第11回角川文庫キャラクター小説大賞〈優秀賞〉を受賞した『帝都おりえに屋のささやかな奇跡 明治異風小奇術譚』が2026年9月25日に発売になります。明治時代を舞台に繰り広げられる、ちょっと不思議な絆の物語。選考委員から絶賛の声を受け見事優秀賞に輝いた、大注目の作品です。著者の平本りこさんに、担当編集者が作品の魅力などについてたっぷりと伺いました。
取材・文:編集部
『帝都おりえに屋のささやかな奇跡 明治異風小奇術譚』刊行記念 平本りこインタビュー
作品が生まれるまで
――改めて、第11回角川文庫キャラクター小説大賞〈優秀賞〉のご受賞おめでとうございます! まずは応募作「明治異風小奇術譚~おりえに屋のささやかな奇跡~」が生まれたきっかけを教えてください。
平本:子どもの頃から、横浜山手の洋館を訪れることが何度もありました。横浜中華街から足を伸ばせる距離にあるエリアです。ちょうど本作の構想を練り始めた時期、中華街に遊びに行ったのですが、そのときふと、洋館が出てくるお話を書こうと思いつきました。中華料理に舌鼓を打ちながら、なぜあえて洋館だったのかはわかりません!(笑)でも、閃きというのは何がきっかけになるか読めないものですね。
小説を書くときは、題材から決めることが多いのですが、今回の応募作を練るにあたり明治時代に関する本を読んだり映画を観たりする中で、明治時代の奇術に関する話を目にし、おりえに屋の世界観が定まりました。
――ご自身の日常からヒントを得て作品が誕生したというのはとても素敵ですね! そうして着想を得た作品を賞へ応募されたのには何か理由がありましたか? また受賞されたときのお気持ちをお聞かせください。
平本:角川文庫キャラクター小説大賞は、今回で三度目の応募でした。一回目に応募した段階ではほとんど新人賞に出した経験がなく「私が応募していいのかな?」と迷っていて……。ですが、当時KADOKAWAさんの小説投稿サイトカクヨムに投稿していた作品が角川文庫キャラクター文芸をイメージして書いたものだったのと、カクヨム経由で簡単に応募ができたので、勇気を出して応募タグをつけてみました!
それから二度の落選を経て、これはもう「受賞できるまでやめられないぞ……!」と。
そうした気持ちになれたのは、二回目の落選の際、選考員の先生方が講評で「次回も」とお書きくださったことがきっかけです。また、チャンスをいただきながらも受賞に手が届く作品を生み出せていない私に何度も機会を与えてくださった編集部の方々のおかげでもあります。本当にありがとうございます。
なので今回受賞のご連絡をいただいたとき、嬉しかったのはもちろんなのですが、「やっと手が届いた……」とホッとした気持ちが大きかったです。
――何度も挑戦いただき、本当にありがとうございました! 本作は生き生きとした明治の雰囲気がとても魅力的な作品ですが、明治という舞台設定にされたこだわりや、執筆中に苦労されたことがあれば教えてください。
平本:物語を書くとき、「この舞台だからこそ展開できる物語を書きたい」と思うことがよくあって、今回もそうした気持ちから明治時代を選びました。
具体的には、主人公の一人礼れ央おはオリエニア公国という異国の血を引いていますが、当時の日本ではまだ西洋風の外見をした人は珍しかったと思います。そんな中で生まれる葛藤や人間関係を描いてみたかったのです。
また、現代よりもずっと海外が遠かった当時の人々にとっては、遥か遠くに不思議な力を扱う人たちが暮らす国があるのだと言われたとき「そうなんだ!」と納得しやすかったのではないかなと想像しました。
ところが実は明治時代の描写をするには知識に自信がなく、街の風景や当時の雰囲気を調べるのに苦労しました。比較的現代と時代が近いこともあってか資料がとても多く存在するので、資料には困らない反面調べきれなくて大変だったのです。
本作はファンタジーということで、イメージで書ける部分もあり救われました。とはいえ、できるだけ明治らしさを盛り込みたいと考えていたので、そんな作品に仕上がっていたら嬉しいなと思います。
――本作では「おりえに屋」「オリエニア公国」といった固有名詞がとても印象的でした! ほかにも常世と呼ばれる異界の様子や可愛らしい虹こう粒りゅうなど、作品オリジナルな言葉や世界がたくさん登場します。どうやって思いついたのか、またこだわったポイントなどがあれば教えてください。
平本:ファンタジー要素自体については、幼少期から不思議なことを妄想して楽しむのが好きだったこともあり、頭の中に大量のストックがあります!(笑)
そしてそのストックたちは、珍しいご飯を食べたときや興味深い話を聞いたとき、読書や旅行や博物館観覧など、新しい知識や文化に触れた際に生まれているような気がします。人生、ネタの宝庫です!
