世界屈指の“異端”の名店 ミシュラン2つ星 ムガリッツの舞台裏
この年、<ムガリッツ>の研究開発チームを率いる4人は、ライトモチーフ「目に見えぬもの」をもとに試作を始めた。農場を訪問し、養蜂を習得し、欲しい素材は何でも取ってくる。日本食の影響も色濃い。納豆、昆布、麹、出汁、握り一食材は解釈され、大胆にアレンジされ、前代未聞の姿でテーブルに運ばれる。ここではもはや、「おいしさ」だけがねらいではない。オーナーのアンドニ・L・アドゥリスは「僕は勇敢な臆病者だ」と語る。彼は時に、美食の枠を超え、論争の領域にまで運ばれてきた。しかし彼の仕事は料理の提供ではなく、クリエイティブな生態系の形成なのだ。そこでは、シェフやスタッフ、アーティスト=自律的な細胞たちが、年に一度、メニュー開発=調和を求め集まってくる。2回にわたる試食会では、それぞれ約30品が提供され、ビジュアルアーティストやDJも参加する。営業開始までのカウントダウンにとって、決定的な中間目標地点だ。「やられた」「素晴らしい」「暴力的」「強烈すぎて食べられない」。食後にはさまざまな批評が飛び交い、議論は白熱する。6か月もの月日をかけて完成したメニューは、シーズンが終わるとすべて火を放たれる。まるで祭りのように。ユニークな料理は何一つ再現不可能だ。翌年ゼロから再出発し、定番となる料理はない。「驚き」とは定義上、予測不能でなくてはならないから。
監督:パコ・プラサ