大学時代の友人に会うため、会津若松へ行った。

一泊二日の道中、郡山でブラックラーメンを食べ、フルーツピークス本店でタルトを食べ、会津若松に移動してからは馬刺しを食べ、翌日は昼にソースカツ丼と山塩ラーメンを食べた。

実は執筆の取材も兼ねていたのだが、食べ物の思い出ばかりである。


ブラックラーメン。

福島行きを決めた時から、どこかの書店さんで「あなたの書店で1万円使わせてください」の取材をしたいと思っていた。いずれ、この企画で47都道府県を制覇するのが私の密かな野望である。ちなみに今まで訪れたのは、北海道、埼玉、東京、神奈川、静岡、福井、滋賀、大阪、佐賀の9都道府県。

真っ先に思いついたのが、「岩瀬書店富久山店プラスゲオ」さんだった。こちらのお店の書店員さんからは、たびたびゲラ・プルーフの感想をいただいていたからだ。(福島県内の他店の書店員さんからの感想も、ありがたく拝読しています。念のため。)

あらためて調べてみると、こちらのお店はかなりの大型店のようだ。さっそく出版社を通じて取材を申し込んだところ、快諾していただいた。

なんの気構えもなく訪れた取材当日、私はいろいろな意味で予想を裏切られることになる。これまで百以上の書店を訪問してきたが、「あんなもの」が屹立している書店は初めてだった……。

初の福島県での買い物、ぜひご一読を。

 

 

2月某日、私は郡山駅に降り立った。福島県に来るのは、中学の修学旅行以来、実に20数年ぶりである。

駅から岩瀬書店富久山店プラスゲオまでは、タクシーに乗ること約15分。ちなみに、最寄りの停留所は福島交通路線バスの「八山田」だ。

売り場面積1150坪の大型店は、威容を誇っていた。もはやちょっとした城砦である。


フルーツピークス本店が近くにあるので、甘いもの好きな方はぜひチェックを。

こちらのお店には、カフェ、スーパー、100円ショップ、美容院など多様な業種のお店が入居している。1日いても飽きないようなつくりになっているのだ。大型店だからこそできるやり方だろう。


駄菓子屋さんもあります。

お店の皆さんにご挨拶してから、正面の出入口で恒例の1枚を撮影。この日は単身での訪問のため、お店の皆さんに撮影ご協力いただきました。ありがとうございます。


快晴。

本企画のルールは「(できるだけ)1万円プラスマイナス千円の範囲内で購入する」という一点のみ。さっそく自腹(ここ重要)の1万円を準備して、買い物スタート。

正面入ってすぐ、秋吉理香子『聖母』(双葉文庫)が、『爆弾』や『汝、星のごとく』と並んで大展開されているのが視界に入った。


すごい。

手書きポップにはこう記されている。

〈富久山店の文芸書担当です。この作品をどうしても、どうしても埋もれたままにはしたくなくて文庫担当でもないのに無理を言って展開させてもらいました 本当にスゴイ作品です ぜひこの衝撃を味わってください〉

つくづく思うことだが、(本に限らず)誰かの「オススメしたい!」という熱意は凄まじい威力を持っている。このポップもそうだ。やはり素通りすることはできず、気が付けば手に取っていた。

このお店でなければ買わなかったかもしれない、という本との出会いこそが書店訪問の醍醐味。というわけで、今日の1冊目はこちらに決定。


衝撃を味わいます。

すぐ近くで展開されていたのが、『幸楽苑の大逆転 原点回帰で奇跡のV字回復!!』。東日本を中心に多くの店舗を持つ幸楽苑は、郡山市に本社があるのだ。


インパクトあります。

お店の中央アトリウムでは、地元の食品や雑貨が販売されている。ハンドメイド作家の作品を展示するスペースも。


開放感。

レジ前の通路沿いには、おすすめの商品が並んだ什器がずらり。ジャンルを問わず、いろいろな本が揃っている。


黒板の手書き文字がいい。

たとえば、こちら。


ゴッホ!!

こちらは、福島県立美術館で開催される「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」(会期は2月21日から5月10日まで)にあわせた展開。(「大ゴッホ展」公式ホームページ → https://grand-van-gogh.com/ )

ゴッホも気になるが、その下段にあった宮地尚子『傷を愛せるか 増補新版』(ちくま文庫)に目を奪われた。

初めて見かける本だが、帯には「トラウマ研究の第一人者による深く沁みとおるエッセイ」とある。本のたたずまいの気持ちよさ、そして「トラウマ研究」という学問分野に興味を引かれた。

ほぼ一目ぼれで、こちらも購入を決定。


ゴッホの前で。

おすすめのコーナーはひと通りチェック。見ているだけでも楽しい。


『案ずるペンギン』もいる。

その後、雑誌やノンフィクションの棚へ移動。


手帳もあるよ。

歩き疲れた時は休憩もできる。


ベンチがたくさんあるのはありがたい。

ウロウロしている時に、視界に飛び込んできたのが坂本泰紀『アニータの夫』(柏書房)。

30代半ば以上の人なら、「アニータ」とこの表紙イラストでピンと来るはずだ。アニータ・アルバラード。2001年に発覚した、青森県住宅供給公社での巨額横領事件で、犯人の夫から億単位の金を受け取ったとされるチリ人の妻である。

この本は、その夫・千田郁司へのインタビューをもとにしたノンフィクションなのだ。

かつて日本中を巻き込んだ「アニータ」旋風は、中学生だった私の脳裏にもはっきりと残っている。

何せ千田が横領したのは14億円と、尋常ではない金額である。アニータの奔放なキャラクターも相まって報道は過熱、一時はワイドショーやニュースで見ない日はないほどだった。ただ、逮捕された「アニータの夫」側からの証言は読んだ覚えがない。