ですがオリジナルな言葉については、考えるのがとても苦手でして……!
執筆中はだいたいいつも名称が定まらず、「A国」「★」などの記号で仮置きして書き進め、後からイメージに近くて元ネタになりそうな言葉をひたすら調べます。
たとえばオリエニア公国は、自然豊かな北の方の国、ということでバルト三国を参考に実在しそうな国名を自分なりに生み出してみました。
改めて考えてみると、こだわりポイントは、ファンタジーとはいえ実在する何かと親和性がある空想をすることかなと思います。
――作品がうまれるきっかけのお話とも通じますが、日々の色々な出来事から着想を得られているんですね。だから完全なオリジナル世界観であったとしても、現代日本に生きる私たちの中に染みついている感覚とも親和性も高く、共感性のある素敵なお話になるのかなと思いました! そんな少し不思議な世界観をぜひ楽しんでいただきたいですね!
個性あふれるキュートなキャラクターたち
――おっとりしながらも故郷でなんとなく生きづらさを抱えている恵めぐみや、外見の美しさを仕事に利用しながらもその心の奥は見せない礼央など、魅力的なキャラクターたちが多数登場します。冒頭から恵を惑わすエーミルも、憎めないキャラクターで個人的にとても好きです!(笑)主人公二人の誕生のきっかけや、お気に入りのキャラクターがいれば教えてください。
平本:主人公二人のうち、先に生まれたのは礼央でした。
以前から、明治時代に日本で暮らす西洋人が葛藤するお話を書きたいと思っていたのですが、心理的に生きづらい環境の中で育ったらどんな性格になるのだろうかと内面を深掘りしていったところ、今のキャラクター像ができあがりました。
そんな礼央に影響を与える人物として生まれたのが恵です。
礼央が笑顔の裏に暗いものを抱えているキャラクターなので、彼の心の裏も表も包み込めるのは、同じ苦しみを抱えながらも人の愛情というものを知っていて、少し能天気なくらいの人物なのではないかなと思ったのです。
そしてエーミルを気に入ってくださり、ありがとうございます! 私も彼のふわんとしたキャラクターに愛着を抱いております。他のキャラクターで個人的に好きなのは虹粒ですね。愛らしい動きをするのに悪意なく対価を求めてくるようなシビアな面もあり……でもやっぱり基本的にはゆるっとしている。そんなギャップも気に入っています。ですがまさか、帯などでも虹粒を推してくださるとは夢にも思わず! 二重で嬉しいです。
――人間の理解を超えた存在でもある虹粒は、とても可愛いですが時に恐ろしい一面も持っていて、そのバランスがスパイスになっていて魅力的でした! それぞれのキャラクターもぜひお楽しみいただきたいです。
これまで読んできたもの、これから書いていきたいもの
――平本さんは、今回が三回目の応募でした。毎回まったく違う世界観・設定の作品を書いてくださっていて、そのバラエティ富んだ発想に毎回楽しく拝読していました。普段よく読まれるジャンルや、これまで読んできた中で好きな作品、影響を受けた作家・作品などがあれば教えてください。
平本:ありがとうございます! 普段から比較的幅広いジャンルを読んでおり、それが作品のバラエティにも表れたのかな? と嬉しく思います。
特に好きなジャンルは、ファンタジー、ホラーやミステリーでしょうか。時代小説も好きです。
大きな影響を受けたのは、子どもの頃に読んだ上橋菜穂子さんの「守り人」シリーズや『獣の奏者』、荻原規子さんの「勾玉」シリーズなどのファンタジーだと思います。小説というものが大好きになり、自分でも書いてみるきっかけになった作品です。今でも時々読み返しております。
あとは、『天使の囀り』など貴志祐介さんのホラー小説は多くの作品を楽しんでいますのと、最近では『おんなの女房』を読んだことがきっかけで蝉谷めぐ実さんの時代小説にどっぷりはまりました。
その他にも、好きな作品がありすぎて挙げきれません!
