NHK連続テレビ小説『あんぱん』は、実力派から若手まで多彩な出演者が揃う作品だが、物語が折り返しを迎えたいま、キャストの一人ひとりが不可欠な存在として物語を支えているのを実感している人も多いだろう。その中で、登場からわずかな時間でありながら、強烈な存在感を放っている人物がいる。Mrs. GREEN APPLEの大森元貴だ。彼が演じるのは作曲家・いずみたくをモデルにしたいせたくや。物語のクライマックスとなる楽曲「手のひらを太陽に」の誕生を担う重要な役どころであり、現役トップアーティストの起用は、朝ドラにおけるキャスティングの新しい可能性を示している。

 もっとも、アーティストが朝ドラに登場するのは今回が初めてではない。これまでも音楽の世界で活躍する表現者がキャスティングされ、その個性を生かした存在感で物語に新たな深みを与えてきた。歌声やステージで培った感性が、演技や役作りの中で独自の輝きを放ち、視聴者の記憶に残る名シーンを生み出してきたのである。

 朝ドラとアーティストの関係性を語る上で、最も象徴的な人物と言えば星野源だろう。『ゲゲゲの女房』(2010年度前期)でヒロインの弟・飯田貴司を演じ、素朴でかわいらしい存在感で注目を集めた。まだ俳優としては端役が多かった時期に、朝ドラ出演で一気に知名度を高めたことは、その後のキャリアにおける転機となった。さらに『半分、青い。』(2018年度前期)では主題歌「アイデア」を担当。俳優として出演し、アーティストとしては楽曲を提供するという朝ドラとアーティストの関係を更新した存在と言える。

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 そして、『あんぱん』の主題歌「賜物」を担当するRADWIMPSの野田洋次郎も朝ドラに俳優として出演している。『エール』(2020年度前期)では、主人公・古山裕一(窪田正孝)と同じコロンブスレコードに所属する作曲家・木枯正人を演じた。繊細で人間味あふれるキャラクターを、抑制された表情や静かな語り口で体現し、音楽家としての感受性を役に自然に落とし込むだけではなく、劇中で古賀政男の名曲「影を慕いて」を歌唱するシーンもあり、音楽家としての経験が演技にも活かされていた。

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 もう一人忘れてはならないのが、ピエール瀧である。『あまちゃん』(2013年度前期)では寿司屋の大将・梅頭を演じ、強面な外見とユーモラスな振る舞いとのギャップで、物語を一段と豊かにした。顔芸を駆使したユーモアは宮藤官九郎脚本の遊び心とも噛み合い、視聴者の強烈な印象に残った。さらに『とと姉ちゃん』(2016年度前期)では板前役を好演。音楽家としての経験を生かし、遊び心あふれる演技で名脇役となった。

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