『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』

オリジナル・サウンドトラックの制作を大解剖!

7月に公開されるやいなや、話題が話題を呼んで社会現象を巻き起こしている『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』。その世界を時に神秘的に、時にユーモラスに彩るのが、トクマルシューゴと上水樽力による珠玉の音楽だ。さらに、出自も手法も異なる彼らのサウンドをまとめ上げたエンジニア原真人の手腕も光る。いまだ謎に包まれた部分が多い『ちいかわ』の世界を、3人の言葉から音楽の観点でのぞいてみよう。

Interview:Kanako Iida Photo:Chika Suzuki(portrait)

ちいかわ(CV:青木遥)。なんか小さくてかわいいやつ。不器用だけどがんばり屋さん。びっくりしたり嫌なことがあると泣いちゃう
ハチワレ(CV:田中誠人)。ちいかわの大好きな友達。カメラで写真を撮ることや、おいしいご飯を作って食べるのが好き。ひとつのものを大切に使うタイプ

画像左:ちいかわ(CV:青木遥)。なんか小さくてかわいいやつ。不器用だけどがんばり屋さん。びっくりしたり嫌なことがあると泣いちゃう
画像右:ハチワレ(CV:田中誠人)。ちいかわの大好きな友達。カメラで写真を撮ることや、おいしいご飯を作って食べるのが好き。ひとつのものを大切に使うタイプ

うさぎ(CV:小澤亜李)。怖いもの知らずでいつも元気いっぱい。どこに住んでいるのかは誰も知らない
セイレーン(CV:鈴木みのり)。歌が得意で人魚と共に行動している。ある理由から島民たちを襲っている

画像左:うさぎ(CV:小澤亜李)。怖いもの知らずでいつも元気いっぱい。どこに住んでいるのかは誰も知らない
セイレーン(CV:鈴木みのり)。歌が得意で人魚と共に行動している。ある理由から島民たちを襲っている

左から、上水樽力、トクマルシューゴ、原真人

写真左から、上水樽力、トクマルシューゴ、原真人

ルーツが違うのにやりたいものが共通

── TVアニメ『ちいかわ』ではトクマルさんがほぼすべての音楽を一人で手掛けていますが、この布陣で『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』に臨んだのはどんな経緯でしたか?

トクマル 大前提として『ちいかわ』が好きな人を集めようという狙いがありました。制作陣には、ただの劇場版ではなく“映画”を作るという強い思いがあって。僕ももし『ちいかわ』で映画ができるなら、アニメーション映画の歴史をリスペクトして、ど真ん中の王道のやり方で『映画ちいかわ』を表現したい、と思っていたんです。きっとそれが一番面白いと。それが一緒にできるのは、僕の中ではアニメーション映画の最初期を研究して理解している上水樽さんしかいませんでした。原さんは前から『ちいかわ』が好きと言ってくれていて、僕の音楽にも映画にも理解がある方なので声をかけました。僕と上水樽さんはルーツが違うのに、なぜかやりたいものが共通しちゃうんです。その間を取り持ってくれたのが、僕の性質とクラシックの性質を両方把握する原さんでした。

── 実際の制作はどのように進みましたか?

トクマル 最初に作ったのは、重要なシーンで使われる「島のうた」「くつずれ」「今日の日はさようなら」「うさぎラップ」でした。

上水樽 「島のうた」や「くつずれ」は、トクマルさんが作ったものを僕がいじり、それをまたトクマルさんがいじって、僕が解釈して……みたいに10往復くらいラリーをして作りました。

── データのやりとりはどのように?

トクマル 僕はいきなり楽器を鳴らして録音しちゃいますけど、上水樽さんはスコアから作るので、オーディオとMIDIを両方送りました。

上水樽 僕はSTEINBERG Doricoで書いた楽譜をオーケストラ音源のWALLANDER INSTRUMENTS NotePerformerで鳴らして、そのWAVとMIDIをまたトクマルさんに投げて、戻ってきたものを楽譜に取り込んで。二人でやるのでだんだん秘伝のタレみたいになってきます(笑)。『ちいかわ』はトクマルさんの世界観がばっちりあるので、正当にオーケストラで作りつつもどこかねじれた感じが出したいなと。僕自身は『トムとジェリー』などを手掛けた作曲家のスコット・ブラッドリーの研究をしてきたので、「セイレーンの襲撃」などではそういう技法も取り入れました。

── それはどのような手法なのですか?

