“インディペンデント”であること。それは単に「メジャーレーベルに所属していない」状態を指す言葉ではない。
テクノロジーやプラットフォームの発展により、誰もが──たった一人、誰にも頼らずとも──世界中に作品を届けられるようになった今。そこは、自分のやりたいことをひたすらに、自らの意思で選び取る“主体性”があちらこちらに渦巻く世界だ。
KAI-YOU、TuneCore Japanの企画「MEDIA NETWORK」と連動して、これからのシーンを担う才能をフィーチャーする連載企画を展開中。
「楽曲をリリースしたあと、どうやってプロモーションすればいいのか?」
そんなインディペンデントアーティストの課題を解決すべく、誰でも手軽に、自身の楽曲をメディアに“売り込み”できる場を用意した取り組みだ。
第5回目となる今回スポットライトを当てるのは、「誰からもチャンスを与えられなかったから自分でアイドルになった」と語る鬼卍ヶ丘ぁゃさんと、新宿二丁目や渋谷からクィアな視点で音楽やパフォーマンスを発信するドラァグクイーンデュオ・MAGATAMAの2組だ。
音楽性の違いはありながら、ギャル、クィア、新宿──そして自己表現といったコンセプトで共鳴するこの2組。
既存のシステムやメインストリームの枠組みから外れた場所で、いかにして“自分たちだけのポップス”を築き上げようとしているのか。その表現の源泉に迫る。
「じゃあもう、勝手にやっちゃえばよくね?」という気持ちで音楽制作を開始
──まずは自己紹介をお願いします。アーティストとしてのコンセプトや志向している音楽性/ジャンルなどについてうかがえれば幸いです。
鬼卍ヶ丘ぁゃ 鬼卍ヶ丘ぁゃです。“武道館ライブを夢見る、デビュー前のアイドル研修生”というコンセプトで活動しています。本気でデビューしたいし、本気で武道館にも立ちたいと思っています!
でも、いつまで待っても誰かが手を引いてくれるわけでも、デビューさせてくれるわけでもなくて、「じゃあもう、勝手にやっちゃえばよくね?」と思って、鬼卍ヶ丘ぁゃとして音楽制作をはじめました。
鬼卍ヶ丘ぁゃ 音楽的には、平成の日本のアイドルソングや2010年代のK-POPアイドルに影響を受けています。
今は流行の移り変わりも早くて、バズったものに寄っていきやすい時代だと思うんですけど、私は平成のアイドル音楽が持っていた独特の多様さや自由さ、ちょっとガラパゴスなくらい豊かな世界観にすごく惹かれています。
MAGATAMA(KAGUYA) 東京を拠点に活動するドラァグクイーンのKAGUYAとOKINIによるデュオ、MAGATAMAです。
KAGUYA ドラァグクイーンとは、日本ではあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、性別表現を自由に楽しむパフォーマーのことです。私たちにとってMAGATAMAは最大の自己表現であり、解放そのものです。
音楽性はヒップホップをベースに、ハウスやテクノ、ヴォーグ・ビーツ、なども取り入れています。ドラァグとクラブカルチャーの関係性に影響を受け、現場でしっかり盛り上がる楽曲制作を大切にしています。
制作のきっかけは、純粋に楽しそうだと思ったから。ドラァグ自体が最大の自己表現ですが、音楽は言葉を使って想いをよりダイレクトに届けられる手段だと思っています。そこに、より多くの人へ届く可能性を感じてはじめました。
──特に影響を受けたアーティストや楽曲について教えてください。
鬼卍ヶ丘ぁゃ 正直、簡単には選べないょ…(笑)
本当にいろいろな世界のアイドルから影響を受けてきたのですが、特に大きい存在はハロー!プロジェクト、さらに言えばモーニング娘。さんです。
自分にとっては、受精してから今日までずっと一緒に歩んできた、家族であり、親友であり、恩師のような存在で、それくらい深く影響を受けています。
モーニング娘。さんをはじめとするハロー!プロジェクトのすごさは、楽曲の幅の広さにあると思っています。王道のポップスだけでなく、ファンクやハウス、ユーロビート、EDMなど、さまざまなジャンルを取り入れながら、大胆にミックスしたり、あっと驚くような転調を取り入れたり。その振り幅の大きさがありながら、歌やリズム、ダンスの芯が一貫しているから、決して散らからず、すべてが“引き出し”として成立している。その表現の強さに敬意を抱いています。
つんく♂さんが手がける歌詞にも影響を受けています。人生の「最高に楽しい!」という瞬間から、仕事で大失敗して本気で消えてしまいたくなるような瞬間まで、その時々の感情に寄り添ってくれる言葉がたくさんあって、自分自身も何度も救われてきました。
自分で楽曲制作をするようになってからは、より一層些細な感情をどう言葉にするかを考えるようになりました。だからこそ、自分もいつか誰かの人生のいろいろなタイミングに寄り添える曲や歌詞をつくれるアイドルになりたいと思っています。
KAGUYA 私たちが好きなのはやっぱりDIVA(歌姫)ですね。強い女性が大好きで、髪振り回してヒール履いてマイク握ってる人はだいたい全部アガります(笑)。
いつの時代も歌姫ってテンション上がる存在だなって思ってて、めちゃくちゃ影響受けてます。中でもアジーリア・バンクスは大好きでよく聴いてますし、クラブでかかると「このDJセンスある〜!」ってなるアーティストです。
あと、ヒップホップユニット・ゆるふわギャングとラッパー・NENEさんは音楽をはじめるきっかけにもなった存在です。ゆるふわギャングの「MADRAS NIGHT」のMVに出演した際、その圧倒的なカリスマに衝撃を受け、後押しもありノリと勢いで音楽制作をはじめました。
楽曲内の<刺激してよMAGATAMA>というフレーズにも強く共鳴し、自分たちの表現の核になっています。
Yurufuwa Gang – MADRAS NIGHT PART 2 feat. 鎮座DOPENESS (Official Video)
KAGUYA また、私達はBallroomカルチャー(※1)にルーツがあり、voguing(※2)に欠かせないハウスミュージックからも大きな影響を受けています。
※1 ボール・ルーム:LGBTQ+コミュニティ発祥のダンス・表現文化。
※2ヴォーギング:ボール・ルームのシーンから発展したクラブダンス。
新宿や渋谷、夜の街を主戦場とする二組
──あなたはどこを「主戦場」として活動していますか? またはどのような環境で制作を行っていますか?
