Epifunnies(エピファニーズ)は2024年12月に始動した4人組ロックバンド。素顔や詳細なプロフィールを公表しないまま、4月30日に1stアルバム「non’non’」をアナログレコードおよび配信でリリースした。

楽曲の多くはブリットポップへのリスペクトを感じるサウンドと、繊細な比喩表現や示唆に富んだ歌詞で構成されており、リスナーにまっすぐ音楽を届けたいというEpifunniesの思いが伝わる仕上がりとなっている。

音楽ナタリーでは謎の多いEpifunniesにインタビュー。メンバーの編成もわからないまま、音源と簡単な資料だけを頼りに取材が始まった。取材の中で4人はバンド結成の背景とメンバー間に起きる化学反応、この時代に抱く違和感と生きにくさ、「音楽で景色を描くこと」への情熱などについて言及してくれた。


取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 梁瀬玉実

謎に包まれたバンドのプロフィール

──Epifunniesはプロフィールを一切明かさずに活動しているので、何人組で、どのような編成のバンドなのかわかりませんが、今日のインタビューには4名の方にお越しいただきました。恐れ入りますが、お名前と担当楽器を伺ってもよろしいでしょうか?

nire(Vo, G, Piano) ボーカル、ギター、ピアノのnireです。

YANYAN(G) ギターのYANYANです。

momo(B) momoです。ベースをやってます。

tato(Dr) ドラムのtatoです。

──ありがとうございます。発起人はどなたですか?

nire 僕です。

──ではバンドを始めるに至った経緯を聞かせてください。

nire 自分は音楽が小さい頃からずっと好きだったんですけど、学生時代に音楽系の部活をやっていたわけではなくて。むしろ軽音楽部や吹奏楽部のキラキラしている人たちを見て、疎外感を抱いていました。あの……人間って普段は普通に過ごしていても、急に「目の前の人をいきなり殴ってみたらどうなるんだろう?」みたいな想像することってありませんか?

──侵入思考と呼ばれるものですね。実際に殴ることはもちろんないんだけど、突然思考が浮かぶという。

nire そういう散漫な感覚というか……さっき言った疎外感も含め、「自分の中にあるこの感覚を曲にしてみたらどうなるんだろう? ちょっと書いてみようかな」という僕の好奇心から、このバンドは始まりました。10代の頃、好きな音楽をラジカセでよく聴いていたんです。そのラジカセはぶっ壊れていたから、Oasisの「Whatever」とかを聴くとオーケストラの音が歪むんですけど、その音像が自分にかなりしっくりきて。我々の1stアルバム「non’non’」にもオーケストラサウンドがけっこう入ってるんですけど、クラシックのようなきれいな感じにせず、音を歪ませているのはそういう理由からです。ロックバンドは1人じゃなくてメンバー全員の手で作り上げていくものですけど、Epifunniesにおける「こういう景色を音楽で描きたい」という最初のイメージは、自分の中からしか出てこないもので。それをガツンと掲げるバンドをやりたいというのは念頭にありました。

──「音楽で景色を描くこと」がnireさんにとって重要なんですね。

nire そうですね。去年おばあちゃんが亡くなったんですよ。葬儀場で遺影を眺めていたら、フジファブリックの「茜色の夕日」とか、Oasisの「Whatever」とか、Queenの「Somebody To Love」とか、10代の頃によく聴いていた曲がいろいろ浮かんできて。そのときに改めて思ったけど、音楽にはやっぱり景色や匂い、記憶が染み付くんですよね。アルバムの1曲目「kit!」には、「壁に手沿わせて歩いてたら 気軽に死ぬなんて言えなくなってた」という歌詞がありまして、これはおばあちゃんが亡くなったときに自分が思ったことをちゃんと覚えておきたい、歌ったときにちゃんと思い出せるようにしておきたい、というところから作り始めた曲で。

──なるほど。

nire 「景色を描きたい」という気持ちが強すぎて、それ以外のことは正直どうでもいいんです。承認欲求もないからSNSも個人でやらない。変な話、「人に求められたい」「目立ちたい」「大金を得たい」みたいな理由で音楽をやってる人たちとは根本から考え方が違うんですよね。僕は人一倍「音楽はこうじゃなきゃいけない」という気持ちが強いんですけど、3人はそのあたりも理解してくれていて。まだアルバム1枚しか作っていないタイミングでこんなこと言ってもって感じですけど、いいメンバーに出会えて、思い描いていた形でバンド活動ができています。

Epifunnies

Epifunnies

統制されていないサウンドのよさ

──曲作りはどのように行っていますか?

nire 作詞作曲をメインでやっているのは僕ですけど、実は僕だけが作っているわけじゃなくて。YANYANが原型を作った曲もあれば、tatoやmomoがアレンジする曲もあって、いろいろなパターンがあります。

──最初に完成したのはどの曲ですか?

nire このアルバムの2曲目に収録されている「Bring Me Back」です。この曲は歌詞先行で、自分が抱えていた学生時代の鬱屈とした感覚をどうしたら最大限に音に閉じ込められるかと考えながら書きました。そう考えたら当たり障りのない歌詞じゃダメで、歌い出しが「覗き込む用水路」なのは自分が通学していた道に用水路があったから。歌詞ができたあと、メンバーには「こういう時間を自分はこういうふうに捉えて、こう書いた」みたいな話だけ伝えて。

tato 歌詞を読んで、気になるところがあれば質問したりね。

nire 「ウェストミンスターの鐘って何?」って質問されたんですけど、あれはキーンコーンカーンコーンっていう学校のよくあるチャイムです。始業のチャイムをいつも外から聞いていたな……って、遅刻ばっかしてたんかい!って話ですけど(笑)。僕からは「こういうフレーズを弾いてほしい」という話は特にせず、メンバーそれぞれ自由に演奏してもらって。統制されてないし、音像もきれいすぎない感じというか。ストリングスが鳴っているからベースを少し落とすとか、リズムを歌に寄り添うようにアレンジするとかはしていないし、バランスはあんまり気にしてない。

tato 4人が過ごしてきたそれぞれの学生時代の風景が合わさっているから、誰か1人の観た景色が曲になっているわけでもない。

YANYAN 理解できることもありつつ、でも同じじゃないんですよね。僕は不安定なものが好きなので、さっき言ってた歪んだ音のラジカセの話も共感できるんですよ。だけど過ごしてきた時間や環境によって、同じ色でも見え方が違ってくるだろうから、青空にしたってたぶん4人それぞれ違った見え方をしてるはずだし。

momo うんうん。

YANYAN 最近いろいろなバンドのインタビューを読んで、ギタリストやベーシストやドラマーで「自分の役割はボーカルの歌っている歌詞を最大限に引き立ててやること」と言っている人がけっこういるなと思うんですけど、自分はそう思わないタイプで。歌詞を純度100%で解釈して音に落とし込もうとするなら、それはバンドじゃない形のほうがいい気がする。何も歌詞とか曲が伝えたいメッセージ性をわかっていない、デタラメなギターがいいということもあるんじゃないか。そう思いながら弾き倒しているところもあります。そんな感覚を持ったメンバーが集まって、Epifunniesにしかできない音楽にどんどんなっていく工程が楽しいから。

nire それが楽しいからバンドをやってる……じゃないと、バンドなんかやってらんないですよ。

YANYAN・momo・tato ははは。

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