アニータの一件を忘れられない人間として、買わないわけにはいかない。


今回購入した本で最初に読んだのがこの本。

続いてキッズルームへ。


こちら。

週末は家族連れで大賑わいだそう。絵本や児童書が大充実している。


毎週日曜に何らかのイベントがある。

プレイスペースも設けられている。小さい子どもがいる家庭にとって、こういう遊び場は本当にありがたい。


書店内にすべり台まであるのは、実は珍しいのでは。

さらに驚いたのは学参コーナーである。

学生向けに、「自習スペース」が設けられているのだ。利用にあたって店内の商品を買う必要はない。ただ勉強だけして、帰ってOKなのだ。


ルールを守れば自由に使える。

すばらしい取り組みである。しかもここだけでなく、岩瀬書店の他の店舗にも同様のスペースがあるという。この後で岩瀬書店会津若松店も訪れたが、そちらにも自習できる場所が設けられていた。


会津若松店。窓際のテーブルで学生さんが勉強していた。

以前、掛川市の高久書店にご挨拶した時にも二階の自習室(読書室)を見学させてもらったが、同様の取り組みはそれ以来だ。

この取り組み自体はすぐさま金銭的な見返りを得られるものではない。しかし地元の子どもたちが書店との接点を持つ貴重な機会であり、「書店に通う」という習慣を養う意味では意義深いだろう。

その後も店内をぐるりと一周した。


コミック売り場を一望。

人文書の棚を見ていると、前々から気になっていたタイトルを発見。水野太貴『会話の0.2秒を言語学する』(新潮社)である。

この企画で以前、堀元見さんの本を購入したが、その堀元さんとYouTube「ゆる言語学ラジオ」に出演されているのが水野太貴さんだ。堀元さんの本がとても面白く、水野さんの本もぜひ読んでみたいと思っていた。

というわけで、こちらも購入決定。


6万部突破!

そして店内を歩いているうち、ついに私は「それ」を発見する。


???

トーテムポールである。

書店になぜトーテムポールが? しかもかなり「ホンモノ」感がある代物だ。説明書きにはこう記されている。

〈トーテムポールとは


日本でいう紋章(記念柱)のようなものです。


郡山の地にお店を構えられた感謝の気持ちと、本や映像などを通して活字文化が育まれた未来へ伝承される希望を込め、バンクーバー店のあったカナダより取り寄せました。〉

うーむ。わかるようでわからん。

なんにせよ、存在感はある。ここで初めて気付いたように書いたが、実のところ、入店した時から視界には入っていた。


背面には、訪問した作家さんのサインが。

しばらくトーテムポールを眺めていたが、「そういえば本を買いに来たのだった」と思い出して新書の棚を見てみることに。すると、こちらでも前から気になっていた本が目に留まった。

東畑開人『カウンセリングとは何か 変化するということ』(講談社新書)だ。東畑さんの本は本当に外れがなく、どれも面白い。この本も読みたいと思いつつ、忙しさにかまけて読めていなかった。

こちらも購入決定。


新書大賞第1位!

少し離れたところにある、地元にまつわる本などもチェック。


『会津百年花』は小川渉という人物の伝記のようだ。

あと1冊か2冊は買えそうだ。

ウロウロしていると、横山勲『過疎ビジネス』(集英社新書)を発見した。

「コンサル栄えて国滅ぶ。」という衝撃的な文言が帯に躍っている。帯には、本文からの引用としてこんな文章も記されている。

〈「無視されるちっちゃい自治体がいいんですよ。


誰も気にしない自治体」


「(地方議員は)雑魚だから。


俺らのほうが勉強しているし、分かっているから。


言うこと聞けっていうのが本音じゃないですか」


福島県国見町の官民連携事業を請け負った企業の社長が、社外の関係者との打ち合わせで語った言葉だった。〉

ひ、ひどい。

「福島県国見町」と記されているが、福島の書店でこの本と出会ったのも何かの縁だ。最後の1冊はこちらに決定。


トーテムポールと。

ここまでで6冊。あと1冊いけそうな気もしたが、「大幅にオーバーするのも企画趣旨と違うよな」と妙な几帳面さが働き、ここでストップすることに。


お願いします。

さて、今回はいくらになるだろう。


……。

やっぱりあと1冊いけたな……。

しかしお会計の後で買い足すのも恰好がつかない。今日はこれにてフィニッシュ。

 

 

帰りには、醤油をお土産にいただいてしまった。こちらは「岩瀬書店が挑戦した木桶仕込み醤油」という商品名。調味料まで作っているのである。


美味しくいただきます。

買い物中の光景を振り返ってみれば、自習スペースといい、中央アトリウムといい、巨大トーテムポールといい、他の書店では見かけないものがいくつもあった。醤油作りも、書店としては異例と言っていい。こうしたチャレンジ精神が、同店のオリジナリティ溢れる雰囲気に貢献していることは間違いない。

今回の取材を通じて、書店は「本を買う場所」であると同時に、「人が集う場所」なのだと強く感じた。岩瀬書店富久山店プラスゲオは、これからも市民に愛される場として、独自の輝きを放ち続けることだろう。


トーテムポールにサインさせてもらいました。

それでは、次回また!

 

【今回買った本】

・秋吉理香子『聖母』(双葉文庫)

・宮地尚子『傷を愛せるか 増補新版』(ちくま文庫)

・坂本泰紀『アニータの夫』(柏書房)

・水野太貴『会話の0.2秒を言語学する』(新潮社)

・東畑開人『カウンセリングとは何か 変化するということ』(講談社新書)

・横山勲『過疎ビジネス』(集英社新書)

WACOCA: People, Life, Style.

Pin