自分の欠けてる部分が自分を照らしてくれる
――anoさんが自分のことを書けば書くほど、共感する方も増えてるんですよね。一方で新曲「ロリロっきゅんロぼ♡」はまったく違うテイストになってます。まず、劇場版『僕とロボコ』の主題歌を担当すると決まったときはどんな心境でしたか。
ano:嬉しかったです。作品がコミカルだし、メイドモチーフだからかわいいし。結構、僕と合いそうって思いました。
「ロりロっきゅんロぼ♡」Music Video
――これも<作詞・作曲 あの>なんですよね。原作のコミックを読んでから作った?
ano:そうですね。作品を読んで、おもしろくて。最初はスケジュール的にもキツキツだったので、作曲は別の方にお願いしようと思ってたんです。でも、僕は大体こういう感じにしたいっていうのが頭に浮かんでて。作曲家の方と何度も意見のラリーをしたんだけど、書いてもらったものが自分のイメージと大幅にズレがあったから、もう時間がギリギリなタイミングで迷ったけど、僕が手を挙げさせてもらって作りました。
――この曲、どんどん展開が変わっていくハイパーポップみたいな曲になってますよね。「YOU&愛Heaven」や「この世界に二人だけ」は、部屋でギターを弾いてるうちにメロディと言葉が出てきたっていう状況が想像できるんですけど、この曲の楽想が最初から頭にあったっていうのは?
ano:最初から1分半ぐらいはピアノで壮大な感じで、そこから一気にポップに弾けてシーンに合わせてドラマチックな転調をしてほしい、みたいな映画側からのオーダーもあったんです。簡単にいうと、「ボヘミアン・ラプソディみたいな曲」って言われて、それで苦戦もして……壮大な部分とポップな部分をパッチワークするというか、構成がコロコロ変わるっていうことを言いたかったんだと思う。だから、サビはあるけど、コロコロ変わっていくパートがあってもいいのかなっていうのは思ってました。あと、作品はコミカルだけど、かわいい曲にしたいっていうのがあったし、ロボコが空を飛んでるイメージもあって。空を飛んでるロボコがサビでは助けに来る、とか攻撃しにいくみたいなイメージがあったので、そういう曲にしようと思いました。
――編曲で「ちゅ、多様性。」をはじめ、インディーズ時代から何曲も一緒にやってるTAKU INOUEさんが入ってます。
ano:アレンジも最初からイメージがあったので、TAKUさんに泣きつきました(笑)。TAKUさんとは普段はあんまり連絡を取らないし、大体グループLINEでコミュニケーションを取ってるんですけど、今回、初めて個人LINEで連絡して。夜中に、もう本当に泣いちゃって、そのときも僕はすごく音楽が大事なんだって思ったんです。僕はステージに立つ人間だから、やっぱりそこに愛のないまったく知らない人の感情を入れちゃいけないんじゃないかって。ファンの人に失礼なんじゃないかとか、どんどん、今まで思ってもなかったことも思うようになって。TAKUさんに泣きながら、「助けてください」ってお願いしました。TAKUさんもスケジュールがない中、本当に急ピッチで作ってくれて。声を加工してほしいとか、ぶっ壊れたサウンドにしたいとか、いろんなことを伝えて。でも、TAKUさんが得意としてる分野ではあったので、TAKUさんも「すごい楽しかった」って言ってくれて、結果的にいい感じになったなって思います。
「ちゅ、多様性。」Music Video
――作詞の方はどうですか? 自分と向き合うとは違うやり方ですよね。
ano:そうですね。でも、作詞に関してはどんどん出てくるっていう感じだった。どんな曲かを説明するのが難しいんですけど、自分がロボットだとして、欠けてる自分のままで世界を変えたり、壊していくみたいなイメージがありますね。自分の欠けてる部分が自分を照らしてくれるというか。大まかにかわいい曲にしたけど、どっかで少しでもそういう部分を感じてくれたらいいな、みたいな。
――“欠けてる”自分=anoさん自身でもある?
