カドブン meets 本が好き!

『海霧 ―ジリ―』レビュー【本が好き!×カドブン】

書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」(https://www.honzuki.jp/)に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します!
今回のベストレビューは、馳 星周さんの『海霧 ―ジリ―』に決まりました。ありがとうございました。

「海霧」と書いて「ジリ」と読むらしい。

レビュアー:クロニスタさん

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 北海道でヤクザの手下としてナマコの密漁で生計を立てていた主人公の大樹。その大樹が密漁時の見張り役として飼っていたのが保護犬だったジリ。名前は眺めることが好きだった海霧から付けた。もらった頃はおそらく5才くらいだったが、今ではすっかり老犬となってしまったジリ。それでも犯罪に加担するしかない孤独な大樹にずっと寄り添ってきてくれた絆は、人よりも強い。

 そんな大樹に、あるとき上役のヤクザ宮嶋の情婦、霧子が声をかけてくる。彼女も犬が好きだった。犬の名前が海霧(ジリ)ということから縁を感じた霧子は大樹の元を頻繁に訪れるようになる。そしてお互いの生い立ちを知るうちに二人は惹かれ合う。しかし、そんなことがヤクザの世界で許されるはずがない。大樹と霧子、そしてジリはヤクザを相手に罪を犯し、逃避行を余儀なくされた。

 ほぼ昭和の刑事ドラマみたいな展開だ。昭和生まれで「太陽にほえろ」を観ていた世代からすると、それが心地良い。設定は現代。今どきこんな設定で物語が書けるのか、と思うが、北海道という大自然を舞台にするとすんなりとはまってしまうのが不思議だ。

 序盤の事件が過ぎると、ひたすら逃避行と、老犬ゆえにジリの命が削られていく様子が描かれていき、北海道を舞台にしたロードムービーのような展開になる。逃亡先での出会いと裏切り、常に追われて命の危険を感じながらも、平穏な生活を夢見る大樹と霧子、そしてジリ。ようやく潜伏することに成功できたかと思えたその矢先に…

 物語は大方の予想通りに進む。それが切ない。幸せな未来は幻影に過ぎない。ラストシーンはこれしかないだろう、というくらい美しく、儚い。良質な映画を見終わったような余韻に浸れた。

 個人的に最近は新人作家のミステリーを読むことが多かったのだが、やはりベテラン作家の作品はすごいな、とあらためて思った。深みが違う。
 自分は犬を飼ったことがないが、それでもジリがとても愛おしくなる。犬を飼ったことがあり、それを看取ったことがある人が読んだら、たぶん号泣すると思う。

▼クロニスタさんのページ【本が好き!】
https://www.honzuki.jp/user/homepage/no12301/index.html

書誌情報

書 名:海霧 ―ジリ―
著 者:馳 星周
発売日:2026年06月02日

孤独な二人と一頭の犬は、生き延びるために「群れ」になった。

海産物の密漁は、暴力団の重要なシノギのひとつになっている。中でも、北海道で穫れる檜山産の干し海鼠は重宝がられ、法外な高値で取引されていた。アルコール漬けだった実母の急死で故郷の白老を飛び出し、函館まで流れ着いた青年・神野大樹は、岡村興業の若頭補佐・宮嶋が仕切る海鼠の密漁で稼いでいる。大樹とふたりきりで暮らすボーダーコリーの老犬・ジリは、その見張り役を務めていた。ジリが体調を崩したことをきっかけに、犬好きのホステス・霧子と距離を縮める大樹。しかし彼女は、宮嶋の情婦でもあった……。

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