『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第18回より。「居続け」の間に病にかかり、医師の診察を受ける朋誠堂喜三二(写真中央、尾美としのり)(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。5月11日の第18回「歌麿よ、見徳(みるがとく)は一炊夢(いっすいのゆめ)」では、冒頭で警告のテロップが出るほど、大胆な性表現のもろもろが炸裂。その表現の振り幅の広さに、SNSは喜怒哀楽を総動員されるような結果となった。
■ 唐丸に「歌麿」の画号を授ける…第18回あらすじ
作家・朋誠堂喜三二(尾美としのり)の本を、年に10冊出すという目標を掲げた重三郎。喜三二は男性特有の病に悩まされながらも、闘病中に見た夢をヒントに『見徳一炊夢』という作品を書き上げた。そして重三郎は、行方知れずとなっていた唐丸(染谷将太)を吉原に連れ戻すことに成功。養母・ふじ(飯島直子)の配慮によって、駿河屋の養子・勇助の人別(戸籍)が彼に与えられ、2人は義兄弟の仲となった。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第18回より。駿河屋の女将・ふじ(飯島直子)の計らいで、捨吉の戸籍を手に入れた重三郎(横浜流星)(C)NHK
重三郎は唐丸に「歌麿」という公家風の画号を授け、彼が少年のときに交わした「当代一の絵師にする」という約束に向けて動き出す。そして江戸城で、将軍・徳川家治(眞島秀和)の元に、側室・知保の方(高梨臨)が毒を飲んだという知らせが届いた頃、重三郎のライバルだった地本問屋・鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)が店をたたむということが、書物問屋・須原屋市兵衛(里見浩太朗)を通して重三郎にも伝わった・・・。
■ 鬼滅の刃!? CG大蛇を退治する爆笑展開
4月末に放送された特別番組で、喜三二役の尾美としのりや、女郎屋「松葉屋」の女将・いね役の水野美紀から「物語が大きく動く」という予告が上がっていた、問題の18回。いち早くBSP4K放送で見た視聴者から「今週は冒頭で『性に関する表現があります』とテロップ入ります!」という速報がぞくぞくと上がり、本放送が始まる前から期待が高まった回だったが、「性」にまつわるコメディとシリアスの温度差が、亜熱帯とツンドラ気候ぐらいの落差がある衝撃の回となった。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第18回より。朋誠堂喜三二のもとへ花魁道中で向かう花魁・誰袖(福原遥)(C)NHK
はじめに狼煙を上げたのは、今や「耕書堂」の売れっ子作家であり、吉原がなによりも大好きな好色家・まあさんこと朋誠堂喜三二。重三郎から、新作を月1ペースで書く代わりに、女郎屋にお泊りできる「居続け」を承知された。しかし昼は創作で上の筆をふるい、夜はおそらく不眠不休状態で下の筆を・・・という、嬉しいのか過酷なのかよくわからない毎日を過ごしたためか、「腎虚」という男性特有の病(婉曲)になってしまった。
のっけからのインティマシーコーディネーターの出番まったなしな展開に、SNSも「Q.腎虚ってなんですか? A.つまりヤリすぎです」「さすがにそのへんはNHKもはっきり言えないか・・・」「『筆が止まっちまった』がソッチの筆とは思わねえだろ!!!!」「まぁさん、いわゆる『赤玉が出た』ってヤツかしら?」「ろくに寝ないで原稿書いて、報酬の吉原払いも満喫となると、寝ないと厳しいよね」と、いろいろと察する声が多数。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第18回より。夢を題材に新作の戯作を思いついた朋誠堂喜三二(尾美としのり)(C)NHK
さらに喜三二の下の筆が大蛇に変わり、それをいねが切り落とすという、これは『鬼滅の刃・遊郭編』か? と思うほどおどろおどろしいシーンにも、「大河観てたはずなのに急に特撮始まったからびっくりした」「初回の明和の大火スペクタクル以来の大規模CGをこんなシーンで使いやがってw」「巻き戻して爆笑しながら二度見してしまった」「このド下ネタな夢を作ったVFXスタッフはどんな気持ちだったろう (楽しかったかな)」という、とまどいと喝采が混じったようなコメントが。
