セオリーとは無縁のワークフローの下、手練れのアーティストたちが全力で遊びぬくことでカオス感あふれるMVが爆誕。PERIMETRONクオリティのCG・VFXがつくり出される舞台裏に迫る。
記事の目次
King Gnu『AIZO』MV
https://youtu.be/zz2a9Q2Wru0
ⓒ Sony Music Labels inc.
Director:OSRIN/Producer:Kento Yoshida
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「負けられない」が結集した、“トーキョーカオティック”の具現化
今年1月16日にYouTubeで公開されたKing Gnu『AIZO』MV。公開から約1ヶ月で視聴回数3,400万回を突破するなど注目をあつめる力作だ。楽曲タイトル「AIZO(愛憎)」の通り、相反するものが混在するカオス感あふれる5つのパートで構成されており、全編にわたって強烈なエネルギーを放つ。
映像としては実写パートと4種類のCGアニメーションに大別される。実写パートは、King Gnuのメンバーたちの演奏シーンを中心に構成されるのに対して、CGパートはメンバー4人をモチーフにした世界観の異なるゲームムービーテイストのアニメーションに仕上がっている。
「King Gnuのテーマでもある“トーキョーカオティック”に紐づいた映像演出に応えるべく、全5パートは、それぞれ世界観もルックも作業内容も完全に独立した状態で制作を進めました」と、VFXスーパーバイザーとオンラインエディターを兼務した堀江友則氏(XOR)はふり返る。

ⓒ Sony Music Labels inc.
本作のCG・VFXチームは、実写部分と作品全体のまとめ、フィニッシングを担当した堀江氏が率いるXORをはじめ、「AMBIVALENTTSUNETA(常田大希)」をリードしたTHIS MAN、「ゴキナイトイグチ(井口 理)」パートをリードしたのがTEAM ANJIこと潮 杏二氏を中心とするチーム、そして「愛羅武遊(勢喜 遊)」と「SAMURAI ARAI(新井和輝)」の2パートを担当したKhakiが、それぞれOSRIN監督の理想を具現化するかたちで制作が進められた。
「OSRIN監督は基本方針を提示した後、各スタッフが積極的な提案をしてくれることをとても喜ぶタイプです。求められるクオリティのハードルは非常に高いので作業は大変になりますが、その分、やりがいは格別です。年末進行でスケジュールもタイトでしたが、各パートを担当したチームはお互いに『負けられない!』という意識を持ちながら、面白さや格好良さ、今回の作品らしさを追求したと思います。その結果、想像以上のハイクオリティを画に込めることができたのではないかと思います」(堀江氏)。

左から、リードCGアーティスト 古澤優真氏(Khaki)、CG屋さん 石野 雄氏、CG屋さん 齊藤 篤氏(以上、THIS MAN)、VFXスーパーバイザー 堀江友則氏(XOR)、CGプロデューサー 加瀬和磨氏(Khaki)

CG / VFXディレクター 潮 杏二氏

CGディレクター / スーパーバイザー 滝口広大氏(Khaki)
<1>ワークフローとFlameによるフィニッシング
フィニッシングまで貫いた「真剣勝負」の美学
CGパートの基本方針として、各チームがそれぞれコンポジットまで、ほぼ行なった状態でショット単位のQTデータをパブリッシュ。カラーパイプラインにはACEScgを採用し、HD解像度で完パケが納品された。各チームがショット単位で責任をもち、最後にXORが素材を取りまとめてOSRIN監督と共にオンライン編集で仕上げるというアジャイル的なワークフローで、制作は進められた。
堀江氏は、PERIMETRONの案件が本件以外も多く稼働している状態にあるため、それらの作業の最中に本件の内容も自然と聞いていたそうだ。「CGチームがショット単位で9割方の責任をもって完結させるスタイルだったので、EXRの連番データ以外はリクエストしませんでした。私がCGパートで行なったのは、映像データのエラー修正とルックの調整になりました。またOSRIN監督は最後の最後までご自身でもPremiereでエディットを試行錯誤されるので、FlameとPremiereを何往復もすることになります。だから編集内容が先祖返りしないよう、細心の注意を払いました」(堀江氏)。

