今年7月にサービス提供開始から10周年を迎えたApple Musicが、9月の「iOS 26」アップデートに伴い、複数の新機能を追加した。
Apple Musicは、この10年の間に主要音楽ストリーミングサービスとして、いち早く立体音響フォーマットである「ドルビーアトモスによる空間オーディオ(以下、空間オーディオ)」を導入するなど、さまざまな機能のアップデートを通じて、常に世界中の音楽好きに強いインパクトを与え続けてきた。
また音楽配信のみならず、ラジオ番組制作にも注力しており、これまでにLA、ニューヨーク、ナッシュビル、ベルリン、ロンドン、パリといった欧米主要都市に制作スタジオを開設してきたが、今年4月には東京都内にアジア圏初かつ、現時点では唯一となるスタジオを開設。同スタジオでは『Tokyo Highway Radio』や『J-Pop Now Radio with Kentaro Ochiai』といった日本独自の人気番組のほか、Snow ManやNumber_i、LANAといった日本人アーティストがホストを務める番組など、東京から世界に向けて発信する番組が制作されている。加えて、ツアーで来日するアーティストや地理的に近いアジア圏のアーティストを招くなどして、アジアのハブとしても機能させる狙いもあるという。

今回のアップデートで追加された新機能のうち、お気に入りの音楽にアクセスしやすくする「音楽のピン留め」機能では、アーティスト、プレイリスト、アルバムなど最大6つのアイテムをユーザーライブラリ内にピン留めできる。また、ピン留めしたアーティストの最新リリースは、リリースと同時にトップに表示される。
「ライブラリ移行」機能では、Spotify、Amazon Music、YouTube、Deezerといった他のストリーミングサービスのライブラリを手軽にApple Musicに引き継ぎ可能だ。
こうしたユーザーの利便性を向上させる機能に加え、ユーザーのリスニング体験をさらに向上させる機能も追加されている。

DJのように曲同士を繋ぐ「AutoMix」では、AIが楽曲の特徴を分析し、タイムストレッチやテンポのマッチング、ミックスポイントを最適化した上で、曲間の無音時間をなくし、次の楽曲へシームレスに切り替えてくれる。iOS 26ではデフォルトで機能がオンになっているが、ユーザーが手動で解除することも可能だ。さらにアルバムやDJ Mix、クラシックなどオートミックスが適さないもの、あるいは曲同士のテンポがあまりにも異なることでうまくミックスされないと判断されたものなどは自動で解除される。
「歌詞翻訳と発音ガイド」は、従来の歌詞表示機能を発展させたもので、曲が翻訳済みの場合、オリジナル歌詞の下に翻訳歌詞と発音ガイドが表示される(同時表示も可能)。現在、翻訳歌詞は英語から日本語、韓国語から日本語といった言語の組み合わせが利用でき、K-POP曲ではカタカナで発音ガイドが表示される。また、K-POP曲では同時表示させることも可能だが、韓国語と英語が混在する歌詞の場合、現時点では歌詞全体を鑑みて、主要な言語のみが日本語訳される場合が多い。
また翻訳はAI翻訳を活用しつつも、各言語のネイティブスピーカーによるチェックが行われており、スラングなども考慮しながら、よりアーティストの意図やニュアンスに反しない工夫がなされている。これにより高い翻訳品質を担保するために、データを元に需要の高い楽曲から翻訳が提供されており、その翻訳カタログは日々拡大しているという。しかし、今後はそのような主要リリースだけでなく、バイラルヒットしたマイナー曲なども翻訳対象になる可能性があり、翻訳曲のカタログは拡大していく見通しだ。
既存機能の発展という点では、AIによる音源分離を活用したカラオケ機能「Apple Music Sing」に追加された「Party」機能もおもしろい。この機能は、「Apple TV 4K(第3世代)」との連携が必須となるものの、iPhoneをマイクとして使用し、同じWi-Fiネットワークに接続した複数人でカラオケを楽しめる。また、他のユーザーが歌唱中に次の曲を予約するデンモク的な機能や、歌唱中のユーザーに「拍手」や「ハート」など絵文字を送ることでパーティーのムードを盛り上げる機能も搭載されている。