鬼卍ヶ丘ぁゃ 主戦場は、新宿二丁目まわりの夜の現場──ミックスバー、クラブイベント、ショータイムのある空間ですかね。性別も趣味嗜好も仕事も年収も信条も、いろんなものがごちゃっと混ざってて、良くも悪くも人間味が濃い。うまく言葉にしきれない場所で生まれ育った魔物? 妖怪? みたいな存在だと思っています。
“綺麗に整ったアイドル現場”というよりは、笑いもあれば、毒もあるし、華やかさもあれば、ゆるさもある。そういう場所でお客さんに直接見られて、反応をもらって、滑ったり、ウケたり、また滑ったり……みたいなことを繰り返しながら、鬼卍ヶ丘ぁゃという存在が形になってきたのかなと思います。
なので、単にライブハウスとかクラブが主戦場とは一言で言い切れません。自分の中にある“こうあるべき”とか“これが普通”みたいな感覚と戦いながら表現していくこと、そのものが主戦場なのかもしれません。
今は、SNSやラジオ、音楽配信といったインターネットのメディアも大事な戦場です。これまでに培った派手さや雑味、人間味みたいなものをそのままネットの世界でもちゃんと届くように日々戦っています(大苦戦中)。
KAGUYA まだ「ここが絶対の主戦場です!」っていう場所はあんまりないです。これまでは渋谷のクラブを中心に、LIONやOR、BAIAみたいなギャル多めの現場でライブしてきました。
でもやっぱりホームっていう意味だと新宿二丁目かなって思います。ドラァグクイーンやクィアの聖地でもあるので、なんか安心感あります。
MAGATAMAの曲がふと流れてたりして、「あ、いるじゃんうちら」ってなるのちょっと面白いし(笑)。
これからはもっといろんな場所に出て、オンラインでの発信にも力を入れて、活動の幅も広げていきたいです。
──なぜ自身の楽曲を音楽ストア(音楽ストリーミングサービス)に配信しようと思ったのでしょうか?
鬼卍ヶ丘ぁゃ はじめに言ったんですけど、誰からもチャンスは与えられなかったので、痺れを切らして自分でやりました。
音楽業界やアイドル界にツテがあるわけでもないし、自分が憧れてきた女性アイドルには、そのままではなれない性別でもある。かといって自力で押し切れるほどの資金と根性があるわけでもない。そんな中で見つけたのが音楽生成AIで、自分にとっては一筋の光でした。
アイドル楽曲が大好きで、普段から「この曲のここがいい」「なぜ刺さるのか」みたいなことを勝手に言語化してネットで発信してたんです。そのぶん「ここがもうちょっとこうだったらもっと好きなのに」みたいなことも、素人ながら偉そうにずっと考えていて。
だから、AIで音楽をつくれると知ったときに、自分が勝手に抱えていたそういう欲求や不満を形にできるかもしれないと思って飛びつきました。
実際につくってみたら思った以上に出来がよくて、そこからは夢中でした。
いろんなジャンルのアイドルソングをつくって、歌詞を一から書いて、自分で聴いて、またつくってを繰り返していくうちに、「自分だけで聴いて満足してる場合じゃないな」「アイドル好きの人たちにも聴いてほしいな」と思うようになって、配信を決めました。
鬼卍ヶ丘ぁゃ AI制作はどうしても批判的に見られやすいですし、それはある意味当然のことだとも思っています。
だからこそ、その力を借りながらも、少なくとも歌詞には自分の執念や理想、「こういう曲が聴きたかった」という感覚をきちんと込めて作品にしています。
なお、AIの声で発表している楽曲には「Future Edition」という表記を付けています。これは、AIだから“未完成”という意味ではなく、理想の自分や未来の表現に向かっている途中の音源だという意味です。
いつか必ず、自分自身の声で再レコーディングして届けたいと思っていて、今の作品はその未来へつながる途中経過でもあります。
KAGUYA 音楽ストリーミングサービスは、私たちみたいにノリで音楽をはじめた人たちにとっては救世主だなって思ってます。
昔は音楽を配信するってなると、レーベルや事務所に所属しないといけないみたいな固定概念があったと思います。けど、そういうハードルを一気に壊してくれた存在ですよね。
TuneCore Japanは、個人でも簡単に配信できて、自分たちのペースで自由に活動できるのがすごく合っていました。思いついたものをすぐ形にして届けられるし、余計な制限がない分、自分たちらしさをそのまま出せるのがいいなと思います。
