人間は歴史から何を学んでいるのか──。過ちが何度も繰り返されているにもかかわらず、2026年の現在も“戦争”という行為が終わることはない。ロシアとウクライナの戦いは4年以上も続き、ガザ地区の平穏も未だ訪れない。ホルムズ海峡周辺ではアメリカとイランが一触即発の状態。折しも日本では、この4月に五類型が撤廃(殺傷能力のある完成品武器の輸出が原則可能)され、間接的だが戦争に関与できる立場となった。第二次世界大戦の終結から81年が経ち、戦争への記憶が風化しつつある今だからこそ、改めて戦争と平和について問う作品が求められる。そしてここにきて、さまざまな、新しい視座をもたらす映画も増えている。

まず、現在進行形の事実を受け止める意味で、2つの映画が大きな衝撃を与える。『戦場0地点』(9月4日公開)と『プーチンの愛国教室』(10月3日公開)。両方ともロシアのウクライナ侵攻を背景にしたドキュメンタリーなのだが、まったく違う視点とアプローチで、かつてのどんな映画とも別次元の、強烈な反戦メッセージを届ける。

『戦場0地点』は9月4日公開。Photo © 2024 Dogwoof

『戦場0地点』は、そのタイトルが示すように、戦場そのものをカメラが捉えた作品。しかも兵士たちのヘルメットに装着したカメラによる映像が多用されるので、彼らの目線で最前線を臨場体験させるという、恐るべき作りになっている。2023年、ウクライナ軍の小隊が、ロシア軍に占領された村へ向かう。その小隊に本作のミスティスラフ・チェルノフ監督も同行。村までは2000mの距離だが、ロシア軍との激しい交戦も待ち受け、なんと3カ月もかかってしまう。その間に、目の前で仲間の兵士が命を落とし、あるいはロシア兵を容赦なく撃つなど、背筋が凍る瞬間が続発。最初は“人ごと”のように観ていた人も、徐々に兵士の気持ちと一体化してしまうところに本作の怖さがある。監督がインタビューする兵士のその後の運命が語られるなど、仲間の悲劇をこれでもか、これでもかと味わう虚しさも、全編に漂う一作。「戦争は悪夢で、誰も目覚めることはできない」というメッセージを、ヘルメットのカメラ、兵士に紛れた監督のカメラ、そしてドローンも駆使し、徹底して“現場”の映像とともに伝える。チェルノフ監督は、元AP通信のジャーナリストで、前作『マリウポリの20日間』が第96回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞。現実で起こっている戦闘を、自らの危険も省みずに世界に伝えるという執念が作品に宿り、圧倒される。

そのウクライナとロシアの戦闘で、ロシア側の兵士を“送り出してしまった”悔恨を切実に訴えるドキュメンタリーが『プーチンの愛国教室』。こちらは今年の第98回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞受賞作。主人公は、ロシアのウラル山脈の麓にある町の教師、パヴェル・タランキン。学校のイベントで撮影係も担っていた彼は、2022年のウクライナ侵攻後、急速に「愛国教育」が導入された学内の様子を、つぶさに映像に収めることになる。もともとロシアの民主化を望んでいたパヴェルは、子どもたちがプロパガンダによって戦争賛美の思想に染まる様子に反発。学内だけでなく社会から孤立し、当局に目をつけられながらも、プロパガンダの闇にカメラを向け続け、アメリカ人ドキュメンタリー作家の協力を得て、一本の映画として完成させる。

WACOCA: People, Life, Style.

Pin