科学的根拠に基づかない情報や描写が盛り込まれた「福島題材の映画」が国内外で上映されている問題で、新潟県の地元紙「新潟日報」(新潟市)が4月21日、同映画の宣伝に繋がる記事を掲載していたことがわかった。
同映画を巡っては、これまでに日経新聞や毎日新聞、大分合同新聞なども宣伝に繋がる記事を掲載していたことが判明しており、新潟日報で10社目となる。
福島の差別や偏見の再生産に加担
映画「こんな事があった」は、2025年9月から国内20カ所以上のシアターで公開されており、オランダのロッテルダム国際映画祭(2026年1〜2月)でも招待作品として上映された。
舞台は「2021年夏の福島」。作中には、主人公の母親が「被曝で死亡した」とする情報や、鼻血を伴って倒れた若い男性が死亡する描写が含まれている。
さらに、鮮魚コーナーに並ぶ東北産の魚を前に、登場人物が「だめ」「なんにも食べられない」と語る場面や、原発事故の影響で子どもを産めないと受け取れる描写も確認された。
国連の専門機関「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)は、福島の原発事故による被曝について、「健康影響が確認されるレベルではなかった」と結論づけている。
一方、監督・脚本を務めた松井良彦氏は3月21日、大阪市内でハフポスト日本版の取材に応じ、こうした情報や描写について「事実だ」と語った。
こうした映画の内容を十分に検証せず、記事として掲載・拡散したメディアの姿勢について、福島を研究する東京大学大学院の開沼博准教授は「福島の人々への差別や偏見の再生産に加担した可能性がある」と取材に指摘。
その上で、「信頼を売りにする報道機関が肯定的に取り上げれば、科学的根拠に基づかない描写も『実際に起きたこと』と受け止められかねない」と懸念を示した。

映画の公式ウェブサイトを接写(Keita Aimoto / Huffpost Japan)
新潟日報は「読者応答担当」が取材に回答
一方、新潟日報は4月21日、「福島第1事故題材 25日から映画上映 新潟中央区」と題する記事を掲載した。
記事では、同映画について「東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で家族が離散した青年や友人の姿をモノクロームで描く」と紹介。
出演俳優やトークショーの開催に触れ、上映場所や日時などの情報も伝えた。
これを受け、ハフポスト日本版は同日、新潟日報に対し、複数の質問を送った。
具体的には、「誤った福島像」を拡散してしまうことについてどのように考えているのか、こうした描写が福島の人々への差別や偏見につながる可能性を認識しているのかを尋ねた。
また、ジェンダーや外国人といったテーマにおいて、根拠に乏しく差別に繋がる描写を含む作品であっても、今回と同様に宣伝に繋がる形で取り上げるのかについても見解を求めた。
これに対し、新潟日報は4月23日、読者応答担当名で回答。
「記事の編集方針の詳細についてはすべてを説明していない」とし、「原発について語り合う機会を持とうという市民の取り組みが近日行われることを主に紹介した」と答えた。
このほか、東京電力柏崎刈羽原発が立地する新潟県において、市民が自主的に原発問題について語り合うことは「報道する意義がある」と述べた。

Keita Aimoto / Huffpost Japan
これまで9社が“宣伝記事”を掲載
この問題を巡っては、ハフポスト日本版がデータベースサービス「G-Search」などを用いて取材した結果、新潟日報のほかにも、大手紙など少なくとも9メディアが、同映画の宣伝に繋がる記事を掲載していたことが分かっている。
具体的には、日経新聞、株式会社共同通信社、毎日新聞、大分合同新聞、東京新聞、日刊スポーツ、サンケイスポーツ、デイリースポーツ、中日スポーツの9社だ。
しかし、新潟日報の記事と同様、これらの記事はいずれも宣伝的な内容にとどまっており、映画に含まれる科学的根拠に乏しい描写について、検証や批判的な言及は確認できなかった。
ただ、英字紙のジャパンタイムズは、2025年9月18日付の記事で松井監督の問題意識に一定の理解を示しつつも、福島を「放射線によって住民がゆっくりと蝕まれている場所」と描いた点について、「偏執的(paranoid)」だと指摘していた。

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