左より)森下唯、鈴木優人、平野レミ、山中惇史

 今年の「調布国際音楽祭2026」のテーマは「おいしい音楽、めしあがれ。」。注目の公演が並ぶ中、異彩を放つのが6月27日の「平野レミの即興キッチン」である。

 同音楽祭では2年前から異なるジャンルとのコラボレーション公演を開催し、すでに音楽祭を象徴する企画となっている。今年は音楽と料理のコラボ、しかも料理愛好家でシャンソン歌手でもある平野レミを招き、何が起こるかまったくわからないステージとなる。この公演に出演する平野レミと、近年深く料理にはまっているというピアニスト山中惇史、エグゼクティブ・プロデューサー鈴木優人とアソシエイト・プロデューサー森下唯の4人が集まり、「料理と音楽」について、笑いの絶えないトークを繰り広げた。

取材・文・構成:林昌英 写真:有田周平

—— 今回「料理と音楽」に至ったきっかけは?

優人 この音楽祭は、バッハの音楽に基礎を置くこと、次世代の若い人たちに音楽をたくさん聴いてもらうこと、そしていろんなジャンルとコラボしていくこと、をテーマに掲げてやってきました。そのコラボ企画として、森下さんから料理という案が出たんです。

森下 コラボ企画が一つあると、音楽祭の柱というか、コアなメッセージにもなります。ここ2年は優人さんのアイディアで、「将棋と音楽」と「鉄道と音楽」を開催しました。特に将棋はなかなか音楽と一緒にならないジャンルで、面白かった。

優人 そして、料理とのコラボを思い描くなかで、山中くんとレミさんが仲良しと聞いて、もともと山中くんにもピアニストとして音楽祭に出演して欲しかったので、これはもう一緒に来てもらおうと。その結果、すごく料理をつくる山中くん、森下さんも料理は好き、僕は少しだけで大してつくれない。毎回コラボ企画に出てくれているヴァイオリニストの廣津留すみれさんが今回も出演しますが、彼女は全然つくらない。そこに平野レミさんが加わる。こういう人たちが出会って、料理と音楽を通して何が起こるか?

 平野レミは3年前の宮崎国際音楽祭にゲスト出演し、そこで山中惇史と共演して以来、すっかり親しくなり、今では山中のことを「あっくん」と呼ぶ仲に。

レミ 私はシャンソンばっかりで、クラシックは関係なかったんだけど、あっくんと知り合ってからもうピアノ大好きになっちゃって。

山中 初めてお会いしたのは3年前の宮崎国際音楽祭で、レミさんの人生を、キーポイントになった音楽と共にたどるという企画があったんです。

レミ そうそうそうそう! 「ツィゴイネルワイゼン」が良かったのよ。私が小学生くらいのとき、親戚の家のガラス拭きに行ったら「ツィゴイネルワイゼン」かけてもらって、そうするともうガラス拭きにピッタリで!

一同 「ツィゴイネルワイゼン」が掃除にぴったりだったんですね!(笑)

—— 山中さんは料理を本格的に始めたのはコロナ禍のときからだそうですね。

山中 時間ができたことで、いろいろ器具とか集めてやってみたら楽しくて、すっかりはまっています。実は昔から料理動画を観るのは好きで、そこでレミさんも観ていました。テレビだとやんちゃに見えるけど(笑)、人柄がにじみ出ていて、実は真面目というかとても優しい人なんだろうなとも思っていました。あと、レミさんと和田誠さんとの思い出のお話が素敵なんです。とくに「外のどんな料理よりも、家でレミさんと食べる料理が美味しい」というお話が良くて。

レミ 私がいつもお料理するようになったのはね、夫の和田さんが絶対にまずいって言わなかったのよ、私の料理を。48年間いつも「レミの料理はおいしいね」って言ってくれて。それで嬉しくて調子に乗って続けてたら、こうなっちゃったの。あっはっはっ(笑)

—— 公演中に料理はつくるんでしょうか?

優人 今回は舞台上にIH調理器を用意してつくりたいと思います。公演の後半は、とにかく料理で盛り上がって、その合間にちょっと弾かなきゃ!って感じにしたい。すみれさんには、レミさんの大好きな「ツィゴイネルワイゼン」も弾いてもらいますよ。

レミ 本当!? いいなーいいなー!(笑)

 シャンソン歌手でもある平野レミは、「料理と歌で幸せにしたい」という思いが強い。

レミ 子どもの頃、レコードでいろんな曲かけていたら、シャンソンがもういい歌ばっかりで、どんどんどんどんのめり込んでいっちゃったんです。そしたら父が「ちゃんと習うか」と言ってくれて、習いに行って。それからプロになっちゃったんです。和田さんもジャズが好きで、音楽も常に近くにあった。本当に「歌=料理」で、幸せになります。

 4人の話は途切れず、「調布だから、『ゲゲゲの鬼太郎』にちなむバージョンで料理を…」など料理のアイディアも出てくる。そして、平野レミの夫・和田誠が亡くなった後、大量の本の中から発見されたという、彼女宛てに作っていた歌を披露する一幕も。最後に、4人にこの公演への思いを語ってもらった。

山中 とにかくレミさんの、「元気で天真爛漫で明るくて」っていうだけではない、テレビではわからない魅力を、音楽やレミさんの話を通してみなさんに知ってもらえたら、素敵だなと思いますね。

優人 レミさんと山中くんが調布に来てくださるだけで、僕らの仕事の多くは終わっています(笑)。ホールは500席なので、プラチナチケットになると思うんですけど、至近距離でレミさんや山中くんの音色と人柄に触れてもらって、きっと“おいしい”コンサートになると思います。

森下 たしかに、いまお話を聞いていても、山中さんとレミさんの人柄が伝わるコンサートになったら、もうそれだけで価値があるなと思えてきました。料理も音楽も、やっぱり人柄が出て、そこが魅力的なのが共通点ですね。それに音楽祭はお祭りで、食べるものや飲むものが出ていると、人が集まってきやすくなるのかなと。

レミ ホントに音楽を聴いていると幸せで。ご飯食べるのと同じぐらい幸せなんですよ。だから、ご飯食べながら音楽聴いたら、楽しさ2倍になるのよね!

優人 いやもう、これは素晴らしいお言葉。今日の締めくくりにピッタリですね!(笑)

林 昌英 Masahide Hayashi

出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。

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