遅すぎた「せどり」参入 物販ビジネスに退職金をつぎ込んだシニアの悲惨な現状【年金不安時代を生きるワーキングシニアの懊悩】

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

【第13回・前編】「せどり」参入して失敗したMさんの場合

「人生100年時代のロールモデルがいない」――退職後のサラリーマンが迷走している。キャリア、居場所はリセットされ、年金不安時代は資産形成も「自己責任」。「人手不足」の号令の下、今日もシニアは働き続ける。『副業おじさん』『過労シニア』のルポライター・若月澪子が、奮闘し続ける令和シニアの素顔を追う。

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「いずれは独立したい」「自分の会社を持ちたい」

 密かにこんな夢を抱く中高年は多い。早期退職や役職定年などをきっかけに、長年勤めた会社に残らずに、自分のやりがいや収入確保を求めて、起業する中高年世代は増加傾向にある。

 帝国データバンクによると、2025年に新設された法人代表者の平均年齢は48.9歳で、2000年以降では最高齢を更新、特に50代の起業が7年連続で上昇し、60〜80代の起業割合も2000年以降最高だったという。

 しかし中高年世代の独立は、あえなく失敗に終わることもある。

 独立するには、資金、経営ノウハウ、顧客獲得などのさまざまな準備が必要だ。ところがこうした準備体操なしに普通の中高年サラリーマンが独立を目指すと、老後資金を失うこともあり、あまりに危険である。

商売がやってみたかった

「個人事業主として独立したのは、60歳の時です。それまで2つの会社で働きましたが、昔から自分で商売をやってみたいと思っていたんです」

 こう話すのは、56歳まで一部上場の電気設備メーカーのエンジニアとして、32年以上勤務していた奈良県在住のMさん(64)。素朴でマジメな雰囲気のシニア男性である。

 現役時代のMさんは、国内外の工場建設に関わる仕事をしていたという。

「国内の古い工場を建て直すプロジェクトに参画していました。東南アジアの国に9年ほど赴任していたこともあり、海外工場建設の計画、立ち上げ、稼働フォローなどに関わりました」

 当時の最高年収は800万円だった。しかし、会社の業績が悪化し、56歳の時に早期退職募集に応じる。その後、同じような業種で再就職し、60歳定年まで働いた。

“ビジネスの教科書”はYouTube

「2つ目の会社で定年を迎えた時は、再雇用には応じませんでした。退職金は、二つの会社を合わせて1500万円くらいです。ほかにも貯金が2000万円ほどあり、住宅ローンも終わっていました。ネットを使って自宅で商売ができるなら、年をとっても無理なく続けられると考えて、個人事業主として出発することにしたんです」

 Mさんがどんな商売を始めたのかといえば、Amazonやメルカリ、ヤフオクなどを通じた物販である。ゴルフ用品や絵画、骨董品などを仕入れ、それをネット上で販売する。

「やり方はYouTubeやネットの記事から情報収集しました。警察に古物商の届け出も出して、妻にも手伝ってもらいながら始めました」

 しかし、独立は想定外のことだらけであった。ネット上ではひっきりなしに注文が入るものの、梱包や発送作業に手間取り、一日中内職をしているような状態。しかも、利益は思ったほど手元に残らなかった。

退職金を使い果たす

「Amazonに出品すると売れた時に手数料が引かれます。梱包や発送、在庫管理の内職の代行サービスも利用してみましたが、手数料が高くてやめました。仕入れ代金や経費を引いた利益と言えば、せいぜい月3万円程度です」

 Mさんは、ほかの出品者との差別化を図るために、かつて駐在していた東南アジアの国に骨董品などを買い出しに行くつもりだったのだという。ところが、事業を始めようとした時はコロナ禍で、それも断念していた。

 自営業なので、健康保険や年金は全額自己負担だ。住まいであるマンションの管理費や修繕積立金などの支払いも負担に感じるようになった。

「結局、退職金を使い果たし、生活のために貯金も切り崩し始めました。今は貯金が1000万円を切っています」

 やがて、追い詰められたMさんは、思わぬ行動に出た。

(後編に続く)

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