2010年代後半、サウス・ロンドンを中心に英国の各地やアイルランドから現れた新世代のバンドたち。その群れは、ひとつのムーヴメントをなしていたことはたしかだ。なかでも特に国際的な注目を集めたブラック・ミディは、もっとも刺激的なレコードを作っていたし、その動きを象徴するバンドだったと言っていいだろう。
 それゆえに2024年10月に表面化した彼らの活動休止ないし解散の問題、メンバー個々が今後ソロ・キャリアを追求していくという報は、ここ日本のファンの間でもそれなりの衝撃をもって受けとめられた。とはいえリード・シンガーのジョーディ・グリープは直後に、ブラジルでの録音を含むアルバム『The New Sound』でもって文字どおりの意味で“新しい音”を提示し、リスナーを力業で納得させてしまったのだが。

 そしてバンドのベーシストだったキャメロン・ピクトンも、ジョーディのようにわかりやすく“New”を掲げた。マイ・ニュー・バンド・ビリーヴという、ちょっと笑える名前のプロジェクトである。
 キャメロンの“新しい音”とは何か。それは、まずはアコースティック・ギターという楽器の可能性の追求である。アコースティック・ギターのテクスチャーをさまざまな手触りで鳴らしていることは、ここに届けられた『My New Band Believe』というアルバムを聴けばよくわかる。さらに「電気楽器を使わない」という縛りプレイを自身に部分的に課し、ストリングスなどを配してチェンバー・ロック的な領域に足を踏み入れたことも、アルバムの方向性を決定づけている。
 キャロラインのメンバーも多数参加したこのアルバムには、即興性もかなり感じられる。しかし、そこにはポスト・ロック的なカット&ペーストのメスが入れられており、実はバンドとしてのアンサンブルではないことが、キャメロンの口からは語られた。通訳の青木絵美からは、「ブラック・ミディが『コントロールされたカオス』と評されたのに対して、キャメロンは、マイ・ニュー・バンド・ビリーヴの音を『コントロールされた即興』と表現していたのが印象的でした」というメモが届いている。
 コントロールされた即興。つまり、トータスの『TNT』のフォーク・ロックやチェンバー・ロック・ヴァージョンとでも言えばいいだろうか(奇しくも2026年は、『Millions Now Living Will Never Die』やガスター・デル・ソル『Upgrade & Afterlife』のリリ-スから30周年である)。演奏を切り張りするなんていまではまったく珍しいことではないが、即興と編集の実験ということでは、テオ・マセロがマイルス・デイヴィス・バンドの演奏を切り張りしていた時代からhikaru yamadaがおこなっている近年に至るまで、刺激的な歴史がある。『My New Band Believe』は、その最新の成果として新鮮に、しかも親しみやすいメロディを伴ってじつに心地よく響く。
日本のリスナーにとっては、特に興味を惹かれる部分もあるだろう。松丸契の参加や、Dos Monosの没 a.k.a NGSとの会話から生まれた曲名などがそうだ。山上徹也の存在にキャメロンがインスパイアされている、なんて事実もおもしろい。
 それでは、キャメロンがどのようにして“新しい音”を手に入れたのか。彼へのインタヴューをお届けしよう。

エレクトリック楽器を否定するというよりは、単純にこの質感にフォーカスしたかった、ということなんだ。アコースティック・ギターを使ったときに生まれるテクスチャーや、その可能性に集中してみたかったって感じだね。

■まずマイ・ニュー・バンド・ビリーヴというプロジェクトはいつ、どんなところから始まり、どう発展していったのでしょうか?

キャメロン・ピクトン(以下、C):このプロジェクトが始まった明確な一点があったわけではないと思う。ブラック・ミディを離れたあとに自分が何をやりたいのか、そして、このプロジェクトを始める前に何をやりたいと思うのか、その両方についてじっくり考えつづけるなかで、長い時間をかけて形になっていったものなんだ。

■なるほど。アルバムでは、全編にわたってアコースティック・ギター、コントラバスやヴァイオリンなどの弦楽器、ピアノといったアコースティック楽器が使われています。「電気楽器を使わない」というルールを設けたそうですが、アコースティックな音にした理由は?