ⓒ Sony Music Labels inc.
XORへの納品は、ACEScg素材とグレーディング工程を経たRec.709フォーマットの映像の2種類。またOSRIN監督が本編集段階まで積極的にエディットを行う制作スタイルであることをふまえ、DPXシーケンスファイルの取り回しがPremiereにおいて若干使いづらいことから、ProRes形式でのやり取りが採用された。
実写パートのオンライン編集では、堀江氏ならではの遊び心も発揮されている。終盤、女の子がバットを振り下ろす主観カットで、途中で止まりアナログビデオの一時停止のような「プルプル」とした揺らぎが表れるが、これは堀江氏が自発的に加えた演出だ。
「現在のWeb環境かつ23.976fpsだと、中々本物のインターレース表現は難しいため、Flameで細かいつくり込みをしています。フレーム補完法などでプルプルが気持ちよく可愛く見えるような感じをねらいました。こういう表現は今回ハマりそうで監督やプロデューサーも喜んでくれそうだと思って作成しました。そういう遊び心に寛大なのが、OSRIN監督や吉田健人プロデューサーとの画づくりで楽しいところです」(堀江氏)。
OSRIN監督の演出スタイルは、クリエイターへの絶大な信頼の表れとも言えるだろう。「仕事はいつでも真剣勝負。OSRIN監督や吉田Prとは沢山の作品をご一緒させていただき、多くのコミュニケーションを重ねる中で、ある種戦友みたいな感覚もあります。いっさいの妥協なしで作品づくりに取り組む中で、ねばりにねばることによって最後の数時間で一気にクオリティが上がることがあります。映像制作でも執念みたいなものがとても大切だと思っています」(堀江氏)。
Flameによるフィニッシュワーク

▲ Flameの作業UI(MV全体のタイムライン)。OSRIN監督と堀江氏とでデータを共有しつつ、XORにてリアルタイムでやり取りしながら、合成やルックのブラッシュアップ、色の微調整、トーン作成などをくり返したという。「激しく往来をくり返してやり取りをする中でも、処理カットの抜けがないように慎重に作業を進めました」(堀江氏)
ハメコミ合成の例

▲<STEP 1>実写パートにおけるハメコミ合成の例。ゲーム筐体のディスプレイにプレイ画面を合成。図は、ハメコミ用の画素材

▲<STEP 2>実写プレート

▲<STEP 3>マスク処理や馴染ませなど、細かい処理が施された完成形
ⓒ Sony Music Labels inc.
ラストカットのブレイクダウン

▲<STEP 1>実写プレート。テレビデオに砂嵐ノイズを表示させた状態で撮影

▲<STEP 2>直前のカットをフリーズさせた上で、テレビ画面に合成。アナログのテレビということで、一時停止した際のフィールド感を再現するために前後のフレームをループさせた

▲<STEP 3>各素材を馴染ませる処理が加えられた完成形
ⓒ Sony Music Labels inc.
<2>AMBIVALENT TSUNETA/愛羅武遊
“痛快さ”を追求したアドリブが画を磨く
「AMBIVALENT TSUNETA」パートをリードしたTHIS MAN(齊藤 篤氏と石野 雄氏)は、案件や求められる表現に応じて臨機応変に役割を分担するスタイルが持ち味である。
「AMBIVALENT TSUNETAは、音楽へのこだわりと締め切りに挟まれて自己葛藤している存在という説明を受けました。そこでまず2Dベースでデザインからやり取りしていきました」(齊藤氏)。
最初はモンスター要素の強いものを提案していたが、顔については常田大希本人へ寄せる方向にシフトした。
「ショットワークの物量が膨大だったため、モデル制作と並行してアニメーションやエフェクト作業を進めるべく、頭部のモデリングにCharacter Creatorを利用しました。モデルが出来上がった時点でポーズ付けに十分なセットアップがひと通り揃っており、表情ターゲットもパラメータ調整で対応できるのが利点です。本来はモーフターゲットを整理した方が効率的ですが、そこは割り切りました。ショットワークも並行して進める必要があったので、頭部ナシのモデルを石野に渡してレイアウトを先行させました」(齊藤氏)。
ショットワークでは、兵士モブに「フィギュアっぽさ」をもたせるために実写カメラの動きをPFTrackでトラッキングしてCGカメラに適用。子どもがフィギュアで遊ぶような動きと、手持ち特有のゆらぎを意図的に演出した。
「OSRIN監督が編集時にストレッチをかけることを想定して、アップするショットはVコンの想定尺より少し長めにつくりました。アドリブで『より気持ちよく見える長さやカメラワーク』に勝手にアレンジしたカットもあります。PERIMETRONさんの作品はいつもひと筋縄ではいきませんが、OSRIN監督が僕たちの提案を楽しんでくださるのでやりがいがあります」(石野氏)。

