「脚本を書くのが楽しいというより、人生が楽しくなった感覚になってきちゃって」
取材中、私はそう口走っていた。映画監督・長久允さんの新著『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』は、脚本の書き方を解説した本だ。
しかし読み進めるうちに、奇妙な感覚に包まれた。これは、仕事や生き方について書かれた本なのではないか……?
広告代理店で働きながら映画をつくり、サンダンス映画祭で世界一を獲得した映画監督が、なぜ「誰でも書ける」と言うのか。その答えを聞きに行ったら、仕事と人生の話になっていた。(文/飯室佐世子)
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「アンガーマネジメントできる人が良い人」という思い込み
――本を読んで、個人的な「怒り」や「悲しみ」がクリエイティブの種になるとおっしゃっていて、すごく気になりました。一方で、社会人として長く生きてきた中で、感情をうまく扱うことが成長とされていて、押し殺す場面の方が多くて……。
長久允氏(以下、長久):アンガーマネジメントできる方が良い人間とされますもんね。わかります。
――怒りを出そうとしても、メタ認知してしまう自分がいるんです。「こんなこと思っちゃいけない」って、柔らかく包んでしまうというか。
長久:それ、自分に嘘をついてるってことですよね。「嫌だな」と思うことを、「嫌じゃないっすわ」って思い込んでいることだから。
僕も長くサラリーマンをしているので、気づいたら感情に蓋をしている場面はあります。
だけど、ある時から、それがきつくなってきて。自分に嘘をついているかどうかのセンサーが、すごく敏感になったんですよね。それが、脚本を書き始めるきっかけでした。
社会性という服を脱いだ、裸の自分がいるっていうことを思い出すことで、本当の自分の気持ちに気付けるようになるんじゃないですかね。
「社会性100」になっていないか
――社会性という服を脱いだ、裸の自分がいる。
長久:社会性って、組織を回すための技術なんですよ。それ自体が悪いわけじゃない。でも、自分の違和感や悲しみを覆い隠すための社会性は、ちょっと違うと思っていて。
上司に「いいと思います」と言い、会議では波風を立てない。その積み重ねによって、自分が今何を感じているかすら、わからなくなる。
それが怖くて、それからは、思ったことをすぐ口にする癖をつけたんです。ブレーキを踏まないで。
そうしたら、意外と社会性も伴うというか。ただの疑問をストレートに言う人、というキャラクターになって、すごく過ごしやすくなりました。
脚本を書くと、「良さ探しの日々」になる
――本を読みながら、人生で初めて主人公のセリフを書き出してみたんです。そしたら、楽しくなってきてしまって。
長久:いいじゃないですか、それが一番大事なことだと思いますよ。
――脚本を書くことが楽しいはもちろん、人生が楽しくなった感覚になってきたんです。これ、なんなんでしょう!?
長久:そうなんですよ。なんかね、脚本を書くようになると、自分が感じたこれまでのことすべてが良い題材になるような感覚があって。
さらには、その目線でいると、日常の良さを見つけられるようになるんです。「あの店員さんのレジさばきの動きがときめく」とか、「この汚い路地が良いかも」とか。良さ探しの日々になるんです。
まず「口に出す」だけでもいい
――怒りや違和感が「出してはいけないもの」ではなくて、自分自身の正直なセンサーがしっかり働いているのだという捉え方、仕事の場面でも忘れずにいたいです。
長久:脚本を書かなくても、まず感じたことを口にすることから始めればいいと思いますよ。それが積み重なると、感情のセンサーが磨かれていく。
子どものままでいいんですよ、感じることについては。大人にならなくていいんです。
(本記事は、『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』の著者インタビューです)