――本格ファンタジーからホラー、時代小説まで、本当に様々なジャンルを読まれてきたんですね。これから先、ご自身ではどんな作品を書いてみたいですか?
平本:幅広く何でも書きたいです!
普段から色々なジャンルのものを楽しんでおりますので、ジャンル問わず書いてみたいお話がたくさんあります。また、世界中の歴史や文化を知ることが好きなので、ジャンルだけではなく舞台も様々な場所に設定して書きたい気持ちもあります。
キャラクター文芸でいつか挑戦したいのは中華ファンタジーでしょうか。もう何年も書きたいと思っているのですが難しくて。とは言いつつ、今回明治時代を調べてみてまだまだ取り上げてみたい題材がたくさんあると気付いたので、こちらも捨てがたいなと思います。
キャラクターという観点だと、凸凹コンビが絆を深めていくのを見守るのが好きなので、性格が真逆の二人が活躍するお話も書きたいです!
――これからも色々なジャンルに挑戦されていくことをとても楽しみにしています!
最後に
――完成した文庫を見ての感想を教えてください。
平本:感激です。今でもまだ、夢を見ているのではないかと思っています。本屋さんで確認するまで実感が湧きません!(笑)
それくらい素敵に仕上げてくださった関係者のみなさまに、本当に感謝しております。
そして、こんな気持ちをこれから何度だって味わいたいという思いがとても強くなり、やる気がみなぎっているところです!
――読者の皆さんにメッセージをお願いいたします!
平本:主人公の恵と礼央は、明るく日々を過ごしながらも心の奥に傷を抱えています。でもそれは誰だって同じことで、読者の皆さまもきっと悩みをお持ちなのではないかと思います。
世の中、楽しいことばかりではありません。それでも私個人としては、誰かからもらった優しさは、見える世界を明るく変えてくれることがあるのだと感じています。
本作をお読みくださり、恵や礼央が見ている世界の変化に触れていただいたとき、皆さまの心が少しでも優しく癒されたなら、これ以上嬉しいことはありません。
どうかよろしくお願いします!
書名:帝都おりえに屋のささやかな奇跡 明治異風小奇術譚
著者:平本りこ
イラスト:細居美恵子
発売日:2026年09月25日
きらきら不思議な“虹術”であなたのお悩みを解決します!
時は明治。日本のはるか北西にあるオリエニア小国の奇術である“虹術”が、異国の女奇術師・喜き祭さい折おり栄えの人気とともに日本で一世を風靡するも、彼女の謎の失踪とともにその人気も下火になったころ。
山やま棚だな恵めぐみはある特異な体質のせいで、故郷で肩身の狭い思いをしていた。そんな彼女のもとにある日一通の手紙が届く。内容は、なんとオリエニア人の知人・エーミルからの求婚の手紙であった。恵はエーミルに会うため彼の住む帝都の邸宅に向かうが、しかしそこにエーミルの姿はなく、代わりに「おりえに屋」というなんでも屋を営む青年・冬ふゆ鳥どり礼れ央おと出会う。美しい容姿を持つ礼央は、“虹術”を使いながら「おりえに屋」に持ち込まれる人々の悩みを解決していた。恵も「おりえに屋」を手伝ううちに、いつしか二人の間には絆が生まれていき……。
派手ではないけれどささやかな虹術が、街の人々の、そして恵や礼央自身の心も癒やしていく。不思議な明治ファンタジー!
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