結局大蛇は喜三二の夢・・・というオチだったが、これが夢オチネタの傑作戯作の一つ『見徳一炊夢』につながるのだから、エロのパワー恐るべしである。その絶好調具合を、重三郎と喜三二が「息子」にたとえて語るところにも、「ま~さんヤンチャ息子生還おめでとう」「息子さん、わがままやな・・・」「まあさんの筆が息子に進化しました(隠語)」「放蕩息子に戻って良かったが、ほどほどにね、まあさん(笑)」などの、快癒祝(?)の言葉があふれていた。
■ 大河ドラマで「男娼」のショッキングな描写
そんな大江戸下ネタコメディてんこ盛りな喜三二パートと違い、性をめぐる厳しい現実を突きつけたのが、唐丸改め捨吉。子どもの頃から母に強制されて客を取り、今も画家のゴーストライター(ゴーストペインターか)をしながら、両刀使いの陰間(男娼)となって糊口をしのいでいた。かつての花の井(小芝風花)と同じように、強蔵の客に乱暴にされたことをうかがわせる描写に、体を売って生きることの過酷さは、女も男も変わりがないことを容赦なく知らしめた。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第18回より。捨吉(染谷将太)の長屋から帰る客・寂連(岩井志麻子)(C)NHK
このショッキングな描写にはSNSも「唐丸も、強蔵の餌食に(泣)」「これは男に対する性的搾取ってやつじゃないですかね」「こりゃ冒頭で注意書き出るわ・・・」「幼かった頃の唐丸を知ってるだけにずっとこんな仕事してたのかと思うと胸が痛い」「いねさんの大蛇退治劇からの、男子が春を売るというハードな現実を突き付けられて視聴者のライフは0よ・・・!?」「大河で男色と陰間を堂々と扱うようになったの、ここまで来たんだなって思った」などの、呆然としたような声が続々と。
しかしそんな唐丸を、絵画の才能を活かす前に、まず一人の人間として救いたいと必死に働きかけた重三郎。空白となっていた戸籍を彼に与えることで、ギャンブル狂いの身元引受人から引き離し、義理の兄弟となることに成功した。そして運命の画号「歌麿」をプレゼント・・・ここから2人は「世界のウタマロ」となる出世街道を爆走していくわけだけど、そこに至るまでの道の舗装がここまでハードなものになるとは、本当に隙も容赦もないドラマだ。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第18回より。捨吉(写真右、染谷将太)に「歌麿」の画号を与える重三郎(写真左、横浜流星)(C)NHK
SNSでも「うわあんんおかえりおかえりーーー!!!」「唐丸が捨吉になり、北川豊章が勇助になって遂に、喜多川歌麿に・・・!!」「蔦重は、唐丸にいろんなものを与えてくれる。名前、筆、命まで。そりゃこの人のために生きようと思うよ」「唐丸の頃の口調に戻ってる・・・雰囲気もちゃんと唐丸だし染谷さんすごいな」「このまま永遠に2人仲良く生きて欲しい」という、喜びの声が止まらない状態となっていた。
■ 攻めるNHK…吉原が舞台ゆえの性描写の難しさ
もともと森下佳子は、わかる人にはわかる感じでサラッと性的な笑いを入れたり、遠慮はないけど嫌悪感はギリギリ回避する性描写など、性的なシーンの扱いが非常に巧みな脚本家。今回もまた、コメディシーンはとことん明るく笑い飛ばし、シリアスなシーンでは、幼い頃が一番の売り時という江戸時代の「陰間」の残酷さをストレートに伝えるという、非常に難しい役割も見事に果たしてくれた。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第18回より。戸籍を与えられ、重三郎の義弟として再び働き始めた捨吉(染谷将太)(C)NHK
吉原が舞台である以上、そして吉原に通う好き者の絵師や作家たちが出る以上、まだまだこれからも性の話題は尽きないと思う。NHKの上層部が許す限り、『べらぼう』関係者の皆様はとことんまで攻めつづけてほしい・・・というより、上層部には目をつぶりつづけてほしい(笑)。
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大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。5月18日の第19回「鱗の置き土産」では、鱗形屋孫兵衛が店を閉めることになり、鱗形屋の人気作家だった恋川春町(岡山天音)をめぐり、重三郎をはじめとする板元たちが駆け引きをしていくところが描かれる。
文/吉永美和子
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