上水樽 ブラッドリーは映像の動き一個一個の音を様式化したんです。振り向くときはこの音、ジャンプ前にエネルギーがたまるときはこの音とか。それを借用し、例えばモモンガが“びんよよ”(バネ付きの武器)で間違えて攻撃する場面は、バネが伸びてエネルギーがたまっていく登り坂のような和音を付けました。

トクマル 体系化されたものがあるんですか?

上水樽 和音というか“形”なんですよね。図形的な考えで楽譜を絵面として見ると大体の動きが分かります。

原 僕は(上水樽)力君のバックグラウンドをほぼ知らなかったのですが、楽譜を配られた奏者たちが玉数が多い部分で“難しい”ってなっていたり、演奏した音を聴いたりするうちにピンときて。“これ『トムとジェリー』のやつをやりたいんだよね? スコット・ブラッドリー好きよ”って言ったら“それで博士課程取ったんです!”となって、よし、つかんだ!って(笑)。

上水樽 ブラッドリーの名前が出てきて驚きました。オーケストラはAVACO STUDIOで原さんに録っていただきました。大編成に聴こえるように書いていますが、実際はほとんどが30人以内の編成です。今作は不思議と映画音楽史をなぞるような形になりましたね。全編にフィルムスコアリングの手法を採用しながら、「セイレーン討伐のアナウンス」は昔のサスペンス映画みたいな手法ですし、「ファイナル・カレーバトルⅢ」はキャラクターの活躍に合わせて場面を作る手法を採っていて、「くつずれ」や、登場キャラクターのテーマなど、いろんなモチーフが入っています。

トクマル 上水樽さんはフィルムスコアリングをオリジナルの手法から理解していて。

上水樽 本来フィルムスコアリングでは、映像のコマ数の設計を見て小数点以下までテンポを出して曲を作るんです。そこで今回は、フィルムスコアリング用の映像と音声の統合アプリをAIで自作しました。

ドリアン調で明るい歌にも怖い歌にも変化

── 作品のキーとなる一曲の「島のうた」はどのように作ったのでしょうか?

トクマル 「島のうた」は幾つかバージョンがあって、同じメロディ、同じ歌詞で明るい歌にも怖い歌にもなる変幻自在な曲にする必要がありました。そこで使いやすかったのがドリアン調で、これをメインに据えて明るさと暗さが同居するメロディにすると、全く同じメロディで少しコードやリズムを変えるだけで明るくも、美しくも、怖くも聴こえる。ジャズでよく使われるのですが、上水樽さんによるコンテンポラリー寄りのクラシックの要素が入って、いわゆるジャズっぽさは消えていきました。楽しげなシーンではパーティ感を出し、洞窟内では神秘的に聴こえるように仕込んで、多面性のある「島のうた」が成立するようにしました。

上水樽 イントロは“キラキラした月の感じが欲しい”ということで、怖くも美しいところを目指しましたね。正体が見えないので、空中に浮遊したような和音を使っています。

── 作中ではセイレーンと人魚が歌でハーモニーを奏でるシーンが多数出てきますが、音の重ね方はどのように作ったのですか?

上水樽 最初は僕が4度堆積で作ったんですけど、お互いに作っていきましたよね。

トクマル セイレーンが“ハァ~”と荒ぶるときは、2つの声が同時に出せちゃうような存在かなと思ったんです。そこに人魚2匹がどのハーモニーを足すかによっても場面によって聴こえ方が変わります。「島のうた(セイレーンver.)」ではセイレーンは冷静に歌うので2声は出さず、普通に1人と2匹の声で歌いますね。

原 怒っていないときは1声なんだ。

トクマル そうです。それと、セイレーンと人魚たちはバンドのような強い結束力があるかとも解釈しました。もともとセイレーンと人魚3匹でやってたけど、1匹いなくなってアンバランスになってしまう。そこでどうするか試行錯誤しながらハーモニーを歌ってると。

── 4人編成から3ピース・バンドに?

