“うまいもんは、捨てるところがない”。畑でも、山でも、蔵でも、厨房でも、何度も耳にした言葉だ。きっと、食材と真摯に向き合っているからこそ自然と出てくるのだろう。森の恵みをいただくということは、自然の影響をシビアに受けるということでもある。天候や気温によっても、食材の状態は日々変わるもの。その変化に対応し続けてきた人びとの知恵と工夫が、京の食をかたちづくっている。
Location
南丹市
京都府中部に広がる南丹市は、森林率約9割を誇る、森の京都の中心地。由良川や桂川が流れ、里山の風景がいまも色濃く残る。その一角、美山町には日本の原風景ともいわれる〈美山かやぶきの里〉があり、かやぶき屋根の集落が並ぶ。林業や畜産も盛んで、野生の動物も身近に存在する土地だ。
森と料理をつなぐふたつの拠点
曲がりくねった山道を抜けると、かやぶき屋根の古民家レストラン〈ゆるり〉が見えてくる。囲炉裏を囲んで、ジビエ料理や季節の野菜が味わえるこの店には、近くに大きな観光施設があるわけでもないのに、多くの人びとがわざわざ訪れる。そのすぐ隣に、ゆるりのオーナー梅棹さんが代表を務める、食肉加工施設〈一網打尽〉がある。

古民家レストラン〈ゆるり〉
食肉加工・販売〈一網打尽〉代表
梅棹レオさん
南丹市美山町生まれ。京都の老舗フランス料理店で修業をしたのち、美山で〈ゆるり〉をオープン。猟師でもあり、地域のシカやイノシシを適正に流通させるため、自ら解体施設〈一網打尽〉を立ち上げる。捕獲から解体、販売、料理までを一貫して手がけ、森の命を食卓へとつなぐ。
「そもそもジビエって、猟師が獲ったもんを直で飲食店が買うのは違法なんです。食肉処理業の許可を受けた解体場を通す必要がある」
梅棹さんはそう説明する。許可が必要なのは“人”ではなく“建物”だ。
「ここ南丹市でのシカとイノシシの猟期は11月15日~3月15日。この期間内やったら、狩猟免許と狩猟者登録持って、ハントができる。けど、獲っても売れへんのやったら、誰も獲らんようになる。そうすると、シカやイノシシは増える一方で、獣害も増え続けます。だから、まず解体場をつくって、“よければ、ここで買い取らせてください”と、地元の猟師にお願いしました」

巨大な冷凍庫の中は、部位ごとに分けられたシカ肉でパンパンだ。パックには捕獲日、猟師の名前、シカの性別、仕留め方まで記されている。
「銃で獲ったんか、罠なんか。トドメ刺しはどうやったのか。それが味に出るんです。ジビエの臭みって、山の匂いじゃなくて、処理の差なんですよ。一番大事なのは、体に血を残さんことです。心臓が動いているうちに、きちんと血を抜く。あとは、できるだけ早く内臓を取り出す。そこで味や匂いに差がつくので、僕らはそこを一番大事にしてます」
シカのアキレス腱やアバラ骨などは燻製にして犬用ジャーキーに。コロナ禍でレストランの流通が止まったことを機に乾燥機を導入し、商品化したという。シカの角は乾燥させて犬用のおもちゃとして販売。梱包までをこの解体場で行っている。命をできるだけつかい切るための工夫だ。
延べ3000頭以上を解体してきた経験が、その言葉に重みを与える。シカの角やアキレス腱など、人間の食用にならない部位は、犬用のジャーキーやおもちゃとして販売する。
「昔は、獲った獣の一頭のうち3割しかつかえへんっていわれてたんです。けど、いまは7割くらいはイケてる(利用できている)と思います。せっかくいただいた命なんで、できるだけ捨てたくない」
山で仕留められた命はここで処理され、ゆるりや全国の厨房、食卓へ渡る。解体から食するまでを、自分たちの手でつなぐために、ゆるりと一網打尽は隣り合っているのだ。

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