「幸太郎さん、私を人殺しだと思ってる?」

 『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)第2話終盤の松たか子の芝居に息を呑んだ。

 15年前、鈴木ネルラ(松たか子)は元婚約者・布勢夕人(玉置玲央)を死亡させた疑いをかけられていた。弁護士仲間の臼井(小松和重)に事件を爆速で調べさせ、その全容を聞いた原田幸太郎(阿部サダヲ)は、「帰ったらネルラに聞こう。君が隠してることを聞かせてくれ」と決心する。

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 しかし、帰宅早々にネルラは美容室の帰りに竹下通りで買ったというワンピースを披露してくる。その価格2200円。仕方なく話を合わせる幸太郎に、ネルラはそのまま流れるようにして、「幸太郎さん、私を人殺しだと思ってる?」と聞くのだ。第1話での家族団欒の中での「幸太郎さんも好きよ。レンコンより好き」や思い出したかのようなタイミングでの「シャバシャバのビーフシチューってどういうの?」も、絶妙な間での会話劇だったが、第2話のこのセリフのタイミングや松の笑顔からシリアスであり、寂しそうな表情へと移り変わっていく様を見て、「このドラマは間違いないな」と確信した。もちろん初回の時点でそう思ってはいたが、今回でそれが揺るぎないものになった。

 第2話ラスト10分は、ネルラと布勢の出会いから、事件が起こるまでがネルラ本人の口から語られていく。ネルラは大学院で絵画の修復学を学び、卒業後はイタリアへ留学。「一生イタリアで暮らしてもいい」と思っていたネルラだったが、日本の美術館から招聘され帰国。友人から画家である布勢の個展に誘われ、結婚を約束するほどに距離を近づけた。布勢はネルラの家族とも仲良くなり、鈴木家が所有する倉庫をアトリエにしていたが、そこで事件は起こった。満足のいく絵が描けずにスランプに陥っていた布勢は、ネルラを道連れに死のうとする。そんな布勢にネルラは憎悪を抱いた。ネルラは布勢に突き飛ばされ、頭を打ったとこから記憶がなく、「私が殺したか、殺してないかは分からない」という。布勢を破滅させた自責の念に駆られたネルラは、自分の望みや幸せを求めないことにした。

 そんな折に、ネルラの前に現れたのが幸太郎だった。「幸太郎さんに出会ってしまってから、もう一度生き直したいと思うようになったの。もう一度幸せになりたいと思うようになったの。2人で楽しく生きたいって、望むようになったの」と前を向くネルラだったが、15年前の事件が幸せを奪っていく、幸せになろうなんて間違いだったのだとまた俯いてしまう。そんなネルラの肩を抱く幸太郎だったが、主題歌の「Don’t Look Back In Anger」がフェードアウトしていき、代わりに流れるのは先行きが不安になるようなシリアスな劇伴だ(世武裕子が担当する音楽が素晴らしい)。

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