トクマル そう、バンドって1人抜けたらそのままやらずに欠けた分をどうするか考えると思うので……という感じで(笑)。

── 原さんは、映画館用の音楽のサラウンド・ミックスも手掛けたのですね。

原 楽譜から音楽をしっかり聴いてもらいたい気持ちがあふれていたので、狙ったものを全部聴いてもらえるようにマルチスピーカーにどう配置するかひたすら腐心していました。

トクマル “こう聴こえたらいいな”っていう想像を叶えてくれてすごくうれしかったです。

上水樽 全部統一感が取れたサウンドになっていて素晴らしかったですよね。

── どのような環境でミックスしたのですか?

原 自宅ではAVID Pro Tools統合のDolby Atmos Rendererでヘッドホンを使って仕込んで、東宝スタジオのダビングステージ2で微調整しました。ダビングステージを長い時間使えて本当にありがたかったです。

トクマル 東宝スタジオのダビングステージは1と2で全然音が違うんです。2は吸音が少し弱めの柔らかな音像で、映画館で聴きたい音像はこれかもと思っていました。

原 映画音楽ではセリフがかぶらないようにセンター・スピーカーをほぼ使わないのですが、ハチワレのセリフからそのまま歌に入る「今日の日はさようなら」は、ファンタム・センターだとセリフと歌の雰囲気が変に違ってしまうのでセンター・スピーカーを使いました。つながりが良くなりましたし、自宅での仕込みだけでは気づけなかった部分でしたね。

映画音楽の面白いところが詰まっているので子供たちの心の奥底に音楽の楽しさが根付いたら

原真人

原真人

【Profile】 フリーランスのエンジニア。直近の参加作品はゆず「幾重」、森山直太朗「愛々」、tico moon 『tico moon』、網守将平『白鳥とコウモリ(OST)』など。

『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』のミックス・チェックが行われた東宝スタジオのダビングステージ2。AVIDのコンソールS6(72フェーダー仕様)が鎮座し、スピーカーはELECTRO-VOICE Variplexなどを採用している

『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』のミックス・チェックが行われた東宝スタジオのダビングステージ2。AVIDのコンソールS6(72フェーダー仕様)が鎮座し、スピーカーはELECTRO-VOICE Variplexなどを採用している

東宝スタジオ内にあるマルチチャンネル対応の“サウンドデザインルーム5”で作業中の原(写真左)。モニター・スピーカーはGENELEC 8250A

東宝スタジオ内にあるマルチチャンネル対応の“サウンドデザインルーム5”で作業中の原(写真左)。モニター・スピーカーはGENELEC 8250A

Studio Tantaで行われた、セイレーン役の鈴木みのりのボーカル・レコーディング・ブース

Studio Tantaで行われた、セイレーン役の鈴木みのりのボーカル・レコーディング・ブース

AVACO STUDIOのRecording 301で行われた管楽器の録音の様子。コントロール・ルームには、SOLID STATE LOGICのアナログ卓SL4048E-VUやカスタム・メイドのラージがある

AVACO STUDIOのRecording 301で行われた管楽器の録音の様子。コントロール・ルームには、SOLID STATE LOGICのアナログ卓SL4048E-VUやカスタム・メイドのラージがある

SCHIEDMAYERのチェレスタを演奏するトクマルシューゴ

SCHIEDMAYERのチェレスタを演奏するトクマルシューゴ

Studio Tantaで行われた「机さする」のカルテット・レコーディング。NEUMANN U 67もしくはU 87系と思われるマイクが設置されている

Studio Tantaで行われた「机さする」のカルテット・レコーディング。NEUMANN U 67もしくはU 87系と思われるマイクが設置されている

自分の判断に対して意味付けをする

── トクマルさんはアニメ『ちいかわ』の放送開始からずっと音楽を手掛けていますね。

トクマル 2022年から始まったのですが、当時はまだ1分アニメが少なかったので、どう表現しようか悩ましかったですね。まずは漫画を見て曲をいっぱい作ってみようと思って、ジングルやキャラクターのテーマなどを作っていきました。

── 普段はどのような環境で制作を?

トクマル ここは打楽器、ここは鍵盤という感じで手の届く範囲の360度に楽器を置いていて、マイクはSENNHEISER MD 421、ROYER LABS R-122、NEUMANN U 87、TONEFLAKEのT47Sの4本を使っています。DAWは楽器の重ね録りと打ち込みが個人的に扱いやすいAPPLE Logic Proでやっています。

原 僕も聞きたい(笑)。作曲の取っかかりはギターで考えるんですか? それとも鍵盤?

