デジタルデバイスやスマートフォンの普及、インターネット書店の伸長を背景に、日本では全国の書店数が1万店を割り込むなど、全国的に紙の出版市場が縮小している。その一方で、教育の電子化を推進したフィンランドでは学生の読解力が低下、紙の教科書に回帰する動きもある。東京大学大学院総合文化研究科の梅島奎立氏らは、日本の漫画作品を用いて紙媒体と電子コミックによる読書が脳活動に及ぼす影響を比較。電子コミックと比べ、 紙媒体で読んだ方が読解や問題解答に伴う脳活動を効率化する可能性が示された とPLoS One( 2026;21:e0349778 )に報告した。(関連記事「 医学電子書籍の未来は?(上) 」「 医学電子書籍の未来は?(下) 」)
大学生・院生25人を対象としてMRI内で読書
大学生を対象としたスウェーデンの研究( Comput Hum Behav 2005;21:377-394 )や、高校生を対象としたノルウェーの研究( Int J Educ Res 2013;58:61-68 )では、同一内容でも読解テストや物語の要約は紙媒体での読書の方が好成績であることが報告されている。しかし、紙媒体の効果を裏付ける脳科学的エビデンスは乏しく、読書における文脈理解を脳のどの部位が担っているかについても定説がない。
梅島氏らは、文字情報に加えて各ページのコマ割りやイラストといった空間的な手がかりが豊富で、内容把握や心情理解がしやすい漫画作品に着目。複数の登場人物の視点を切り替えながら物語が進行していく「ザッピングストーリー」形式で描かれた作品を紙媒体と電子コミックで読んだ場合の脳活動や課題への正答率を比較した。
対象は、右利きの日本語母語話者である大学生・大学院生25人(平均年齢23.5±4.6歳、女性11人)。課題作品として『喰う寝るふたり 住むふたり第1巻』(日暮キノコ著、コアミックス)の1~4話を用い、〈1〉紙媒体で1、4話を読み、電子コミックで2、3話を読む群、〈2〉電子コミックで1、4話を読み、紙媒体で2、3話を読む群-に1:1で割り付けた。
参加者は、作品の前半パートを読んだ後、別視点で描かれた後半パートをMRI装置内で読んだ。その後、作品の内容に関する4択問題に回答。問題は各話6問ずつとし、前半パートのみで答えられる問題(セット1)と、前半と後半の両パートを読まないと答えられない問題(セット2)が各話半々となるように作成した。読書時および回答時の脳活動は機能的MRI(fMRI)で測定した。
電子コミックで前半を読むと、統合的な理解に際し過剰な負荷が
二元配置反復測定分散分析の結果、課題の正答率に紙媒体と電子コミックで差はなかった。一方、 質問への反応時間は電子コミックのセット2で有意に延長した (F[1,24]=28、P<0.0001)。Tukey HSD法による多重比較では、電子コミックの セット2における反応時間は電子コミックのセット1 (q[24]=4.9、P=0.01)、 紙媒体のセット1 (q[24]=5.1、P=0.007)よりも有意に長かった(図1)。
図1.質問への反応時間
質問条件における統合過程を直接検討するため、各語について正答したセット1とセット2の反応時間差(セット2-セット1)を算出した。その結果、紙媒体では有意差は認められなかったのに対し、 電子コミックでは有意差が認められた (P<0.05、 図2 )。これらは、前半パートを電子コミックで読んだ場合、後半パートの内容を統合的に理解してセット2に正答するには、 言語的および物語構造的統合に過剰な負荷が生じる可能性 を示唆している。
図2.正答した質問への反応時間の差
(図1、2ともPLoS One 2026;21:e0349778)
紙媒体で前半を読むと、後半の読書時や回答時に脳活動が節約か
fMRI解析では、前半パートを紙媒体で読んだ後の後半読書時に、 言語処理や統合過程に関与する左外側前運動野/下前頭回(L.LPMC/IFG)の抑制 が示された。また問題回答時には、 紙媒体で右外側前運動野/下前頭回(R.LPMC/IFG)の補助的活動も節約 されていた。
一方、電子コミック読書時には、同程度の正答率を維持するために、 こうした領域の活動をより必要とする傾向が見られた。 梅島氏らは「紙媒体での読書が言語的・物語構造的な統合を促進し、後続課題に必要な神経資源の動員を抑える、すなわち脳活動の“効率化”をもたらす可能性がある」と考察している。
同氏らは「今回の知見は、紙と電子どちらの媒体が一概に“脳に良い”かを意味するものではない」と断った上で、「紙媒体で漫画を読むことにより、言語的および物語構造的な統合過程が促進され、過剰な脳活動が節約されることを脳科学的に実証した」と結論。「社会的に文書の電子化が進み、デジタル教科書の導入が検討される中で、 電子書籍を上回る紙媒体の有効性を示した意義は大きい 」と付言している。(編集部・関根雄人)
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