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Khakiは外部パートナーを含む20名体制で「愛羅武遊」と「SAMURAI ARAI」の2パートを担当した。
「社内コアメンバー5名を2班に分けて制作を進めました。外部パートナーさんにはアニメーション作業を中心に手伝っていただきました。アセット制作はMaya、Cinema 4D、Blenderなど担当者が使い慣れたツールで対応し、ショットワークはHoudiniに統一。レンダラはRedshiftとKarmaを使い分けました。物量が多かったため、USDの有用性や不具合発生時のリカバリーを考慮してあえて2種類を採用しました。またゲームのリファレンスとして『F-ZERO』などが挙がる一方、OSRIN監督からは『イナタさ』も求められました。そこでSF的な景観に1980〜1990年代の家電やビデオゲームがもつレトロなデザインを組み合わせながらエンバイロンメントを制作しました」(古澤氏)。

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AMBIVALENT TSUNETA by THIS MAN

▲ 完成モデル(シェーディング表示)

▲ コントロールリグを表示した状態

▲ Character Creatorをフェイシャル、セットアップのベースに使用

▲ 本編カットの例。アップショットはレンダリングが重くなったという
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▲ 2回目のサビ前のAMBIVALENT TSUNETAの胸部がブルブルと揺れる表現は、3ds Max標準のFlexモディファイヤを応用して作成された

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▲ AMBIVALENT TSUNETAのキャラクターアニメーションは、基本的にCATで制御したという

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▲ ヘドバンする胎児のアニメーションは、Bipedで制御。「ストーリーボードを見たときから『これ、絶対に面白いやつじゃん!』と、ノリノリで動きを付けました(笑)」(齊藤氏)

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愛羅武遊 by Khaki
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▲ 「愛羅武遊」シーンの背景を構成するオブジェクトの例。未来感に「イナタさ」の象徴として、1980〜90年代のレトロなデザインを織り込んだ上で、当時の家電などの写真を素材としてAIで画像生成したものがリファレンスに用いられた

ⓒ Sony Music Labels inc.

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▲ 風を受けて、愛羅武遊の髪や頬が激しく揺れる横顔のカット。Houdiniの「Attribute Noise SOP」で乱れを加えて表現された
<3>SAMURAI ARAI/ゴキナイトイグチ
信じてもらえるからこそ、高いハードルを超えられる
Khakiが担当した2パートはいずれもロング目のカットが多く背景要素も豊富なため、レンダリング負荷が高くなる傾向にあった。RedshiftとKarmaのXPUおよびGPU処理を活用することで処理速度を確保しつつ、アセットが集中するショットには重点的にリソースを割いて対応したという。
「RedshiftもKarmaもXPUとGPU処理が利用できるので、それなりに速くレンダリングできました。ただアセットが多いショットはかなり時間がかかりましたね」(古澤氏)。
SAMURAI ARAIでは新井和輝本人に近づけたフォトリアルな造形が採用された。後半の鬼化シーンでは専用モデルをゼロからつくるかわりに、既存のフェイシャルリグを変形して流用しつつ、画像生成AIで作成した鬼の表情から必要な形状だけをキャラクターモデルに加えることで効率化を図ったそうだ。

