
ヒップホップにおいても“情景”が見えるような
ドラマティックな展開作りを常に意識しています
New Release
2006年のキャリアスタート以来、AK-69の制作を中核で支え続け、近年はXGや東方神起のライブ演出音楽、さらにはSONY 360 Reality Audioへと活動の幅を拡張している音楽プロデューサー、RIMAZI。2019年のサウンド&レコーディング・マガジン初登場から約6年、拠点を新たなスタジオへ移し、制作スタイルも機材環境も大きな進化を遂げていた。
Text:Susumu Nakagawai Photo:Takashi Yashima

Flying B Studio
“バイブス”を最優先したワンフロアのスタジオ設計
制作環境の変遷とスタジオの役割
このスタジオに拠点を移したのは2021年です。以前の場所がビルの取り壊しで退去することになり、天井が高くてコンクリート打ちっぱなしのこの物件を見つけました。このスタジオを作るときに一番意識したのは、ブースに閉じこもるよりも“バイブス”を大事にすること。AK(AK-69)さんとの制作でもそうですが、広い空間でテンションを上げて制作する方が良いテイクが生まれやすいんです。実際、海外のヒップホップの現場映像を見ると、普通の部屋でマイクを握って録っていたりしますよね。あの雑多だけど熱気のある感じを出したくて、あえてワンフロアにデスクもソファもブースも配置しています。ここに来てくれるアーティストも“すごい!”と喜んでくれて、その空気感がそのまま曲の熱量につながっていると思います。

デスク周り。Apple Logic ProやAVID Pro Toolsの画面を広範囲に表示できる大型ディスプレイを奥にセットし、その手前にはApple iMacを配置したレイアウト。オーディオインターフェースやモニターコントローラー、チャンネルストリップといった機材へのアクセス性を確保しつつ、モニタースピーカーのリスニングポイントも計算された、実用性の高い配置となっている







モニター環境
モニター環境も刷新しました。以前はYAMAHA MSP5 Studioを使っていましたが、現在はFocal Shape Twinをメインに、サブウーファーのYAMAHA HS8Sを組み合わせています。導入にあたって、Rock oN Company 渋谷店でいろいろ聴き比べたんですが、Shape Twinが一番ナチュラルで癖がなく、自分の耳に合いました。ほかのスピーカーも検討しましたが、音が良く聴こえすぎてしまうモデルだと制作中はテンションが上がるかもしれませんが、いざ車やスマホで聴いた時にギャップが生まれるので避けましたね。Shape TwinとHS8Sの組み合わせで、どんな環境でも破綻しないローエンドを作ることを意識しています。

左から、モニタースピーカーのYAMAHA MSP5 Studio、Focal Shape Twin。メインモニターは後者。ナチュラルで癖のない音質や、ダイナミックレンジが広い点が気に入っているという

サブウーファーのYAMAHA HS8S。必要に応じてオン/オフを切り替えているそう

デスクに置かれた、デスクトップ型モニターコントローラーおHeritage Audio R.A.M. System 2000。リレー制御のアッテネーターを採用しているため、小音量時でも左右の音量差が皆無に等しいという

SONYのヘッドホン、WH-1000X M5。「癖がなく付け心地も良いため、360 Reality Audio音源をチェックするだけでなく、普段使いでも使用しています」とRIMAZIは話す。さらに、多くの人が聞く環境という点では、Apple EarPodsでもミックスチェックを行っているとのこと
“ソファ・レコーディング”という発明
AKさんのレコーディングスタイルとしては、最近はスタジオ後方のソファに座って、ハンドマイクで歌を録ることがすごく多いですね。使用しているコンデンサーマイクはNEUMANN KMS 104 Plusです。普通、スピーカーを鳴らしたまま録音するとマイクが音を拾ってしまいますが、このマイクは指向性が狭いため比較的そのようなことがありません。さらに最近はiZotope RXなどの処理技術が優秀なので、ノイズをカットすればそのまま本番テイクとして使えるクオリティにもなります。ヘッドフォンをしてブースに入ると構えてしまうアーティストでも、ソファで音を全身で浴びながらなら、思いついた瞬間の初期衝動を逃さずに録れるというのが、このレコーディングスタイルの良いところです。

