PROFILE: 1995年、米ニュージャージー州生まれ。大学で化学工学を学んだ後、2017年にフランスの香料会社に入社。ナチュラル原料と出合い、香りの世界に魅了される。フレグランスの聖地、仏グラースの調香師学校で学び、卒業後は「バイレード」や「ザラ」などの香水を手掛ける調香師ジェローム・エピネット(Jérôme Epinette)氏に師事。25年、「ジョンマスターオーガニック」初の調香師に抜擢され、水性フレグランス“アクアパフューム”をはじめ、ヘア&ボディーケア製品の香りを手がけている PHOTO : AI OKUBO
「ジョンマスターオーガニック(JOHN MASTERS ORGANICS)」は10月22日、フレグランスライン“ファーストコレクション”を発売する。手がけるのは、25年10月から同ブランド初の調香師として活動するルーク・マルヴィー(Luke Mulvihill)。1995年生まれの若手調香師で、「バイレード(BYREDO)」「ザラ(ZARA)」などを手掛けるジェローム・エピネット(Jerome Epinette)のもとで経験を積み、現在は自身の感性を生かした香りづくりに取り組む。同コレクションのメディア向け発表会で初来日したマルヴィー氏に、 “ファーストコレクション”の魅力から調香師を目指したきっかけや香りの作り方までを聞いた。
WWD:「ジョンマスターオーガニック」初の調香師に抜擢されて約1年。ブランドのアイデンティティーをどう香りに落とし込んでいる?
ルーク・マルヴィー(以下、マルヴィー):最も重要なのは自然を第一に考えること、そして品質。その理念のもと、人間の想像力によって自然の魅力を香りにし、お客さまに忘れられない体験を届けています。
僕自身が目指しているのは、まず自然だと感じられること。ただ天然原料を使えば自然な香りになるという単純な話ではありません。香りにきちんとレイヤーがあり、全体として丸みを感じられる必要があります。
これはとても難しいのですが、「ジョンマスターオーガニック」では非常に質の高い天然原料を扱うことができる。さらに、その原料を使って自分が作りたい香りを作る自由もある。調香師としてとても恵まれた環境だと感じています。
WWD:10月22日に発売する“ファーストコレクション”のインスピレーション源は?
マルヴィー:今回のコレクションが特別なのは、全ての香りが心を整え、地に足をつく感覚があることです。日常の中で、自分に立ち返る時間をくれるような香りに仕上がりました。
情景の描写にはニューヨークを採用しました。ニューヨークは唯一無二の街。1時間ほど離れた街で育ちましたが、13歳で初めてニューヨークに行ったときのことを今でも覚えています。エネルギーは肌で感じられるほど強く、街の鼓動が自分の中にも響いてくるようでした。
そのエネルギーの要素の1つは起業家精神だと思います。人々は夢を叶えるためにニューヨークにやってくるか。そういったエネルギーを表現しようと思って今回は作りました。特にソーホー地区が持つ独特のエネルギーや19世紀の鋳鉄建築からインスピレーションを得て、心を落ち着かせるウッディーノートを作りました。
WWD:最も重視した点は?
マルヴィー:今回の香りには大きく2つの要素があります。1つは、深くウッディーで、地面を感じさせるような、心を落ち着かせてくれる要素。もう一方には、クリーンでフレッシュな強いエネルギーを持つ素材を使っています。僕にとってその2つはニューヨークの持つ印象にも通じています。落ち着きとエネルギーという、相反する要素の調和を大切にしました。
WWD:「調和した」と判断した瞬間はどんな時だった?
マルヴィー:僕の場合は、一度香りから離れます。2週間ほどたってから、もう一度戻ってきて嗅ぐ。そこで自然に笑顔になって、「これは本当にいい」と思えたら、良いものができたと感じます。それは今回も同じです。
作っている最中はどうしても香りとの距離が近くなり過ぎてしまう。だから、少し時間を置いてからもう一度向き合うことが大切です。
「もちろん。彼は調香師だから」
WWD:そもそも、調香師を目指したきっかけは。
マルヴィー:アメリカ・ニュージャージー州で育ち、大学では化学工学を学びました。大学3年生の終わりごろ、香料会社でインターンを経験したとき、あるプロジェクトで調香師と一緒に仕事をすることになったんです。
メンターとその人のオフィスを訪ねると、彼はギターを弾いていました。香りを確認してオフィスを出た後、「仕事中にギターを弾いていていいの?」とメンターに聞いたら、「もちろん。彼は調香師だから」と言われたんです。その光景がずっと頭に残っていました。自分も調香師になりたいという種はそのときに植えられたと思っています。
WWD:ギターを弾いている姿のどんなところにひかれた?
マルヴィー:僕は音楽一家で育ちました。両親はともに音楽をやっていて、僕自身もドラムを演奏していましたし、今もベースやマンドリンを弾きます。一方で技術や化学にも興味があり、だからこそ大学ではその道に進みました。
調香師という仕事を知ったとき、「クリエイティビティーとサイエンスの両方を使える」と思ったんです。想像力を働かせて自分を表現するだけではなく、分析や論理的思考も必要になる。右脳と左脳の両方を使えることに魅力を感じました。
シンプルで美しいことの難しさ
WWD:実際に調香師になってから、香り作りに対する考え方はどう変わった?
