『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『平成狸合戦ぽんぽこ』『耳をすませば』などの名場面が登場。会期は5月27日〜9月23日
スタジオジブリ作品の魅力に迫る展覧会「ジブリの立体造型物展」が東京・天王洲の寺田倉庫B&C HALL/E HALLで開幕した。会期は5月27日から9月23日まで。
本展は、2003年に始まった立体造型物展の進化版であり、22年ぶりの東京での展示となる。『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『平成狸合戦ぽんぽこ』『耳をすませば』など、数々のスタジオジブリ作品の名場面が立体造型物として現れる。ここでは、編集部が気になる撮影スポットを紹介しながら、本展の魅力を伝える。

トンネルを通り抜けて出会うスタジオジブリの世界
宮崎駿監督が手がけた長編アニメ『となりのトトロ』は、1950年代の東京郊外を舞台に、ふたりの姉妹が大人には見えない森の生きもの・トトロとの出会いを描く。高畑勲監督の『火垂るの墓』との同時上映で話題を呼び、数々の映画賞に輝いたジブリの原点とも言える作品である。本作の魅力を支えているのが、美術監督・男鹿和雄の仕事だ。のちにジブリ作品には欠かせない存在となる男鹿の描く背景画が、ノスタルジックで豊かな自然への眼差しを生み出している。


そんな『トトロ』の世界から、「トトロのウロ」と名付けられた立体造型物が登場する。トンネルの奥で気持ちよさそうに眠るトトロと、初めて出会ったメイの感動的なシーンを再現。男鹿の背景画に負けないほど鮮やかな緑の表現と、トトロの毛のもふもふ感まで表現された愛らしい展示だ。
続く展示室で観客を厳しい眼差しで見据えるのは、『もののけ姫』に登場する犬神モロ。森に棲むモロたちとともに人間との戦いを決意したサンを案じ、「あの子を解き放て、あの子は人間だぞ!」と迫るアシタカに対し、「だまれ小僧! お前にあの娘の不幸が癒せるのか!」とモロは強い口調で答える。スタジオジブリ作品に込められた力強いメッセージ性を鮮明に表現した象徴的な場面とも言える。

名作の世界に入り込めるフォトスポット
『ハウルの動く城』でソフィーと荒れ地の魔女が息を切らしながら登ったあの階段を制覇すると、2階には数々のフォトスポットが待ち受けている。『魔女の宅急便』でキキが店番をしていたグーチョキパン店から『平成狸合戦ぽんぽこ』の万福寺まで、細部にわたってこだわり抜かれた展示が並ぶ。


とくに注目したいのは、『耳をすませば』や、宮崎駿監督の10年ぶりの復帰作として話題を集めた『君たちはどう生きるか』のコーナーだ。キャラクターの隣に座ることができ、まさに作品世界のなかにいるような感覚を味わえる。写真撮影はスタッフに任せることができるので、ひとりで訪れても十分に楽しめる展覧会となっている。


『千と千尋の神隠し』の異世界を体感
しかし、ここまでは序盤に過ぎない。階段を降りて会場の奥へ進むと、目の前に現れるのは『千と千尋の神隠し』の世界である。公開後1年以上のロングランを記録し、最終的に興行収入308億円という驚異的なヒットを達成した国民的アニメーションから、ふたつの印象的な場面が立体作品として登場する。
まず圧倒されるのは、異世界に迷い込んだ千尋の目の前にそびえ立つ巨大な湯屋の展示である。千尋の孤独感と迷いが、このスケール感によって見事に表現されている。

筆者のお気に入りのシーンは、暴走するカオナシを描いた「鬼の闇」だ。照明によって浮かび上がる恐ろしい影と、床に散らばった皿やご馳走の数々がリアルに再現されている。スタジオジブリの背景画への徹底したこだわりを、どこまでも鮮明に感じ取ることができる展示だ。


冒険と哀愁が交錯する圧巻の展示
展示のなかでも特別な存在感を放つのが、『風の谷のナウシカ』に続く宮崎駿監督作品で、スタジオジブリ第1作にあたる『天空の城ラピュタ』。ジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』をヒントに、空に浮かぶ伝説の宝島ラピュタをめぐって展開する冒険活劇だ。
19世紀を思わせる架空世界を舞台に、フラップターや巨大飛行戦艦ゴリアテといったユニークなメカが登場し、ワクワクするアクションシーンが連続するいっぽうで、廃墟となったラピュタの庭園を守るロボット兵の姿には、滅びゆく文明への哀愁が漂う。緊張感がある展示から目が離せない。


巨大スケールでよみがえる『ハウルの動く城』と『紅の豚』
『ハウルの動く城』からは数々の印象的な場面が立体化されている。ハウルとソフィーの空中散歩を描くシーンをはじめ、実際に動いている城の展示まで、ファンにはたまらない空間が続く。もちろん、お調子者のカルシファーにも出会うことができる。


しかし、本展でもっとも注目すべきは、なんといっても『紅の豚』に登場する飛行艇サボイアS-21の大型模型である。特撮界のエキスパートである伊原弘が「もしも本当にあったら」という想定で制作したこの模型は、膨大な倉庫空間に現れることで本物さながらの迫力を見せる。運河に面した寺田倉庫は、まるで映画に登場するピッコロ社そのもの。お馴染みのあの場所に足を踏み入れたような錯覚を覚える、まさに本展だけの贅沢な体験だ。


海を越えたスタジオジブリ
本展ではジブリのパートナーを紹介しながら、北米、欧州、アジアなど各地でどのように作品を届けていったのかを辿る展示も行われている。それぞれの国の状況を見比べ、出演者や関係者へのインタビューを通して、スタジオジブリの作品がいかに語られてきたのかを知ることができる。
宮﨑駿監督の短編アニメーション特別上映も
また、宮﨑駿監督が2002年に制作した短編アニメーション映画『空想の空とぶ機械達』が特別上映される。この作品は、かつて人々が空想した”空とぶ機械達”を描いたもので、上映時間は6分間である。

アニメーションでしか見ることのできなかった名場面の数々が、手の届く距離に立体として現れる本展。夏の特別な思い出作りに、訪れてみてはいかが?

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