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「ゴキナイトイグチ」パートを手がけたTEAM ANJIこと潮 杏二氏を中心とするチームもユニークな制作手法を実践した。PERIMETRONから提供されたストーリーボードを叩き台にキャラクターデザインや世界観のアートディレクションから着手したものの、別案件の作業と重なったため実質的なショットワークへの着手は12月にずれ込んだ。心当たりのアーティストに声をかけ、外部パートナーの協力を得ながら何とか納期に間に合わせたという。
「コンポジットはNukeで行いましたが、今回のチームでNukeを扱えるのは自分ひとりだったので、かなりギリギリの制作でしたね(苦笑)。ショットワークを手伝ってくれた3名が全員BlenderユーザーだったのでBlenderをメインに使いつつ、特別なエフェクト表現にはHoudiniを利用しました。レンダラは主にCyclesを使い、ディテールをそこまで必要としないショットやボリューム表現にはEeveeも活用するなど、できるだけ効率的に作業することを心がけました」(潮氏)。
オンラインエディターとしてキャリアをスタートした潮氏は、現在は3DCGワーク全般を自身で手がけるほか、ポスタービジュアルなども担うマルチな才能の持ち主である。そんな潮氏は、ストーリーボードにないカットを自発的に制作してOSRIN監督に提案し続けるというアグレッシブなつくり方を実践。途中段階のエディットを見ながら「こういう構成になるなら、このカットの別案もつくってみよう」と先んじて追加案を生み出し続けたという。
「信じてもらえるからこそ自由度が高くて、これも良いかも、あれも面白そうと、制作終盤はランナーズハイの状態でノリノリでつくっていたら終わっていました(笑)。ここまでクリエイティブにふりきれる案件は滅多にないので、参加できて光栄でした」(潮氏)。

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SAMURAI ARAI by Khaki

▲ SAMURAI ARAIの完成モデル。ZBrushによるスカルプト

▲ Substance 3D Painterによる質感調整

▲ 通常モードの頭部アップ。実写パートの撮影現場に赴き、本人の顔周りを撮影してリファレンスにされた

▲ 鬼モードの頭部アップ。の形状を部分的に作り替えることで効率化された

▲ 中盤に登場するアップショットのブレイクダウン。Houdiniの作業UI

▲ 背景素材

▲ キャラクター素材

▲ コンポジットとしての完成形
ⓒ Sony Music Labels inc.

▲ Houdiniによるショットワークは、Solaris+USDパイプラインにて行われた。図は、BGのノードツリー

▲ このショットのレンダリングは、KarmaのXPU処理で行われた

▲ コンポジットとしての完成形
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ゴキナイトイグチ by TEAM ANJI

▲ ゴキナイトイグチのキャラクターデザイン画。イラストも自身で描けることが、潮氏の強みのひとつ。「首元のペンダントのデザインには、井口さんのご出身地、伊那市の顔面付釣手形土器のデザインを入れました」

▲ ゴキナイトイグチ完成モデル。シェーディング表示

▲ メッシュ表示

▲ 天使によるゴキブリの大量虐殺ショット。Blenderシーンのパースビュー。約50体のゴキブリをレイアウト

▲ 3DCGとしての完成形

▲ コンポジットとしての完成形。レイアウトや画づくりを工夫することで、実際に配置した数以上のゴキブリたちが虐殺されている印象に仕上げられた
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▲ 制作後期に急遽つくることになったModゲームプレイ風のショット。Blenderの作業UI。リアル形状のゴキブリの頭部にゴキナイトイグチの兜を追加している

▲ リアル形状からゴキナイトイグチへの変形エフェクトはHoudiniで作成。『スプラトゥーン』に着想を得た液体化するような表現に仕上げられた

▲ 天使とゴキナイトイグチがブランコを楽しむ回想シーン。本人の笑顔に近づけるために基のフェイシャルをデフォームして作成したブレイドシェイプ(図・右)を追加している

▲ Nukeによるコンポジット作業例

▲ ゴキナイトイグチのシーンは、街中の自動販売機の下という設定だったことから最後の2日間で潮氏が作成した自販機カット。「このパートの世界観に入る前にあったら面白いかもと思い、外の世界を描いたカットを勝手につくっていました(笑)」。潮氏のモチベーションの高さが存分に伝わってくる
INTERVIEW & EDIT_NUMAKURA Arihito
WACOCA: People, Life, Style.