多くのドラマを紡いできた高校生クイズ。43年の歴史の中でも異色のコンセプトとなった2018年大会は「双子の天才プレーヤー」を世に放つことになった。伊沢拓司らに憧れ、競技クイズに人生を懸けた兄弟が歩んだ、波乱万丈の旅路とは?《NumberWebノンフィクション全4回の3回目/第4回に続く》
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2018年、8月。この年の『高校生クイズ』全国大会は東京ビッグサイトで幕を開けた。
その1回戦は、映像を使ったクイズが軸だった。全23問を終えた時点で、得点順に50校の代表校が一気に15校に絞られる。
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三重県代表として大会に参加していた桜丘高校の東問(もん)・言(ごん)の双子は、シンプルに緊張していたという。
「やっぱり1回戦が最も落ちるチームが多いので、緊張は大きかったです。でも、あとから振り返るとここが一番、競技クイズに近い要素が多かった気がします。早押しの要素もあったし、間違えると減点になるというルールもあった。その意味で、ウチにとっては結果的に有利になっていたと思います」
例年とは“顔ぶれが違う”全国大会に
出題されたのは、ドローンが撮影した映像から、その場所がある都道府県を答える問題や、暗号解読、表示された写真の中の異変を見つける間違い探しのような問題だった。
問題自体は一般的な競技クイズの形式とは異なる。だが、純粋な解答力以外の部分で競技者が有利になる要素が大きかったのだという。問はこう振り返る。
「例えば、ボードクイズなら自分たちがすでに15位以内に入っていると思ったら、他チームと差をつけられないために、周りが書きそうな答えを書けば良い。逆に自分たちがいま圏外だと思ったら、逆転するために意外性のある答えを書かないといけない。そういうギアの入れ方は競技クイズで培った能力が活かせたと思います。
あとは早押しの時はリスクを取ってでも1着で行くべきなのか、今はプラマイゼロでもいいから他のチームが動くのを静観しておくべきなのか。そういうタイミングの駆け引きとかは、やっぱり競技クイズ経験者が強かったと思います」
たとえ問題が解けそうでも、減点のリスクがあるなら押さない方が良い。無理に10点をとるより、-20点を避けた方が良い場面もある。そういった押し引きは、競技クイズの強者ならではのものだった。
特にこの年はその独特な「地頭力」というコンセプトの影響もあってか、例年と比べて競技クイズの強豪校が全国大会まで駒を進めることができていなかった。だからこそ、その能力の高かった東兄弟を擁する桜丘は、有利にことを運べたとも言えた。
結果的に、桜丘チームは1回戦を6位で通過する。
「自信は持って進められてはいましたけど、やっぱりホッとはしました。ここで落ちてしまうとほとんどテレビにも映れないですし、何のために全国大会まで来たのか分からなくなってしまうので」(言)
また、奇しくもトップ通過を果たしたのは、2人が転校する前に通っていた鹿児島・ラ・サール高だった。