C:アコースティック・ギターに関して、自分のなかで面白い音やテクスチャーを探れるんじゃないかというアイデアがあったんだ。そこにエレクトリック・ギターを加えると、そういう部分が逆に損なわれてしまう気がしていた。だからそうした、というだけなんだよね。エレクトリック楽器を否定するというよりは、単純にこの質感にフォーカスしたかった、ということなんだ。アコースティック・ギターを使ったときに生まれるテクスチャーや、その可能性に集中してみたかったって感じだね。

■ギタリストとして、エレクトリック・ギターと異なるアコースティック・ギターの好きなところ、あるいは難しいと感じるところを教えてください。

C:音の発生源と直接つながっている感覚があるのが好きなんだ。もちろんエレクトリック・ギターには、いろいろなプロセスを経て音が出てくる面白さがあって、自分以上の大きなものを扱っているような感覚になるのも魅力だと思う。でも一方で、アコースティック・ギターは音を生み出す行為とすごく密接につながっているのがいいんだよね。
 あと、ギターのボディを叩いてリズムを出すような、いわゆるパーカッシヴな奏法ってあると思うんだけど、ああいうのって時々ちょっとベタに感じてしまうこともある。でも実際には、まだまだ可能性はあると思っているんだ。そういう既存のやり方も含めて、まだ掘り下げられていない部分がたくさんあるはずだと思って、僕はそこをもっと追求してみたかった。

■アルバムのなかで、ギターはさまざまな音で響いています。スティール弦のものやナイロン弦のものなど、複数の種類を弾いているんですか?

C:うん。アコースティック・ギターで出せるいろいろな質感をかなり試していたんだ。いろんな種類のアコースティック・ギター――たとえばクラシック・ギターも含めて使っていて、そのなかには安いものもあれば高いものもあるし、古いものも新しいものもある。そういうちがいによって生まれる微妙なテクスチャーの差をいろいろ試していた、という感じだね。

■アルバムに先駆けてリリ-スされたシングル2曲“Lecture 25”“Numerology”は、アルバムには未収録です。これはなぜ?

C:特に理由はないんだけど、でもこの作品にはどちらの曲も合わないと感じたんだ。それは、実際に聴けばわかると思う。あとはタイミング的な理由もあって、“Numerology”のレコーディングが終わったのが、曲がリリースされた2週間前くらいで、アルバムはすでに提出して承認されていないといけなかった。(2025年)12月の初めにはテスト・プレスに回す必要があったからね。だからもし“Numerology”を収録していたとしたら、もっと出来の悪いヴァージョンが収録されていたよ。

■それでは、具体的な収録曲についてお聞きします。“In the Blink of an Eye”と“Actress”は弦楽器のアレンジが特に印象的です。どのように編曲していったのでしょう?

C:あれはキーラン・レナードがアレンジしているんだ。だから編曲そのものについては、僕の手柄というわけではないよ。ただあの2曲には、弦を入れたいという考えは最初からあった。エレクトリック・ギターを使わないと、簡単に音を長く伸ばすことができなくなるんだよね。いわゆるサステインの部分が失われてしまう。でも弦楽器は弓で弾くことで音を持続させることができるから、その役割を自然に補ってくれる存在だった。だから、エレクトリック・ギターの代わりとして弦を使うのはすごく自然な流れだった、という感じだね。

■またソングライティングについてですが、全体的にメロディアスで、旋律が魅力的な曲が多いです。ザ・ビートルズやクイーン、初期のジェネシスなどを思わせる、英国らしいメロディだと感じる曲が多いと思いました。メロディを書く際に意識したことは?

C:もともと多くの曲は、たった一度のライヴのためだけに書いたものなんだ。ただそれをやるためだけに書いて、もしかしたら二度と演奏しないかもしれない、という前提で。だから僕にとっては、ギター一本で曲全体のアレンジとして機能するような面白いパートが必要だったし、同時に人が口ずさめるような魅力的なメロディも必要だった。そして、その一度きりの場でその曲を聴いた人が、もう二度と聴くことがなかったとしても、何かしら心に残るようなものにしたかったんだ。
それに加えて歌詞も、歌い方によっていろいろな解釈ができるようなものにしたかった。たとえば、誰か特定の人物について歌っているようにも受け取れるし、別の意味にも取れるような、そういう余白のあるものにしたかったんだ。

■本作の音楽性はチェンバー・ロック的だと思います。制作にあたって参考にした作曲家や作品はありますか?

