出版社として115年の歴史を持つ講談社が、近年ジャンルを横断したクリエイターの発掘に力を入れている。書籍のイメージが強い出版社が、なぜ今、クリエイターの支援に本格的に乗り出したのか。キングレコード、講談社VRラボと3社共同で開催する「Film Pitch Boost 2025」は、単なるコンテストを超えた新しいクリエイター支援のあり方を提示しようとしている。講談社の新規事業開発室・クリエイターズラボで映像作品にかかわる「シネマラボ」というチームのチーフプロデューサーを務める永盛拓也氏に、その狙いと想いを聞いた。(取材・文:高村由佳)

出版社が挑む、映像の「新」プロジェクト

「今回の『Film Pitch Boost 2025』は、講談社、キングレコード、講談社VRラボの3社が共同開催で映像クリエイターの発掘を目指すコンテストです」と永盛氏は説明する。

このプロジェクトの中心となるのが、3年前から始まった講談社の「シネマラボ」というチームだ。これまで、別所哲也氏が主催する「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」と共同で3期に渡り映像クリエイターを公募し、短編映画制作を支援してきた(現在、第3期の制作が進行中)。

「最大1000万円の予算で映像企画を募集し、3年間で合計3,300本ほどの応募をいただきました。少し前から第2期の作品について様々な映画祭に出品を始めており、イギリスのレインダンス映画祭をはじめ欧米諸国の大きな映画祭に入選するなど、着実に成果が出始めています」(永盛氏)

講談社クリエイターズラボ・シネマラボチーフプロデューサーの永盛拓也氏イメージギャラリーで見る

しかし、短編映画の分野では「クリエイターにきちんと対価を支払う」ことが難しい実情もあり、これまで出版社が作家と築いてきた関係を映像分野において実現するには限界があったという。だからこそ、そこで得た3年間の知見を活かし、今回は中長編映画制作をはじめとした、より商業的な映像プロジェクト、つまり「ヒットをクリエイターとともにつかみに行く」挑戦をすることになったと永盛氏は話す。

「最初は、『3社(講談社、キングレコード、講談社VRラボ)で何か面白いことができないか』というスタートだったんです。キングレコードさんは音楽や映像をはじめとするコンテンツ事業に強みがあり、近年では「ヒプノシスマイク」というメディアミックスのプロジェクトでも大成功を収めておられます。また、講談社VRラボはXR(クロスリアリティ)やイマーシブ空間の制作といったところが専門です。そして、我々講談社は、長年編集業を行い、クリエイターさんに伴走してきた知見があります。そうした各社の強みを生かして、可能な限りあまねく映像クリエイターさんの企画を受け付けられるようなコンテストを開催しようということになりました」

コンテストは8月20日まで企画書や絵コンテなどを募集し、書類選考を経て10月に東京でプレゼン審査を実施する。最終的には受賞作品を決定し、受賞したクリエイターには各社のプロデューサーが担当として付き、プロジェクトとしての始動を目指すという。

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