センサーが対象を検出し、その場でアクチュエーターの動作に反映させる──。この過程は両者に共通する構造でもある。
コンピュータービジョンへの投資も、一朝一夕のものではない。ダイソンは2005年から、単眼カメラによる自己位置推定の手法「MonoSLAM」の開発者であるアンドリュー・デイヴィソンと協働しており、2014年にはインペリアル・カレッジ・ロンドンにダイソン・ロボティクス・ラボを設立している。CameraJetは、その蓄積を「家の床」から「人間の口の中」へと持ち込んだ製品ともいえる。
ダイソンはAIへの投資も進めてきた。2025年には研究開発に4億ポンド以上を投じており、その対象にはAIと機械学習を含むと説明している。25年10月に投入したロボット掃除機「Dyson Spot+Scrub Ai」は、ビジョンセンサーとAIで床の汚れを検出・識別して落とし、汚れた箇所には最大15回まで繰り返し当たる。
つまり、対象を見つけ、種類を判別し、その場で動作を変える──。床の上でこのロボット掃除機がしていることは、CameraJetが口の中でしていることと重なるわけだ。
なお、カメラが作動するのは、アプリで映像を見るときと自動噴射のときに限られ、作動中は白色のLEDが点灯するという。画像は製品にもクラウドにも保存されず、プライバシーは保たれるのだと、ダイソンは説明している。
79,800円が問われること
Dyson CameraJetは、日本で9月1日にダイソン公式ストアと主要通販サイトで発売され、9月2日から全国の家電量販店と一部の百貨店でも販売が始まった。カラーはセラミックピンクとセラミックウルトラブルーの2色だ。価格は公式オンラインストアでは79,800円で、電動歯ブラシと考えれば相当に高価な部類に入る。
ダイソンはこれまで、まったく新しいカテゴリーに意欲的に挑んできた。だが、そのすべてが成功をもたらしたわけではない。
例えば、完成目前まで進んでいた電気自動車(EV)の開発は、2019年に中止された。2023年に発売された空気清浄機付きヘッドフォン「Dyson Zone」は、日本では公式サイトで在庫切れとなっており、オーディオ専用モデルも大きなヒットになったとは言いがたい。工学的な発明が、そのまま事業として成立するとは限らないのだ。
そしていま、ダイソンの挑戦を取り巻く状況は以前とは異なる。2025年の売上高は61億3,000万ポンド(約1兆3,300億円)で、前年から約7%減となった。これは2年連続の減収である。
一方で、営業利益は15%増えている。ダイソンは24年に英国の従業員の約3割にあたる約1,000人を削減しており、コスト削減が利益改善を支えたかたちだ。
その局面でダイソンが選んだのは、製品投入のペースを上げるという道だった。25年には過去最多となる13の新製品を発売しており、最高経営責任者(CEO)のハノ・キルナーは26年にさらに多くの製品を幅広い価格帯で投入すると明言している。


WACOCA: People, Life, Style.