C:うん。主に1960年代後半のイングランドのフォーク・リヴァイヴァルの作品だね。ペンタングル、ジョン・レンボーン、バート・ヤンシュ、フェアポート・コンヴェンション、スティーライ・スパン、その辺だね。

■“Heart of Darkness”の曲名は、映画『地獄の黙示録』の原作としても有名なジョゼフ・コンラッドの小説『闇の奥』に由来しているとのことです。この曲名と歌詞は、どのようにして書いたのでしょう?

C:歌詞について言うと、もともとこの曲は『闇の奥』との関連を特に意識せずに作っていたんだ。最初は別のタイトルがついていたんだけど、それがしっくりこなくて、タイトルを決めるのにかなり時間がかかった。それで、マスタリングの終盤あたりで、ジョゼフ・コンラッドのことだったか、彼の『闇の奥』という本のことを思い出したんだよね。そうしたら、この曲の物語とすごく似ていることに気づいた。
 曲のタイトルって、歌詞で起こっていることを示唆するような役割があると思うんだけど、このタイトルはその“鍵”としてちょうどいいと思ったんだ。とはいえタイトル以外の部分で、両者に明確な意図的なつながりがあるわけではないんだけどね。

■そして、その“Heart of Darkness”は8分31秒の大曲ですよね。クラシックやプログレッシヴ・ロックの曲のように構成が複雑で、3、4章に分かれた物語のように壮大です。どのように書いて、構成していったのでしょう?

C:これは……もともとコロナ禍のロックダウン中に作り始めた曲なんだ。そのあとしばらく完全に忘れていて、ブラック・ミディが解散したあとにまた作るようになって、そこからさらに発展させていった。いわゆるコーラス(サビ)みたいなものがある感じではなかったんだけど、サクッと作ったセクションがあって、それは覚えている。それを軸にしながら広げていった感じかな。
 最初、コロナ禍のときに作っていたときは、ブラック・ミディに持っていくつもりもなかったし、正直、誰かに聴かれるとも思っていなかった。ただ自分のためにやっているという感覚で、思いつくままにどんどん要素を足していったんだ。完全に自己満足的なものだったね。

■曲の後半では、インプロヴィゼーションの要素がかなり増えています。バンドでどうやって演奏したのでしょう?

C:いや、実は一緒に演奏しているわけではないんだ。そこがポイントなんだよ。まず僕がハーモニクスを録音して、その上にスティーヴ・ノーブルが2回オーヴァーダブしている。それが、聞こえているものなんだ。それで次の日に、カイアス・ウィリアムズがさらに2回オーヴァーダブして、それが重なっている。あと少しサックスも入っていて、断片的なフレーズが差し込まれている。これも同じように即興的な要素ではあるんだけど、いわゆる全員が同じ部屋で一緒に演奏している即興ではないんだ。いくつものレイヤーを重ねていく形で作っていて、ハーモニクスもいろんなギターで何層にも重ねている。だから、いわばコントロールされた即興(controlled improvisation)、という感じだね。

■かなりレイヤリングやエディットがされているというわけですね。“Heart of Darkness”や“Pearls”には、クワイアのような合唱が重ねられています。合唱を入れた理由や、編曲方法について教えてください。

C:音楽の専門家じゃない人たちでも、何かしらの形でこのレコードに関われるようにしたいと思っていたんだ。そういう意味で、いちばんやりやすい方法は歌ってもらうことだと思ったんだよ。

■“Actress”について、あなたは「アルバムのなかで最も編集を重ねた曲。今作に収められたストリングスの音は、すべてのテイクを重ね合わせ、それぞれのレイヤーから目立つミスだけを切り取っている」と書いています。ということは、これも録音をかなり切り刻んで編集しているのでしょうか?

C:そうだね。でも、できるだけ自然に聞こえるようにはしているつもりなんだ。自然な流れや感触は保ちたかった。とはいえ実際にどう録音されたかを意識して聴くと、編集されているのはわかると思う。一部はちゃんとしたスタジオで、コントロールされた音響環境で録音しているし、曲の終盤には自分のベッドルームで録った部分もあって、窓を開けていたからアコースティック・ギターの余韻が消えたあとに鳥の声が聞こえるんだ。全体としては、かなり細かく編集して、すべてを意図的に配置している。ただそのうえで、できるだけ自然に感じられるようにしたんだ。

質問・序文:天野龍太郎 Ryutaro Amano(2026年4月17日)

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