『こんばんは、朝山家です。』(ABCテレビ・テレビ朝日系)は、“国ドラ”こと国民的ドラマを手がける脚本家の賢太(小澤征悦)と、賢太が所属する事務所の代表を務める妻・朝子(中村アン)、そしてその家族を描いた物語だ。
“残念な夫”、“キレる妻”というコピーが物語るように、賢太はエゴサーチに明け暮れ、暇があれば呑みに繰り出し、朝子はそんな夫を口汚く罵る。夫婦がビジネスパートナーとして歩むことを決めたお茶の間での丁々発止も鮮烈だった。
中村アンと小澤征悦のW主演ドラマ『こんばんは、朝山家です。』(ABCテレビ・テレビ朝日系)が、7月6日よりスタートする。その制作…
「いままで、脚本の仕事でさんざん魂売ってきたから、監督するときは、絶対にやりたいものをやって、できれば、カンヌとかそういう、箔のある映画祭を目指したい。でも、俺は、営業とか苦手だから、朝子にやってほしい」
「(眉間にしわを寄せて)やってほしい、じゃなくて、やってくださいっ、でしょ」
「んあ。(頭を深々と下げて)やってください」
「(賢太を見据えて)なら、私会社つくるよ。営業だけじゃなくて、映画つくるなら、私も参加する。んで、言いたいことは言うから」
「(鳩が豆鉄砲を食らったような顔で)え、社長ってこと?」
朝子の言動は現代のコンプラではモラハラ認定されそうなグレーがかったものだが、それでいて惹きつけられるのはそこに愛があるからだ。夫のために奔走する朝子の姿に嘘はない。

なによりそれはリアルに近いからだろう。このドラマは脚本家・足立紳のエッセイ『ポジティブに疲れたら俺たちを見ろ!!~ままならない人生を後ろ向きで進む~』を下敷きにしている。
手持ちで演者を追う臨場感あふれるカメラワーク、あるいはものがぎっしり詰まったリビングのつくり込みもそんな手触りを確かなものとする(そのセットは足立の住まいをかなり正確に再現しているそうだ)。おかげで観る者は物語に紛れ込んだような没入感が得られる。
正直に言えば、第1話を観ているときは少しばかり心がざらついた。ところが第2話では早くも耳に馴染んだ。よくよく聞けば賢太も負けていない。むしろ神経を逆撫でするようなことを平気でぶっこんでくる。その応酬は、「な・か・よ・く・けんかしなっ♪」の『トムとジェリー』のようなものであり、二人にとっては通常運転なのだ。そう思って続きを観れば、なるほど愛がにじみ出ている。
ABCテレビ・テレビ朝日系で7月6日より放送がスタートした『こんばんは、朝山家です。』。小澤征悦と共に主演を務める中村アンが演じ…
そして、このドラマは何気ない日常を通して家族をあぶり出す。
発達障害を抱える晴太(嶋田鉄太)や絶賛反抗期の蝶子(渡邉心結)の描写は胸に迫るものがある。たとえば、晴太を学校の体験会に行かせようと悪戦苦闘している賢太に蝶子が突っかかるシーン――。
「ねえぇ、お弁当、早くしてよ」
「え? キッチンにつくってある」
「は? こっち持ってきてよ。なんもしてないじゃん」
「ちょっと、いま自分でやってよ。晴太動けないから」
「ねえ、もうそれいっつもじゃん。お弁当ないなら私、野球行かないから」

弁当はすでに出来上がっている。あとは蓋をして、鞄に入れればいいだけだ。なじられる賢太は不憫なことこの上ない。もちろん蝶子はわかっている。わかっていてもやめられないのは、こっちを向いてほしい、というSOSだからだ。
慌ただしい毎日にかき消されそうな声にそっと耳を澄ます。ホームドラマの王道と言ってしまえばそれまでだけれど、キャッチーでわかりやすいドラマが量産される時代にあって、その存在自体が胸のすくようなアンチテーゼだ。