生徒に対して熱意を持って真摯に向き合う者。極力、生徒に深入りせず、穏便に済ませようとする者。仕事として割り切って、プライベートな恋愛にうつつを抜かす者。

 ここまで放送されてきたドラマ『なんで私が神説教』(日本テレビ系)では、多種多様な教師の姿が映し出されている。主人公の麗美静(広瀬アリス)も生徒に対して馴れ合うことはせずに、一定の距離を保ちながら指導を行おうとするキャラクター。これまでの教師ドラマで描かれてきた教師像とは重ならない異色の存在と言えるが、物語が進んでいくにつれて“極端な正義感”を持つふたりの教師の姿も浮き彫りになった。

 そのうちのひとりが、着々と学校を牛耳りつつある森口先生(伊藤淳史)だ。登場時は物静かにスマホでゲームばかりしている目立たない存在だったが、第2話の終盤で学校改革委員会の新たな委員長に就任することが判明するや否や、態度を一変させる。

 森口先生は理事長の甥っ子でもあり、2年前は経営コンサルタントの仕事を行っていた。彼のバックグラウンドが示す通り、森口は学校を「教育の場」ではなくひとつの「会社」として捉えており、経営を安定させるためには強行策に出ることも厭わない。学校の風紀に見合わない生徒を排除するために、退学者リストを自作するほどの徹底ぶりだ。

 そんな森口先生が静と相対する場面で見せる「冷笑しぐさ」や「煽りゼリフ」は、今まで観てきた伊藤淳史のパブリックイメージを覆すほど秀逸なものだった。主演を務めた『電車男』(2005年/フジテレビ系)や『チーム・バチスタの栄光』(2008年/フジテレビ系)など、これまで一大ブームを巻き起こしてきた作品群では、お人好しで頼りない好青年の役柄を演じてきた伊藤。『映画 ビリギャル』(2015年)で演じた主人公の女子高生を指導する教師・坪田もまた、本作の森口先生とは似ても似つかない、生徒にまっすぐ真摯に向き合うキャラクターだったので、俳優キャリアにおいても象徴的な「好青年」の役柄は長らく多くの人々に大衆イメージを植えつけていたはずだ。

『べらぼう』の“かつての名子役”たち 寺田心、安達祐実、伊藤淳史らの“ギャップ”に驚き

それなりに長く人生を生きていると、かつての名子役たちの成長を見ることが、無上の楽しみとなる。かつては“かわいさの化身”として世に…

 しかし、2025年から放送が開始されたNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』では、女郎に対して非道な発言も辞さない軽薄な大文字屋の主人・大文字屋市兵衛を熱演。シニカルな口調で話す冷徹な森口先生は、その系譜に名を連ねるものがあり、彼の俳優キャリアにとっても新境地の芝居を見せる役どころになることは間違いない。

WACOCA: People, Life, Style.

Pin
Exit mobile version