なお、今回のアップデートにおける目玉機能の「歌詞翻訳と発音ガイド」については、10月20日に東京都内のApple Musicスタジオにて、『Tokyo Highway Radio』のホストを務めるミュージシャン/音楽評論家のみの氏による機能紹介が行われた。
冒頭、みの氏は、音楽ストリーミング時代における洋楽の国内需要について、レガシーメディアがトレンドを作る力が弱まったと指摘。「洋楽の国内需要については、キュレーションを行なっている人たちと、メッセージ(歌詞)の部分を翻訳する人たちの働きが非常に重要だった。しかし、今回歌詞の翻訳機能が実装されたことで、洋楽をまた身近に感じられる日常が帰ってくるのかなと思う」と述べた。
その上で「昔CDやレコードで音楽を聴いていた時代、ライナーノーツを食い入るように見て、アーティストの発信したメッセージを探ろうとした経験が、みなさんにもあったはず。それと同じ体験をApple Music上でできるようになった」とApple Musicの歌詞翻訳機能によって洋楽の国内需要を取り巻く状況が変わる可能性を指摘。特にライナーノーツ世代ではないK-POPやビリー・アイリッシュなど若いアーティストのファンにとっては、「歌詞翻訳機能によって、自分の好きなアーティストの存在がより身近に感じられるようになるはずだ」とその魅力を語った。
また、翻訳のアプローチについては「非常にニュートラルであり、サウンドを楽しむ上で、ノイズになるような条項は載せないで、ストレートに歌詞が持っているニュアンスを伝えてくれるようなアプローチになっている」と評価。最後に「歌詞翻訳機能は、楽曲を聴いたという記憶を追体験したい年齢層だけでなく、若い人たちも喜んで使ってくれる機能になると思う」と述べて、機能紹介を締め括った。
Apple Musicは、これまでに音楽ファンが求める最高の体験を提供するというミッションのもと、さまざまな新機能を提供してきたが、実はそれらの機能は音楽を提供する側のアーティストにも新たな価値を提供するという側面がある。わかりやすいところで言えば、空間オーディオはその例だ。このフォーマットは、リスナーの没入感を高める一方でアーティストに対してはより自由な音作りの可能性を提示した。現在、空間オーディオ制作に対応するスタジオは世界中に1000以上あり、日本でもそういったスタジオが増えている。また、Appleの音楽ソフト「Logic Pro」に制作ツールが搭載されたことにより、自宅でもこのフォーマットの音源が制作できるようになった。こうした制作環境の拡大により、空間オーディオフォーマットで納品するアーティストの数も増えているという。
今回の新機能で言えば、「音楽のピン留め」や「歌詞翻訳と発音ガイド」は、先述したようにファンにとっては利便性やリスニング体験を向上させる機能だが、アーティストにとって前者はユーザーからのアクセスを増やす、後者はアーティストの世界観に深く入り込めることにより、リスナーをスーパーファン化させるきっかけとしても機能する。こうしたファンとアーティストの双方がメリットを享受できる機能があることで、両者のつながりはより強固なものになるはずだ。
また、そうしたシステムの設計思想の根底にはApple Musicチームの、音楽に対するビジネス以上の深い愛情があるはずだ。特に筆者のようなコアな音楽ファンからすると、機能を通じてこうしたスタンスが感じ取れることはサービスを選ぶ上で大きな決め手になる。
サービス開始から10年という節目の年を迎えたApple Music。今後も変わらず、ファンだけでなく、アーティストを含む全ての音楽好きにとって魅力的な新機能を提供し続けてくれることに期待したい。
Apple Musicが4月21日、ロサンゼルス、ニューヨーク、ナッシュビル、ロンドン、パリ、ベルリンに続く新しいスタジオを東京…
 
						
			