トクマル 作り方を決めないようにしている感じはありますね。ギターが一番弾ける楽器なので、なるべく取っかかりをギターで作らないようにしています。僕にできることは何かを模索していて、手法をすべて使い切るというか、創造のきっかけは何でもいいんです。例えばペットボトルをたたいた音を録って、その高音を切って低音だけをベースにする、それが“うさぎの何々っぽい”とリンクしたらそれを使うとか。作りの発端を変えるのが唯一僕ができることで、それが楽しみでもあるので、自分が面白いと思った発見をいちいち使っています。自分が得意な楽器と作曲論を使えば音楽は作れてしまうんですけど、僕はサイケやプログレ、アバン・ポップ、トイポップなど割と定型外な音楽が好きなので、試行錯誤して行き着いたのがこれでした。

── 『ちいかわ』の漫画ではオリジナル曲を歌うシーンが多数出てきますよね。それらはどうやって歌メロを考えているのですか?

トクマル 曲を作る作業とその動機付けを同時にしています。漫画を読んで想像したメロディが全員一致することはないので、自分が漫画から聴こえる音楽を想像して何パターンか作る。その中で、自分の判断に対して意味付けをしなきゃいけないんですよね。例えば、ハチワレだったら、“どういう人生を歩んできて、どういう音楽遍歴を経ているんだろう”って考えて、よく日本語の曲を歌ってるし、日本の音楽文化を経ているな、とか。根底ではわらべうたと童謡を経ているんじゃないか、とか。童謡で使われるのは“ヨナ抜き”音階だから、ハチワレもこの場合ヨナ抜き音階を基盤に歌うだろう。よし、「ひとりごつ」はこういうメロディに違いない……ってやっていくんです。

── なるほど! 各キャラクターのテーマや特徴的な音はどのように作るのですか?

トクマル これも難しくて、いろんなやり方で動機付けをしていきます。ちいかわは謎が多いので難しくて。“ちいさくてかわいい”を基盤に、固定的なイメージを付けないような楽器の使い方をしています。『ちいかわ』のアニメとしてのテーマを作るとき、最初に作ったのはうさぎの曲で、何をしでかすか分からないテンション感の曲にしようと。バンジョーとリコーダーを同時に出すメロディを考え、音階を縦に跳ねる感じでピョコピョコさせました。

── うさぎに関しては、まさかの「うさぎラップ」が披露されましたね。

トクマル 僕も漫画でうさぎが出てくるたびに“こんなことするんだ”と思いますが、まさかラップするとは思わなかったです。ただ、既存のラップの定義としては外れるというか、“ハイヤッハー”みたいな歌詞でラップするにはどうしたらいいか悩み、これまでアニメでうさぎがしゃべった声のフレーズを全部サンプリングしたんです。それを並べて聴いたら良い感じになってたんですよ。うさぎ役の声優の小澤亜李さんならではのしゃべり方をうまく使った感じです。うさぎのテンション感をそのまま生かしたほうが面白いだろうなって。トラックはヒップホップの伝統的なリズムのモチーフで、このうさぎはダンス・ホール的なイメージなので、オールドスクール期までさかのぼろうと。さらに動物的感覚の要素も入れたくて……2000年前後とか、うさぎがヒップホップの系譜を追って崩れちゃってるイメージです。

── 後半には「うさぎラップ(リズム感のある者たちver.)」としてモモンガとくりまんじゅうが加わるパワフルな展開もありますね。

トクマル モモンガの“イーヤーヤダヤダ”もサンプリングして“うさぎとモモンガってこんなに相性良いんだ!”ってなりましたね(笑)。くりまんじゅうはビール缶を使って演奏しますが、『ちいかわ』にはいろんなメーカーのビールが出てくるので、実際に5社くらいのビール缶を用意して録音に使いました。

── キャラクターごとに使用楽器は変える?

