トップモード誌の編集部を舞台に、ファッションとキャリアを描いた人間ドラマが人々の心を鷲掴みにした映画「プラダを着た悪魔」の続編が、5月1日に公開される。メリル・ストリープ(Meryl Streep)、アン・ハサウェイ(Anne Hathaway)、エミリー・ブラント(Emily Blunt)ら、前作で鮮烈なキャラクター像を印象づけたキャストが20年の時を経て集結。それぞれの道を歩んできた登場人物たちのキャリアと関係性がどのように交差するのか─再び動き出す物語に期待が高まる。続編公開を前に、あらためて同作の魅力を読み解く。

語り継がれる、信念と決断の物語

2006年の公開から約20年。いまなお繰り返し鑑賞され、“働く女性のバイブル”として支持されていることは、「プラダを着た悪魔」の続編発表に対する大きな反響を見ても明らかだ。

本作の面白さは、ファッションを単なる消費としてではなく、歴史と構造を持つ芸術表現として見せたところにある。象徴的なのが、ファッション業界のトップモード誌「ランウェイ」の編集長であるミランダ・プリーストリー(Miranda Priestly)が、アシスタントに採用したアンドレア・サックス(Andrea Sachs以下、アンディ)が着る“セルリアンブルー”のセーターに言及するシーンだ。その色は、実は過去のコレクションや無数の選択と労働の積み重ねによって生まれたものであると語られる瞬間、観る者は自分の選択が巨大な市場や文化の流れの中に組み込まれていることを知る。ファッションは、歴史と文脈を持つ表現であり、誰かが決め、作り、流通させた結果として私たちの手元に届く。ファッションを普遍的な仕事と結び付けながら、自分もすでにその構造の中にいることに気づかされる。

ジャーナリスト志望でファッションとは無縁だったアンディの変身も、違う世界に足を踏み入れる彼女を象徴している。メイクを施し、ラグジュアリーブランドの服をまとい、ヒールでニューヨークの街を歩く。外見の変化は周囲のまなざし、彼女への扱いそのものを変え、自己認識も塗り替えていく。誰もが一度は夢見る、変身の高揚。だがその一方で、代償も静かに積み上がる。ミランダから求められる「あなたの仕事」という名目で、恋人の誕生日や友人との時間、第1アシスタントのエミリーの“夢”が天秤にかけられていく。描かれているのはファッション業界に限らない、いまも形を変えながら残る、働き方の枠組みだ。

ミランダという存在もまた、単純な“悪魔”としては片付けられない。「彼女が男だったら“有能な人物”だと誰もが褒めるはず」というアンディのせりふが示すように、その強さはジェンダーの不均衡とは切り離せない。感情を抑えながらもほんの一瞬見せるもろさに、権力構造に適応しながら自らの居場所を守ってきた女性の姿が垣間見える。メリル・ストリープが、ミランダを現実に存在しうる人物として浮かび上がらせている。だからこそ、「あなたは私に似ている」という言葉がアンディの足を止める。自分が進もうとする先にある未来の孤独を見てしまう。そしてアンディは、誰もが憧れる場所ではなく、構造を理解した上で、それでも自分が信じる道を進むことを選ぶのだ。

変わりゆくファッション業界とメディア

映画が記録するファッションの時代性も見逃せない。前作では、ファッションショーは編集者やバイヤーが最前列に座る、比較的閉じた業界の空間として描かれていた。しかし現在、その光景は大きく様変わりした。続編「2」で登場人物が置かれる状況と同じく、雑誌は存続の危機に立たされ、ファッションショーはデジタルでの可視性を競うメディアイベントとなった。エミリーのように、出版業界からラグジュアリーブランドへとキャリアシフトする流れも一般的になっている。

もちろん、この作品の価値観を現代の視点だけで判断することは難しい。けれど、20年前に比べ、ハラスメントやルッキズム、既存の力関係のルールを内面化するあり方は、明らかに問題視されている。アンディのキャリアが実力だけでなく、性別と切り離せない評価の構造の中で形づくられていくように描かれる点も含め、前作には現代では議論を呼びうるリアリティーが確かに存在する。それでもなお、この映画が色あせないのは、その時代をきれいごととして回収することなく映し出しているからだろう。今年の3月中旬に行われた第98回アカデミー賞授賞式では、アンディを演じたアン・ハサウェイとミランダのモデルといわれるアナ・ウィンター(Anna Wintour)が壇上に並び、アンにアシスタントの総称である「エミリー」と呼びかけるやり取りがジョークとして交わされた。この作品の構造が、もはや普遍的な文化的リファレンスとして共有されていることがうかがえる。

この20年でデジタル化が進み、価値観も大きく変わった。ニューヨークの街中を歩くアンディの通勤コーディネート変身シーンは、SNSで当たり前のように流れてくる服装チェンジ動画になり、“夢の仕事”という言葉の意味さえ揺らいでいるいま、続編に期待したいのは、単なるノスタルジーではない。報道記者を経て再び「ランウェイ」に戻ってきたアンディ、ラグジュアリーブランドの幹部となったエミリーらの選択の積み重ねの行方だ。これからを生きる女性たちの葛藤、連帯、小競り合いが、スクリーンで再び動き出すのを観たい。そして、“モラルポリス”とも呼ばれる視線が強まる現代社会で、“悪魔”と呼ばれたミランダはどのように時代にフィットした変容を遂げ、トップに君臨しているのか。アカデミー賞の壇上が、その答えを暗喩している。

VOICES
業界人が語る、
「プラダを着た悪魔2」への期待

INFORMATION

「プラダを着た悪魔2」2026年5月1日劇場公開

監督:デヴィッド・フランケル
脚本:アライン・ブロッシュ・マッケンナ
キャスト:メリル・ストリープ アン・ハサウェイ エミリー・ブラント スタンリー・トゥッチ

PHOTOS:© 2025 20TH CENTURY STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
TEXT : TOMOKO OGAWA

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