本作については当サイトの新作評論枠に寄稿したので、ここでは補足的な事柄をいくつか書いてみたい。

評論では、「KCIA 南山の部長たち」と「ソウルの春」の橋渡しをするのが、「大統領暗殺裁判 16日間の真実」の内容だと書いた。「KCIA~」が1979年10月26日に朴正煕大統領が中央情報部部長キム・ジェギュに暗殺された事件を、そして「ソウルの春」が同年12月12日に当時国軍保安司令官の全斗煥が起こした粛軍クーデターを扱っている。政治家や軍人らの権力闘争と自由化を求める民衆運動などが複雑に入り組んだ韓国現代史をジグソーパズルにたとえるなら、先述の2作を鑑賞してからこの「大統領暗殺裁判」を観ると、パズルに欠けていたピースがぴたりとはまる感覚を味わっていただけるのではないか。

キャスト的にはやや地味かもしれない。「KCIA~」がイ・ビョンホン、「ソウルの春」がファン・ジョンミンといった具合に日本でも知られる大スターが出演していたし、同じ実話ベースの法廷物でも「弁護人」(2013年製作)はソン・ガンホが主演だった。それでも、被告の軍人パク・テジュを演じたイ・ソンギュンと、若手弁護士チョン・インフ役のチョ・ジョンソクの熱演は見応え十分。軍人としての矜持を貫くパク・テジュと、嘘の証言をさせてでも裁判に勝ちたい現実主義者のチョン・インフというまるで水と油のような2人が、互いの生き方や信念に影響を受けて少しずつ変化し、心の距離が近くなっていく展開もいい。

「ソウルの春」のレビューでは、「作り手側の激動の四半世紀をとらえ直して若い世代にも伝えていこうという思いから力作が生まれ、そうした思いが観客に共有されて大ヒットにつながり、興行的成功がまた新たな社会派映画の製作を後押しする好循環が続いているのだろうか」と書いた。この「大統領暗殺裁判」もそうだが、韓国現代史を扱う社会派映画が日本に届くたび、邦画業界はずいぶん遅れをとっていると痛感する。同様に70年代以降を振り返ると、政治であれば田中角栄、小泉純一郎、安倍晋三ら個性が際立った元首相たちや、38年ぶりに自民党政権からの政権交代につながった新党ブーム。国民的な関心事ならオイルショック、ロッキード事件、リクルート事件、オウム真理教事件など。これらを真正面から描く劇映画がコンスタントに作られるようになればと切望するが、当分ははかない夢だろうか。

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