トクマル 「島のシーサー」は玩具のフルートやパンフルートで吹いた“ピープー”という音をメインに据えていて、「島のラッコ」はフリューゲルホルンとピッコロ・トランペットを使いました。そのキャラクターが登場してうれしくなるように特徴的なものを使いたい反面、『ちいかわ』は分からないことが多い漫画なので“謎”性を残しておきたくて、あまり固定しすぎないようにはしています。

アニメーション映画の歴史と技術を最大限に生かすとどうなるかを体験できた

トクマルシューゴ

トクマルシューゴ

【Profile】 東京出身。ギターと玩具を主軸に無数の楽器を演奏する音楽家。楽曲の作詞、作曲、演奏、アレンジ、レコーディング、ミキシングまで一人で手掛ける。CM、ドラマ、映画、舞台、アニメなど幅広く楽曲制作を行う。

トクマルシューゴの自宅スタジオ。手の届く範囲の全方位に楽器があるという話の通り、チェロやサックス、鍵盤やギターなど、大量の楽器が並べられているのが見て取れる

トクマルシューゴの自宅スタジオ。手の届く範囲の全方位に楽器があるという話の通り、チェロやサックス、鍵盤やギターなど、大量の楽器が並べられているのが見て取れる

トクマルが所有するKAWAI Minipiano

トクマルが所有するKAWAI Minipiano

歌詞が良すぎてその日にデモを作った

── 主題歌についてもぜひ伺いたいです。

トクマル 「くつずれ」は、ナガノさんから送られてきた歌詞が良すぎてびっくりして、その日のうちにデモを作って翌日には返しました。デモのギターの音は本番でも入っています。歌詞を見てパンと思いついたのが3拍子でした。普通、歩行といえばマーチ(2拍子)ですけど、靴擦れするとまともに歩けずにちょっと乱れたりするので、3拍子のワルツに一瞬変拍子が入ったりしていますね。ワルツは大体ダンス曲ですが、そうでない有名曲には「うみ」や「ムーン・リバー」があって。これはハチワレが歌う「ひとりごつ」の音階センスにかなり近い構造で、この方向性だと思って、ギターと歌で弾き語りのデモを一気に作りました。2番はハチワレとの合唱曲っぽいアレンジにしたいなと思って。ピアノ伴奏の後ろで杉並児童合唱団が歌ってくれてます。それを上水樽さんに“どうだ!”って投げたらイントロと中の部分を作ってくれて。特に上水樽さんの後半のアレンジが本当に素晴らしくて僕はいつも泣いちゃう。最高の曲になりました。

── ラストの「机さする」にも感動しました。

トクマル 「くつずれ」と対になるような曲を作ろうと思っていました。歌ってくれたのはちいかわ役の声優の青木遥さんです。“青木さんが歌ってる”、その良さを最大限に発揮したくていろいろ考えました。曲の構造的には、シンプルでストレート、でも少し不思議さも残す感じで。南の島のパーカッションと8弦ウクレレを基盤にして、チェロ+弦楽器のアレンジを上水樽さんにリアレンジしてもらいました。しかも、カルテットの奏者の皆さんが、アレンジを生かすための奏法のパターンを自分たちでいろいろ考えてくれて。それぞれのパートごとに特殊な奏法を使って、はかなさや切なさやかわいらしさを表現してくれました。

── 関わる人それぞれが“良いものを作ろう”と考えて全力で向き合ったのですね。

トクマル いろんな道のプロがその特性をちゃんと発揮してできたすごい曲だなって。エンジニアも、歌録りと弦楽器のレコーディング、ミックスで全員違うんです。歌はできる限りセリフの声質のまま録りたかったので、映画全体のミックスと同じ早野利宏さんが担当しています。カルテットはStudio Tantaで鈴木健太さんが真ん中にマイクを立てて、それを囲むように楽器を配置して録ってくれました。

── 最後に、制作を終えていかがですか?

トクマル 制作スタッフそれぞれに最大限の技術を発揮していただけて良かったです。僕の人生でのポイントになるぐらい楽しい1年でした。まだまだできることがあることも分かりました。自分がアニメーション映画の歴史と技術を最大限に生かすとどうなるかを体験できたので、今後は時間のかけ方や機材の使い方、海外のやり方なども勉強したいです。

上水樽 皆さんの反応を見ていて、僕自身オーケストラに希望を持ててすごくうれしくなりました。打ち込みとかAIも出てきて“映像音楽はどうなるんだ”みたいなところもある中、生演奏でやったことが届いて反応が良く、あえて古い書き方をしたものも喜んでもらえたので、『映画ちいかわ』は僕にとって希望でした。