マルヴィー:始めたばかりのころは、「変える=足す」という認識がどこかにありました。クライアントからフィードバックを受けるたびに原料を加えていき、完成するころには処方がどんどん長く、複雑になっていたんです。
経験を積んだ今は、むしろ原料を減らすことで香りを磨きあげることができるようになったと思います。常に目指しているのはシンプルながら美しい処方。時を重ねるにつれてできるようになってきていると思いますが、実際には今もとても難しいです。
WWD:「バイレード」や「ザラ」などの香水を手掛けるジェローム・エピネットに師事した。彼から学び、今も大切にしていることは?
マルヴィー:まさに今話した、少ない素材で素晴らしい香りを作ること。彼がシンプルな素材の組み合わせから美しい香りを生み出していく過程を間近で見ることができたのは大きな財産です。
もちろん、仕事に対する姿勢からも多くを学びました。彼は言葉で教えるだけではなく、自ら努力する姿を行動で示してくれる人でした。
WWD:その上で、自身ならではの調香のスタイルは?
マルヴィー:僕はもともと大胆さや新しさ、それへの挑戦が好きな性格。それもあってか、最初から完璧なものを作ろうとはしません。
例えば、ある原料をあえて大胆に使ってバランスを崩してみる。出来上がったものを香ると、「これはどうだろう」と苦笑いしてしまうこともあります(笑)。でも、その中に良いアイデアが隠れているかもしれない。そこから調整して、精査して、洗練させていきます。
最初からきれいにまとめようとすると新しいことを試す自由がなくなってしまう。だから、あえて自分自身を混乱させるような香りを作ることもあります。
時代とともに変化する調香師のあり方
WWD:1995年生まれと若い世代の調香師でもある。自身の世代ならではの感覚をどう捉えている?
マルヴィー:僕たちはインターネットやソーシャルメディアとともに育った最初の世代の調香師だと思います。以前は誰がその香りを作ったのかを消費者が知らないことの方が多かった。調香師は、ある意味で秘密の存在でした。
でも今は「どのブランドの香りか」だけではなく、「誰が作った香りなのか」という点にも関心が向けられています。調香師自身が表に出てビジョンや考え方を伝える機会も増えました。
WWD:そうした変化はポジティブに捉えている?
マルヴィー:はい。消費者と直接つながる機会が増えるからです。自分がどのようなビジョンを持ち、なぜその香りを作ったのかを自分の言葉で伝えることができる。消費者も、作り手の考え方をより深く理解できるようになっていると思います。
WWD:消費者の香りとの向き合い方も変わってきている?
マルヴィー:インターネットによって香りに関する情報へのアクセスが増え、消費者自身の理解も深くなっています。以前なら「これはどのような香りですか」という質問が多かった。でも今は、「なぜこの香りになったのか」「どんな原料を使っているのか」「インスピレーション源は何か」と聞かれることが増えました。
香りそのものだけではなく、その背景や作り手の考えまで知ろうとしている。だからこそ、僕たち作り手側もそうした問いに誠実に答えることが求められていると思います。
WWD:昨今のフレグランスのトレンドは。
マルヴィー:日常生活の中にあるリチュアルからインスピレーションを得ることが増えていると感じます。例えばサウナやバスタイムなど、自分自身を整えたりリラックスしたりする時間です。そうした体験そのものを出発点にして香りを構築していく。自然を感じられるものや天然素材に対する関心も続いていると思います。
WWD:今回が初来日。印象に残ったものは?
マルヴィー:アメリカから世界の反対側に来て、見るものすべてが新しい。できるだけ多くのものを吸収して、新しい経験をしたいと思っています。
特に、食べ物と音楽からインスピレーションを得たいですね。空港に着いたときも、人を乗せて移動するカートから音楽が流れていたんです。それがとても印象に残りました。日本ではいろいろな場所で音楽を耳にするし、ジャズもたくさん聴きます。そうしたものも含めて、文化や言葉をもっと知りたいです。
WWD:今後、日本とはどのように関わっていきたい?
マルヴィー:日本との仕事をこれからも続けていきたいです。今回の来日がそのための大切な第一歩になればいいと思っています。個人的には、いつか日本で暮らして、日本の文化や言語の中に身を置いてみたいという夢もある。そうした経験が自分の人生そのものを豊かにしてくれると思っています。
WWD:調香師としての目標は。
マルヴィー:心から本当に好きだと思える仕事に出合えたことをとても幸せに思っています。これからも努力を続けて、最高の調香師を目指していきたいです。
WWD:自身にとって「最高の調香師」とは?
マルヴィー:誰かと比べて一番になるという意味ではありません。自分自身がなれるベストな調香師になること。自分の中で成長し続け、更新していく。それが僕にとっての「最高」です。







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