2026年3月19日のリニューアルオープン初日には、開店前からおよそ800人の長蛇の列ができた三省堂書店 神田神保町本店。前編では、全体のコンセプトと1階に広がる「新しい書店の風景」についてリポートした。今回は、2階と3階の随所にちりばめられた「発見のさざ波」や「探求の洞窟」「みちびきの渦」といった、来店者がついつい売り場を回りたくなり想定外の本と出合う新しい“仕掛け”を中心にリポートする。
【関連画像】新書や文庫の棚が等間隔で区切られている「探求の洞窟」。その名の通り、体が本で囲まれるような感覚を得られ、没入感を味わってもらうのが狙いだ
●本との一期一会を楽しめる「発見のさざ波」
1階からエスカレーターで2階に上がり、中央のスペースに行くと、まず目につくのが特徴的な棚の並び方だ。通常の書店であれば、効率性を求めて同じ形の棚が平行にレイアウトされるものだが、横幅が異なる棚が45度の角度で配置され、空間に独特のリズムを生んでいる。
「そうすることで後ろの棚に並ぶ本が見え、次々と引き込まれるような感覚を味わっていただけます」(三省堂書店 岡田健太郎副本店長)。「発見のさざ波」と名づけられた通り、本との一期一会を楽しめる。ジャンルは、旧店舗時代から「強みのジャンル」と呼ばれる人文系で、社会学や心理学のほか、歴史、哲学、思想などだ。また、棚の一部がベンチになっているのも特徴の一つ。「没入キャビン」と名づけられ、本を吟味して選びたいときにありがたいスペースだ。
さらに、本の世界に引き込む仕掛けとして、ジャンルや作者ごとの仕切りプレートをなくしたことが挙げられる。「プレートの代わりに、その棚を代表するロングセラーの定番書と共に、本棚の名称を記したスタンド「ヒーロー本スタンド」と呼ばれる什器でその棚を表現しています。これも、新店舗が目指す『どれだけ想定外の本に出合えるかという偶然性』を追求するためのチャレンジです。内覧会に来られたお客様からは『いろんな分野の本を手にする機会が増えるのはいい』という声がありました」(岡田副本店長)。
●本は自己との対話を促すツール
壁面に設置された棚には新書がぎっしり並ぶ。新書は多くの書店で取扱数が減る傾向にあるが、国内トップクラスの品ぞろえを誇るという。棚が等間隔で区切られているのが特徴で、「探求の洞窟」と名づけられている。その名の通り、体が本で囲まれるような感覚を得られ、没入感を味わってもらうのが狙いだ。
亀井崇雄社長の「特にお気に入り」もこの新書コーナーだ。「新しいことを知る際の入門編として新書はよく読むものですから、新書コーナーは一番行くようになるなと思っています」。また、没入感を得られる空間演出にした理由についてこう言及する。
「読書というのは時間や情報をシャットアウトして、自分の世界に入っていく行為ですよね。それは読書の大きな魅力で、自己との対話を促すツールになり得るものだとも思っています。その意味で、没入感を得られる『探求の洞窟』の誕生は必然だったのかもしれません。前出の『没入キャビン』も同じ意図で設けました。読書はタイパもコスパも悪いと言う人が増えている時代に、あえて本屋をやる価値は、この自分の世界に入っていける体験にある、と考えています」
確かに、本を読むという行為は能動的で、疑問があればページをめくる手を止めて、思考を巡らせる時間を自由に持てる。かたや、動画視聴は流れてくる情報を受動的に受け取るだけで終わりがちと言える。こうした本ならではの体験をするために、「まずは一度お越しいただきたい。これまで書店に足を運ばれなかった方こそ、ぜひ」と同氏は言う。
●ついつい回りたくなる「みちびきの渦」
3階の中央スペースも棚の並びがユニークで、放射状に並んでいる。「みちびきの渦」と名づけられ、ぐるぐる回れる造りになっている。横幅が長い棚と短い棚が交互になっているため、視界に奥行きが生まれ、自然と奥の棚が目に入る。だから、ついつい回りたくなるというほうが正しいかもしれない。中心に立てば、どこにどんなジャンルの本があるかの標識が一目瞭然だ。
「3階のジャンルは一般書で、旧店舗より比率を増やしたコミックをはじめ、児童書、学習参考書、趣味・生活、教育・保育です。2階の専門的な内容の本よりもライトなテーマで、子連れの方も来られることが想定されるので、遊び心があるフロアになります」(岡田副本店長)
棚の端を円形にしたのも、棚から棚へとスムーズに移動しやすくするための工夫だという。この円形の端には「積読サイン」と呼ばれる標識があり、ジャンルと棚番号が記されている。その下には各棚の新刊、通称「ルーキー本」が置かれ、棚ごとの個性を打ち出している。
●歩き疲れたら3階の「喫茶ちそう」で一休み
3階にはトークショーなどが開催できる「つながりの広場」というイベントスペースもある。キャパシティーは約30人。壁面の棚には過去5年間のベストセラーや、開催中のイベントに関する本、近々で開催予定のイベントに関する本などが並ぶ。あえて壁を作らずにセミオープンなスペースにしたのは、イベントの熱気が店内にあふれ出し、より多くの人の好奇心を刺激するため。もっとも、カーテンを引いてクローズドな空間にすることもできる。有料イベントの場合はカーテンを引き、参加者のみが楽しめるようにする。
「イベントは3月17日時点で、すでに3月が9本、4月が9本決まっていますが、もうちょっと頻度を上げていきたいと考えています。理想は土日には必ず入り、平日にもう1本入るという週3ペースです」(岡田副本店長)
そして、書店に欠かせない存在のカフェも3階にある。「喫茶ちそう」という店名で、三省堂書店145年の歴史の「地層」や「ごちそう」といった意味が込められている。目玉メニューも店名にちなみ、クレープ生地とクリームが層になったミルクレープだ。席は約60席。店内を歩き疲れたらぜひ一休みしたい。書店内のカフェ特有の静寂が流れ、購入した本に没入するのにうってつけだ。
取材・文/茅島奈緒深 写真/尾関祐治

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