ano:もう欠けまくって、生活ができない(笑)。生活力が本当にゼロなので、きついですけど、それでいいやって思っちゃってる自分もどっかにいて。意外と周りを見渡しても、世界ごと壊れてるし、地球ごと壊れてるイメージがあって。だから、そのまま自分らしくというか、歌詞でも言ってるけど、<壊れたままで/おんりーわんっ(🐶)>って言ってます。
――<号令 号令>のパートはどんなイメージですか?
ano:ちょっと洗脳されていく感じですね。そこの最後の<萌え 萌え 滅>はデスボイスを入れてますね。<萌え 萌え きゅん>では終わらない感じをロボコからも感じるし、自分もそうだなと思ったんです。「かわいいだけじゃだめですか?」という曲があるけど……僕はだめだと思ってて。
――あはははは。
ano:だめというか、自分はだめだって言われてきた側の人間だなと思ってて。どれだけかわいくデコレーションしても、それで許されないことを知ってる。それで済む話もあるかもしれないけど、何かおもしろさを求められたり、独特なことを求められたりしてきたから。自分の中からだとやっぱり結局は破壊衝動みたいなものが勝っちゃうので、かわいい“キュン”ではなくて“滅”にしました。
――語りのパートもありますよね。
ano:そこは、ロボットから電話がかかってきたイメージ。いろんなことに傷ついて、痛みも感じないくらいになってるけど、欠けてるパーツが自分を照らしてくれたり、みんなを照らす。みんなもきっとそうだと思ったので入れました。
――だから、“欠けてる部分”という視点で歌詞を読み込んでいくと、実はanoさん自身ともリスナーとの心情とも重なるところがあったりするんですよね。
ano:かわいいけど、とっ散らかった曲にしたかったので、実際にそうしたけど、だからこそ歌詞は自分とかぶることを入れたかった。ポップになるようにもしてるから、かわいさがどうしても目立っちゃうけど、そういう大事な部分は入れたいなと思って、そこは意識しました。
――タイトルはどんな意味で付けましたか。“きゅん”は“ロっきゅん”の方の“きゅん”なんですね。
ano:錆びていってるロリロボットだけど、ロリロボットだけじゃないなと思って。ロックっていうところを入れたくて。ロだけカタカナにするとよりロボットっぽいかなと思って、そうしました。
――実際の劇場版の画に音楽がついたものは見ましたか?
ano:予告を見ました。良かったです。過去一切羽詰まっちゃって、本当に大変だったけど、やっぱり嬉しいなって思いました。
――この新曲を含むニューアルバムのリリースが発表されました。どんなアルバムになりそうですか。
ano:結構、大事な1枚になるというか、これからに繋がる1枚かなと思います。「ロりロっきゅんロぼ♡」や「許婚っきゅん」みたいにポップなサウンドの曲も入ってくるんですけど、「この世界に二人だけ」とか、「絶絶絶絶対聖域 (ano feat. 幾田りら)」とか、自分の軸っぽい、自分の芯となるものも入ってて。すごく骨組みがしっかりしてると思えるアルバムになったかな。
「許婚っきゅん」Music Video
――9月には初の武道館も控えていますが、どのような心境でしょうか。
ano
:
別に憧れはなかったし、他にできるタイミングもあったと思う。でも、変に真面目っていうか……僕、武道館はすごく神聖な場所とも思ってるし、ちゃんと自分を誇れるアーティストが立つべきだと思ってて。そこに行くまで立ちたくないと思ったのもありました。そうじゃない人もいるな〜みたいなのを見て、思うこともあったので、自分はちゃんとアーティストとして胸張れるようになってから立ちたかった。箔もつきますし、武道館立ったんですよって言えるけど、そのためだけに立つのは嫌だなみたいな思いはあって。今、ようやく立ってもいいかなって思えてきたし、昔からのファンの方は特に僕が立ったとこは見たことないはずなので、恩返しの気持ちも若干ありますね。
リリース情報
公演情報
【ano 武道館公演『タイトル未定』】
2025年9月3日(水)18:30
東京・日本武道館
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