原 僕が好きだった昔のアニメーションと音楽に思いをはせながら仕事できたのが楽しかったです。いろんな映画音楽のオマージュがあったり、映画音楽の面白いところが詰まっていると思うので、特にこれを聴いた子供たちの心の奥底に音楽の楽しさが根付いたらいいなと思います。自分も映画から学んだところがいっぱいあったから、そういう作品になってくれたらいいですね。サントラもいっぱい聴いていただけたらうれしいです。

生演奏でやったことが届いて反応も良くオーケストラに希望を持ててうれしくなった

上水樽力

上水樽力

【Profile】 作曲家。カートゥーン・アニメーション音楽研究を行い、東京藝術大学の博士課程で『トムとジェリー』で知られるスコット・ブラッドリーの研究論文を執筆。ファッション・ショーをはじめとするイベントからアニメーション作品まで、多岐にわたり音楽制作を手掛ける。

上水樽のプライベート・スタジオ。デスク手前にはMIDIキーボードのNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S88 MK2を配置。デスク左のラックにはBEHRINGERのシンセK-2とModel Dを収納

上水樽のプライベート・スタジオ。デスク手前にはMIDIキーボードのNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S88 MK2を配置。デスク左のラックにはBEHRINGERのシンセK-2とModel Dを収納

上水樽が所有するYAMAHAのグランド・ピアノ。EARTHWORKSのスモール・ダイアフラム・マイクPM40で収音している

上水樽が所有するYAMAHAのグランド・ピアノ。EARTHWORKSのスモール・ダイアフラム・マイクPM40で収音している

上水樽がAIで生成したテンポの検出用ソフトウェア。扱う曲を全部入れることができ、映像と曲を合わせたいポイントを計算することでテンポが算出されるという。同様の機能を持つ既存ソフトもあるものの、すべての映像を取り込めるものは見当たらなかったため自ら作成したという。なお、音楽自体には生成AIを一切使用していないそうだ

上水樽がAIで生成したテンポの検出用ソフトウェア。扱う曲を全部入れることができ、映像と曲を合わせたいポイントを計算することでテンポが算出されるという。同様の機能を持つ既存ソフトもあるものの、すべての映像を取り込めるものは見当たらなかったため自ら作成したという。なお、音楽自体には生成AIを一切使用していないそうだ

上水樽によるABLETON Liveでの「アジト潜入」のデモ制作画面。Liveでは動画も扱えるため、映像を確認しながら作業を進めることができる。トラック名に注目すると、ベースにNATIVE INSTRUMENTS Kontakt 8の音源を使っていることなどが分かる

上水樽によるABLETON Liveでの「アジト潜入」のデモ制作画面。Liveでは動画も扱えるため、映像を確認しながら作業を進めることができる。トラック名に注目すると、ベースにNATIVE INSTRUMENTS Kontakt 8の音源を使っていることなどが分かる

『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』

『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』

Overview
 イラストレーター・ナガノ氏によるSNS発の漫画作品『ちいかわ』が映画化。本作で描かれるのは“セイレーン編”と呼ばれる長編ストーリーで、話数を追うごとにSNSをにぎわせた人気エピソードだ。ちいかわたちの冒険が壮大な音楽と迫力の映像で描かれる。

Story
 ある日、ちいかわとハチワレが広場でくつろいでいると、突如として顔にチラシを貼り付けたうさぎがやって来る。そのチラシは「特別な島へご招待」と書かれた招待状であった。チラシに記載された魅力的な言葉に釣られて島合宿に行くことを決めた、ちいかわたち。島民から大歓迎され、楽しい時間を過ごしていたちいかわたちだが、島に住む巨大な“セイレーン”が島民を次々と連れ去っているという事実を聞かされ、セイレーンの討伐計画に巻き込まれていく。ひたむきに進むちいかわたちに次々と訪れる試練。みんなで乗り越えられるのか? そして島に隠された本当の“ひみつ”とは……!?

