
JRおよび東京メトロの荻窪駅から徒歩10分ほどの場所にあるTOP BEAT CLUB。建物の地下1階にライブ・スペース、1階にカフェ、2階にはレコード・ストアが入る音楽文化複合施設として2023年にオープンした。ライブ・スペースのTOP BEAT CLUB MUSIC HALLは英国リバプールの伝説的なライブ・ハウス、CAVERN CLUBを意識したスタンディング約250名の空間で、共同経営者でTHE NEATBEATSのボーカル&ギターとして著名な眞鍋“Mr.Pan”崇のセンスが光る。TASCAMのデジタル・ミキサー=TASCAM Sonicview 24(写真)を中心に音響設備を見ていくとしよう。
Text:Taichi Tsuji Photo:Chika Suzuki
ルーム・アコースティックも常設アンプも眞鍋“Mr.Pan”崇のセンスが全開!
もともと更地で、建物から造られたTOP BEAT CLUB。英国に住んだ経験を持つ眞鍋は、レストランやパブにライブ・スペースが併設されているような店を構想し、ここを建てた。「CAVERN CLUBがそういう店だし、いろんなものを組み合わせたほうが面白いと思ったんです」と語る。地下1階のライブ・スペースだけを見ても上々で、実力派ミュージシャンらによるステージはもちろん、DJパーティやお笑いライブ、フード・イベント、ディナー・ショーなども幅広く開催してきた。
足を踏み入れると、CAVERN CLUBさながらのレンガ内装&アーチ天井。防音を手掛けた会社は眞鍋の個人スタジオにも携わるヘルツで、音響設計やPA機材のコーディネートはセカンドドリップの間瀬哲史によるものだ。「壁も天井もレンガ仕上げなのでライブな音響です」と眞鍋。
「だから出演者や乗り込みのPAエンジニアの中には、やりにくいと感じる人もいるはずです。でも僕はデッドな感じより響いているほうが好き。演奏していて気持ち良いし、細かいミスにとらわれることなくライブを楽しめますからね」
常設の楽器アンプはFENDERの機種をメインにしつつ、1973年製のMARSHALL 1959 Super Leadや1974年製の1992 Super Bass、1960年代製のSELMER StereomasterやVOX AC100、そしてYAMAHA F100Bなど。眞鍋の音楽遍歴を反映したラインナップであり、それはPA機材も同じだ。まずはミキサーをTASCAM Sonicview 24(以下、Sonic
view 24)にした背景を語る。
「若いころ、初めて自分でバンドを録ったときに使ったのがTASCAMのカセットMTRで、その音が好きだったんです。一緒に使っていたTASCAMのミキサーも良かったから、後年、自分のスタジオにHDRとしてX-48を導入しました。すると、デジタル機材なのに音がアナログっぽくて自分好みで、今も使い続けています。Sonicview 24も、ここで音を出してみたときに“やっぱり好きな感じだな”と思って。価格がすごくリーズナブルなのも良かったですね」

TOP BEAT CLUB地下1階のライブ・スペース=TOP BEAT CLUB MUSIC HALLはスタンディングで約250人のキャパ。共同経営者の眞鍋“Mr.Pan”崇がマージービートから影響を受けており、その象徴的なバンドであるビートルズを輩出した英リバプールのCAVERN CLUBにインスパイアされ、壁や天井をレンガで仕上げている。アーチ状の天井もCAVERN CLUBを意識したものだ。常設の楽器アンプは’66 Twin Reverbや’61 Twin-Amp、Deluxe Reverb、Hot Rod DeluxeといったFENDERの機種をメインとしつつ、MARSHALLやSELMER、VOXなどのビンテージ機も用意

1階はTOP BEAT CLUB CAFEとして営業。チキンのビール煮込みやドライ・カレー、サンドウィッチなどのフードやアルコールも提供されるので、カフェ利用だけでなくレストランやバーとしても楽しめる。

2階はレコード店のTOP BEAT RECORD CLUB。ロックを中心に数多くのアナログ・レコードが販売されている
アナログ卓のようにシンプルな設計で乗り込みPAもすぐ慣れるSonicview 24
Sonicview 24は24本のチャンネル・ストリップを備え、それぞれの入力ゲインやダイナミクス・エフェクト、EQ、バス・センド、パンなどの情報をフルカラーのタッチ・パネルに映し出せる。タッチ・パネルは3面あり、1面あたり8ストリップ分を映すのが基本。全24ストリップの情報を同時に表示させて、アナログ卓のような一覧性が得られる。
ストリップ内のモジュール、例えばEQにタッチすればEQの設定画面がパネルいっぱいに広がる。また、いずれかのストリップのSEL(セレクト)ボタンを押すと、そのストリップの情報が3面に展開される。この“VIEWインターフェース”という仕様がオペレートのしやすさにつながっていると語るのは、ハウス・エンジニアとしてTOP BEAT CLUBオープン時から従事するイケダトモユキだ。
「全体の状況を一望しやすい上に、チャンネルの設計ひとつにしてもアナログ卓みたいにシンプルなので、何をどうすればいいか瞬時に判断できます。また、ルーティングの自由度が高く、UNIVERSAL AUDIO UADプラグイン・システムのような外部機材を容易に取り入れられる。Sonicview 24を初めて触るという乗り込みエンジニアの方々も、リハーサル中に慣れてくることがほとんどです」
iPad/Mac/Windows用のリモート・コントロール・ソフト/エディターTASCAM Sonicview Controlも出色だ。
「特にiPad版が良くて、パソコンでオフライン・エディターとして使うときとほぼ同じ画面なんです。だから、オフライン・エディターで仕込みをする人なら、初見でも操作できると思います。また、ルーティングを変えられたり、フェーダーを大きく表示できたりと、iPadでは難しそうな機能をユーザー目線で実現してくれているのがうれしいです」

