読書が音楽制作に与える影響は?

――その後もたくさん漫画を読まれていますが、好きな作品に共通していることって何かありますか。

比喩根:漫画でも小説でも、惹かれる作品に共通しているのは「主人公たちの思考がはっきりしていること」なんですね。例えば、キャラクター同士がぶつかった時に、単なる力勝負ではなく「この人はこういう理念のもとに動いているんだという背景や哲学が見えてくるような。そんな芯のある人たちの物語が好きなんです。以前読んでいた『ブルーロック』(原作:金城宗幸/作画:ノ村優介)も、それぞれの戦い方の哲学や脳内の思考が描かれている点に惹かれていました。

――なるほど。そうした読書体験がchilldspotの楽曲制作に影響を与えることはありますか。

小﨑:僕は、音楽は音楽からしか影響を受けないタイプなので、読書はあくまで純粋な楽しみ、遊びとして切り離しています。仕事に繋がると思って読むと苦しくなっちゃうので(笑)。

比喩根:私は漫画や小説の中で出会った素敵な表現や言い回しを、スマホのメモ帳にストックしています。例えば「薄いコートのような疲労を纏い」という一文を見つけて「これいいな」とメモしたり。直接的にその言葉を使うわけではないですが、そこから自分の中の語彙や表現の引き出しが増えるのが純粋に嬉しいんです。難しい単語を一つ使ってみたくなったり、歌詞の風景描写のヒントにしたりと、細かい部分で影響を受けていると思います。

――chilldspotと漫画との関わりで言うと、鳥飼茜先生の「サターンリターン」とのコラボレーション楽曲「ひるねの国」の制作も大きな経験だったのではないでしょうか。

比喩根:元々、鳥飼先生の作品が大好きだったので、このお話をいただいた時は本当に嬉しかったです。いつも以上に作品に深く入り込んで読み込みました。歌詞は、漫画に比べると圧倒的に文字数が少ないので、この世界観の核って何なんだろうということを、すごく考えました。この制作を通して、鳥飼先生と対談させていただいたり、その後でご飯にも行かせていただいたりして、自分の解釈を先生に伝えて答え合わせができたのは、ファンとして最高に幸せな体験でした。先生は非常に知的な方ですが、漫画家さんらしい独特の感性も持っていて、お話ししていて本当に刺激的でした。

chilldspot – ひるねの国(Music Video) | 漫画『サターンリターン』MMV

――比喩根さんは他のアーティストに楽曲提供される時も、その方に合った物語を生み出されていると感じますが、楽曲提供の際に大切にされていることは?

比喩根:adieu(上白石萌歌)さんや坂本真綾さんに楽曲提供させていただいたんですが、その方のイメージや、直接お会いした時に感じた雰囲気を大切にします。坂本さんの「Anything you wanna be」は歌詞はご自身で書かれていますが、基本的には「この人にはこんなことを歌って欲しい」と言う私自身の願望も含めて、一から物語を紡いでいく作業です。こうした作詞の時も、スマホに書き留めているメモが活躍しています。

――chilldspotの楽曲は、歌詞とメロディも世界観を作る大事な要素ですが、イントロで最初の音が鳴った瞬間から、その物語に入り込むような感覚があります。最近では、制作方法に少し変化があったそうですね。

比喩根:はい、以前は私が中心となって楽曲を作っていましたが、昨年出したアルバム『handmade』あたりから、メンバー全員が作曲や編曲に深く関わるようになりました。プロデューサーを入れずに自分たちだけで舵を取るセルフディレクションの期間を経て、今はよりメンバー中心の、職人集団のような体制に移行しています。

――「Unbound」では小﨑さんのラップが入っていたり、『handmade』はアルバム全体としても攻めた内容になってるなと感じました。

比喩根:バンド内コンペのような手法で曲作りをしたんです。例えば小﨑くんが作ったトラックに対して、メンバー3人がそれぞれメロディを乗せて提出し、誰のが一番あっているかを聴き比べたり。「Unbound」では小﨑くんが書いたラップ部分を、私と玲山(ギター)が「声が良いから自分でやってよ」とお願いしたり。良いものは誰のアイデアでも取り入れるスタイルでやっています。でも最終的にはchilldspotのカラーに落ち着く。それはこれまでの活動で培われた信頼感があるからだと思います。

chilldspot – Unbound (Music Video)

――日々、本を読む習慣があるお二人が、Billboard JAPANの書籍チャートをご覧になって、いかがですか。

比喩根:昭和・平成・令和と年代別のランキングがあるのが、本当に素晴らしいと思いました。情報が多すぎる現代において、何を読めばいいか迷ってる人にとって「まずはこれ」と言う名作を提示してくれる、令和に優しいチャートだなと。見ているだけで「これ、タイトルが気になるな」とアンテナに引っかかる作品がたくさんありました。

小﨑:ジャンル別のランキングがあるのも助かりますね。自分好みの本を見つけやすいし、タイトルだけで引き込まれる作品も多くて。また新しい本を読みたくなりました。

――最後に今後のchilldspotの展望について教えてください。

比喩根:私たちは、熱血というより職人気質な集団だと思っています。いつ、どんなきっかけでバズったり売れたりしてもいいように、常に曲の質、ライブの質を高め続けていきたい。どこに出しても恥ずかしくない、誠実な音楽を作っていくだけです。

小﨑:僕はこれからも、やりたいことをやりたいようにやっていきたい。遊びや趣味の延長にある自由なクリエイティビティを大切にしていきたいです。

比喩根:5月20日には、メンバーによるセルフリミックスを含む新作EPもリリースしますし、これからも新しい音の物語を追求していきます。

WACOCA: People, Life, Style.

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