると話が広がるな」とか、ストーリー展開に合わせて生まれたキャラクターもいるのでしょうか。

クワハリ:それはよくありますね。初期は構想してなかったけど、「こういうキャラクターがいると面白くなりそうだな」ということで新たに登場させることも多いですよ。

――そのキャラクター作りをする上で、これまで聴いてきた音楽や歌詞が反映されることは?

クワハリ:知らず知らずのうちに反映されている可能性はあるんですけど、あまり意識的にはやっていないですね。ふわっと登場させてから、「このキャラクターがこう歌うとしたら、こういうバンドの曲が合いそうだな」とか、描いていくうちに固まっていく感じです。

ライブシーンや歌唱シーンについて

――読んでいてすごく印象的だったのが、やっぱりライブシーンや歌唱シーンで。音楽を奏でている場面を絵や文字で伝える難しさってあると思うんですが、クワハリ先生はそことどう向き合ってきましたか?

クワハリ:そこは作画の出内(テツオ)先生の演出が、すごく効果的に表れているのかなと。そのキャラクターが歌っている曲の歌詞は、物語やキャラクターの心情をリンクさせることが多いので、それがうまく表現できるように意識しています。

――そこでの曲選びも重要になってくると思いますが、例えばそのキャラクターが歌った曲によってその後の物語が思いもしなかった方向に進んでいったり、登場する音楽から受ける影響っていうのはあったりしますか?

クワハリ:それはあると思います。それこそ「この曲を登場させたいな」と思った時点で、その曲がより効果的に響くように前後のシナリオを調整することもあるので、登場する曲からの影響はかなり大きいと思いますよ。

――物語の流れから選出される曲も多いと思いますが、クワハリ先生の中で「この曲だけは絶対に使いたかった」というこだわりの1曲って今までありましたか?

クワハリ:たくさんありますよ。最近だと、第119話に出てくるTHE PINBALLSの「ミリオンダラーベイビー」は、連載前から考えていた1曲なんですけど、連載していく中で新しく知ったバンドの曲を出させてもらったりすることもあります。

――THE PINBALLSは2021年に活動休止していて、決して誰もが知るというタイプの存在ではないですが、僕自身は何度も取材してきたバンドなので、その彼らの楽曲を2026年に『ふつうの軽音部』という作品を通じて久しぶりに出会えたことは、すごく嬉しかったです。

クワハリ:そうだったんですね。基本的に自分の好きな曲を取り上げさせていただいているんですが、「ミリオンダラーベイビー」みたいに今この時代を生きるロックファンだけが特に好きな曲だけでなく、時代を問わずいろんな曲を満遍なく登場させたいなとは思っています。

――幅広い邦ロックの中にはEveやyamaのような、いわゆる“歌い手”さんの楽曲も含まれています。そういうバンドの曲を高校生が演奏するという点も、非常に現代的だなと思いました。

クワハリ:そうですね。僕自身もこのへんはめちゃくちゃ好きですし、実際に今の高校生もそういう歌い手さんの楽曲をコピーしていると思うので、劇中で取り上げています。

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