ライブ・スペースに鎮座するTASCAMのデジタル・ミキサーTASCAM Sonicview 24。パネル上部の3面のタッチ・パネルには、24のチャンネル・ストリップの情報が一覧表示されている。本機は24基のマイク/ライン入力と16基のライン出力を備え、入力チャンネル数は40モノラル+2ステレオ。プライマリーとセカンダリーのDanteポートは共に64イン/64アウトとなっている。マイク入力には新規開発のTASCAM Class 1 HDIAマイクプリを搭載。初段にインスツルメンテーション・アンプを採用し、低ノイズかつ低ひずみな音質を特徴とする。PAエンジニアがスピーカー・チューニングによく使うマイクをノーEQで鳴らせるようテストを重ねたという。54ビット・フロート/96kHzのFPGAミキシング・エンジンも特筆すべき点だ

写真中央のタッチ・パネルは、チャンネル・ストリップのEQにタッチして、その設定画面を開いたところ。ゲートやコンプ、センドなどの設定も同様に開くことができる

タッチ・パネルのスクリーンショット。黄枠の部分は中央のパネルで、選択したチャンネルの信号の流れを表示。左パネルはバス・センド、右は入力部を映す
dBTechnologiesのスリムなスピーカーIG2Tはソースを自然に拡声する音
TOP BEAT CLUBでは、Sonicview 24に入力できる信号が最大40chとなっている。うち24chがアナログで、ほかはDante。出力のシステムに関しては、dBTechnologiesのパワード・スピーカーIG2TをFOHに、FMX 10をモニターに用いている。「IG2Tを選んだのは、昔のCAVERN CLUBのように縦長のスピーカーが良かったから。スリムなので出演者が際立って見えるし、それはコロガシのFMX 10も同様です。コンパクトで、演奏中の“足元”まで見えやすいしね」と眞鍋。Sonicview 24やIG2Tによって生み出されるサウンドは、どのようなものなのか? イケダが語る。
「Sonicview 24については、専用設計のマイクプリが良いなと。わずかな音量変化まで分かるし、突っ込んだときのサチュレーションがアナログ卓っぽいのも魅力です。そうしたマイクプリの音が、IG2Tだと本当にそのまま出る感じ。誇張がなく、あまりに自然なので、乗り込みの方から“HAを上げたんですけど、音出てますよね?”と言われることがあるほどです(笑)。それで、音量を絞ると“あ、消えた”となって、きちんと増幅されていたことが分かります」
「いかにも大音量、っていうのとは違うと思います。ドラムが打ち込みのように硬く聴こえることもないし」と眞鍋。
「ライブって、なるべく人の表情というか、人がやっている音というのを出したほうが良いと思うんです。ここのPAシステムは楽器の鳴りをダイレクトかつナチュラルに伝えてくれるので、自分にとっての正解というか、良い選択肢だったと感じています。ウチは決して敷居の高い店じゃないから、いろんなミュージシャンに自分なりのロックンロールをやりにきてもらいたいですね」

2台を連結させているのがメイン・スピーカーのdBTechnologies IG2T。8インチ径の低域ドライバーを2つと1インチのコンプレッション・ドライバーを1つ備える2ウェイ・パワード機で、独自のDigipro G3テクノロジーを用いたクラスDアンプが入っている。出力は400W(RMS)/800W(ピーク)。現在は生産完了品で、RDNet対応の後継機種IG2TRが発売中

高さ70cmのステージの下には18インチ・サブウーファーdBTechnologies Sub 918の姿が

ウェッジ・モニターはdBTechnologies FMX 10を採用。同軸2ウェイ・パワードの機種で、コンパクトでありながらよく聴こえるという。写真は2台だが、全部で4台常設されている

VOX Grenadierは、複数のスピーカー・ユニットを縦に密接させてセットしたコラム型のスピーカー。眞鍋がボーカル&ギターを務めるバンド=THE NEATBEATSのライブなどに使われ、写真の通り、メイン・スピーカーの傍らにラフに置いて鳴らすという

共同経営者の眞鍋“Mr.Pan”崇(写真左)とTOP BEAT CLUB MUSIC HALLのハウス・エンジニアとしても活動するイケダトモユキ(同右)
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