【Release】

『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』オリジナル・サウンドトラック

『『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』オリジナル・サウンドトラック』
トクマルシューゴ、上水樽力
QTORY RECORDS:QTRY-0001

くつずれ/ハチワレ(CV.田中誠人)
日常に一枚のチラシ
し~ま~がっしゅく
島のうた/島民
島のくりまんじゅう
島のラッコ
島のシーサー
島のふたり
島のうた(祭囃子ver.)
島のモモンガ
今日の日はさようなら(ハチワレver.)/ハチワレ(CV.田中誠人)
島のうた(セイレーンver.)/セイレーン(CV.鈴木みのり)、人魚(CV.大木咲絵子、七瀬彩夏)
島のうた(まちがえて襲っちゃったのver.)
何かおかしい
セイレーン討伐のアナウンス
島のうた(討伐オファーver.)
セイレーンの襲撃
先生を助けに行こう
ヒトハとフタバに聞いてみる
飴モモンガ
セイレーンのアジト
犯人連れてきてくれたの?
セイレーンの嘆き
うさぎラップ(ソロver.)/うさぎ(CV.小澤亜李)、人魚(CV.大木咲絵子、七瀬彩夏)
心を無にして…忍耐だ!
逃げたけど…
橋の上の戦い
セイレーンからは逃げられない…
ひとりぼっちのちいかわ
島二郎登場
島二郎の回想(セイレーンと人魚か…)
島二郎の回想(心当たりがある)
イーヤーヤダヤダ!
アジト潜入
島二郎VSセイレーン
作戦を練ろう
クッキング
不思議な歌声
決戦前夜
島のうた(セイレーンのアカペラver.)/セイレーン(CV.鈴木みのり)、人魚(CV.大木咲絵子、七瀬彩夏)
ファイナル・カレーバトルⅠ
島二郎参上!
ファイナル・カレーバトルⅡ
うさぎラップ(リズム感のある者たちver.)/うさぎ(CV.小澤亜李)、モモンガ(CV.井口裕香)、人魚(CV.大木咲絵子、七瀬彩夏)
ファイナル・カレーバトルIII
夜明け
ふたりのひみつ
今日の日はさようなら(合唱ver.)/ハチワレ(CV.田中誠人)、シーサー(CV.島袋美由利)、島二郎(CV.最上嗣生)、島民
出航の朝
島のうた(島二郎ver.)/島二郎(CV.最上嗣生)、島民
家路へ
机さする/青木遥

🄼 トクマルシューゴ(g、prog、他)、上水樽力(p、cel、prog)、田中誠人(vo)、小澤亜李(vo)、井口裕香(vo)、島袋美由利(vo)、最上嗣生(vo)、鈴木みのり(vo)、大木咲絵子(vo)、七瀬彩夏(vo)、青木遥(vo)、杉並児童合唱団(cho)、AcappelLabo(富本泰成、大澤桃佳、鏑木綾、瀧本真己、對馬香、瀬戸翔吾、田中寛、谷郁/cho)、田中李々(vln)、安達優希(vln)、大光嘉理人(vln)、柏木かさね(vln)、倉冨礼加(vln)、調雅子(vln)、崔樹瑛(vln)、堀脩史(vln)、吉澤知花(vln)、矢部咲紀子(vln)、渡辺明(vln)、對馬佳祐(vln)、榎本郁(vln)、金子昌憲(vln)、西野絢賀(vln)、林佳南子(vln)、福田理貴(vln)、吉本萌慧(vln)、七澤達哉(vla)、塚本遼(vla)、柘植藍子(vla)、山田幹子(vc)、有梨瑳理(vc)、グレイ理沙(vc)、檜山百合子(vc)、谷口拓史(cb)、篠崎和紀(cb)、林みどり(cb)、廣永瞬(cb)、山本葵(fl、picc、afl)、佐竹真登(ob、eh)、濱崎由紀(cl)、亀居優斗(cl、bcl)、河﨑聡(bsn)、多田凌吾(hrn)、鶴田麻記(tp)、東野匡訓(tp)、古土井友輝(tp)、守岡未央(tp)、住川佳祐(tb)、田村優弥(tub)、三浦千明(flh、picc tp)、吉田瑳矩果(hrp)、斎藤樹里(hrp)、秋生智之(perc)、菊池幸太郎(perc)、U-zhaan(perc)、田中教順(perc)
🄿 今福太郎、成川沙世子
🄴 原真人、早野利宏、田中実、鈴木健太、トクマルシューゴ、上水樽力
🅂 AVACO STUDIO、Studio Tanta、東宝スタジオ、Space Juno、TONOFON Studio

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