「自然と海洋生態系の再生・回復のため、自然に休息の時間を与えるためのものです」「また10月にお会いしましょう」
タイのある国立公園のSNSには8月、こんな文章が投稿された。
人気映画のロケ地で有名になった、マヤベイ(マヤ湾)があるピピ諸島では近年、毎年8月と9月にマヤベイを含む周辺の複数の湾を「閉鎖」し、観光客の立ち入りを禁止している。環境保全の取り組みを行うためだ。
タイでの人気観光地「一時閉鎖」の取り組みから、「持続可能な観光」の形について考える。
(この記事に関するYouTube動画はこちらから)
映画きっかけでオーバーツーリズムに
ビーチやエメラルドグリーンの海が美しいマヤベイは近年、2カ月間にわたり観光客の立ち入りを禁止している。
閉鎖中の現在、マヤベイがあるピピ諸島の国立公園のSNSには、海洋ゴミの収集の様子や、珊瑚礁や海の生き物たちを守る活動の報告写真が連日アップされている。
閉鎖される8、9月はタイのモンスーンの季節で、強風や高波が頻繁に発生するため、海のレジャーをする観光客を守るという意味もあるが、観光により影響を及ぼしてしまった自然を回復する期間を毎年、2カ月間確保している形だ。

現在は2カ月の一時閉鎖となっているが、実は以前、2018年半ばから2022年始めまで、3年半にわたり閉鎖されていたことがある。
原因は、映画を発端としたにオーバーツーリズムの影響だ。
マヤベイは、2000年に公開されたレオナルド・デカプリオ主演の映画『ザ・ビーチ』で一躍有名となった。
幅わずか15メートル、長さ250メートルほどのビーチに、世界中からの観光客が殺到し、自然への配慮が行き届かないままにオーバーツーリズムが続いた結果、海の生態系などに大きな影響が出てしまったのだ。

打撃が致命的だったことから、3年半にわたり閉鎖し、珊瑚礁の再生などの集中的な活動が行われた。
現在は、またその美しい姿を一目見ようと世界中から観光客が集まってくるようになったが、生態系や自然への影響を最小限に抑えるため、オーバーツーリズムにならないよう、観光客の人数をモニターし公表。観光自体も自然に負担をかけすぎないような形で行われている。
環境破壊で「観光地の閉鎖」、フィリピンでも

実はフィリピンでも以前、観光が要因となり人気観光地を長期間閉鎖したケースがあった。
美しい海で有名なリゾート地、ボラカイ島では2018年に半年間、島全体への観光客の立ち入りを禁止した。
ボラカイ島はフィリピン有数の観光地で、島の全長7キロのうち、4キロにわたって続くホワイトビーチが有名だ。ビーチの周辺にホテルや飲食店などが立ち並ぶため、島全体が観光地のようになっている。
美しい海やビーチが魅力のボラカイ島だが、環境への影響で一番深刻だったのが、ホテルや飲食店の排水処理だった。
それらの施設は島の中央排水管に接続するか、各施設で小型の装置を設置する必要があるが、工事費用や設置費用を払いたくない施設が、そのまま雨水管などで海に排水を垂れ流しにしていたケースが相次いで発覚したのだ。
そのため、当時の大統領、ロドリゴ・ドゥテルテ氏が半年間の閉鎖による大規模工事を指示。閉鎖期間には大掛かりな排水管工事などが島の各所で行われた。

半年の閉鎖終了時にも、基準を満たした施設だけに営業許可が与えられた。
国内外から多くの人々が訪れる人気観光地のため、地元の人たちも含め、ホテルや飲食店、ツアー業者など観光業に携わる人たちの数も非常に多かったため、半年間の閉鎖は大量の失業者を出し、経済的な影響は多大だった。
政府も失業手当などで支援したが、半年にわたる長期の休業では、支援は十分ではなかった。
自然は一度壊れてしまうと回復に時間がかかり、生態系への影響も計り知れない。タイやフィリピンのケースのように、閉鎖まで至らないよう、日頃から環境に配慮したビジネスや観光の形を整備していくことが重要だ。
日本でも近年、沖縄県などで国際的な基準を導入し、珊瑚礁の保全に配慮したマリンレジャーのルールを整備したり、珊瑚を養殖したりするなど、サステナブル・ツーリズムが実践されている。
観光という人間の娯楽のために、自然を壊すことがないよう、施設や業者側、観光客側も双方で取り組んでいくことが大切だ。

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