スタジオのソファで歌う際に活用されているハンドヘルド型コンデンサーマイク、NEUMANN KMS 104 Plus。無印のKMS 104と比べ、低域〜中低域が強調された周波数特性を持っている

スタジオ内に設置されたボーカルブースの外観。かつては黒色だったが、現在はスタジオの雰囲気に合わせて白色に塗装されている

ボーカルブースの内観。密閉性の高いブース内には吸音材を配置し、“デッド”な音響特性を適度に確保。またマイクスタンドにはリフレクションフィルターを装着して室内の反響音をさらに抑制しているのが分かる

スタンドにセットされたマイクは、MANLEY Reference Cardioid。“マンレイの黒”と呼ばれることも。高域はきらびやかでシルキーな伸びがあり、EQで持ち上げなくても、オケに埋もれにくいサウンドがするという
あと、最近導入して良かったのがチャンネル・ストリップのUniversal Audio 6176ですね。ほかのオーディオI/Oのマイクプリだと、ミックスを進めていくうちにどうしてもボーカルがトラックに埋もれてしまうという悩みがありましたが、6176を通すことで真空管特有の温かみと密度が加わり、オケに負けない太い音で録れるようになりました。

Universal Audio 6176。Universal Audioの創設者ビル・パットナムが設計した610 Tube Preamplifier(チューブ・プリアンプ)と、伝説的な1176LN(FETコンプレッサー)を1台の2Uラックマウント・シャーシに統合したチャンネル・ストリップだ

デスクトップ型オーディオインターフェースのUniversal Audio Apollo Twin。物理的なインピーダンス変化を実現するUnisonテクノロジーや、内蔵DSPによる低レイテンシー録音といった点が特徴だ
上ネタ先行で構築するビートメイキング
制作ワークフローと曲作りのこだわり
DAWは用途で分けていて、Apple Logic Proでビートやアイディアの種を作り、AVID Pro Toolsでレコーディングとミックスを行うという流れです。ビートメイクの手法については、以前はNative Instruments Maschine中心でしたが、現在はLogic Pro付属のソフトサンプラー、Quick SamplerにSpliceなどからダウンロードしたオーディオサンプルをアサインして、MIDI鍵盤で弾くスタイルに変わりましたね。
曲作りでは“上ネタ(曲のメインとなるフレーズ)”から作ることが多いです。テンポやビートは後からいくらでも変えられますが、曲の顔となる上ネタは変更が効きにくい。だからこそ、まず鍵盤で弾いて“それいいね!”となったフレーズを核にして、そこから展開を広げていくようにしています。ちなみに、僕の音楽のルーツに『ファイナルファンタジー』関連の曲を担当していた植松伸夫さんのサウンドがあるんですが、ヒップホップにおいても“情景”が見えるような、ドラマティックな展開作りを常に意識しています。例えばAKさんの楽曲「Flying B」のように、イントロを二段階にして雰囲気をガラッと変える手法も、そうした影響から来ていますね。

ミックスと愛用プラグイン
ミックスで目指しているのは“スマホから車のオーディオシステムまで、どこで聴いてもちゃんと鳴る音”です。そのために重要なのが、徹底した下処理。僕はoeksound soothe2はほぼ全チャンネルに使っています。耳に痛いピークやレゾナンスを緻密に抑え、音を平均化させる。これが今では必須プラグインですね。
その上で、音作りには“薄掛け”を意識しています。一つのプラグインで極端に音を変えるのではなく、例えばCradle Audio The God Particleをドラムや上モノのバスに挿して、EQ設定などはオフにしつつ、音の張りやきらびやかさだけを付加するというもの。マスター段にはG-Sonique GENAPTICを20%くらいかけ、パキッとした現代的な質感を出したりしています。
読者へのメッセージ
今後はビートメイクだけでなく、ライブやイマーシブの音楽制作にももっとチャレンジし、“心を動かす音”を追求していきたいですね。

