2026年6月に開催された旅行とテクノロジーの国際会議「WiT Japan 2026」では、ブッキング・ドットコムの北・南アジア太平洋地区パートナーサービス担当ディレクター、ヌーノ・ゲレイロ氏が「次のフロンティアにおけるグローバルOTA視点」と題したセッションに登壇した。ゲレイロ氏は同社の成長戦略に欠かせない3つの要素として、「AI」、「インド市場」、「宿泊施設の新しい選択肢(オルタナティブ・アコモデーション)」について語った。その内容を抄録して紹介する。
慎重な日本の旅行者
まず、旅行プラットフォーム上でのAI利用の現状について、ブッキング・ドットコムによる2025年の調査結果を引用しながら、アジア太平洋および日本のユーザー動向を紹介した。AIは「旅行需要が流れ込む新しい入り口になっている」とし、AIへの期待も総じて非常に高いが、「旅行手配をすべて任せられるとは思っていない。(期待と)信頼のギャップがある」と指摘した。
同社調査によると、「AIに期待している」との回答は、日本では回答者の91%、アジア太平洋では95%を占めたが、「AIを完全に信頼している」は、日本では1%と非常に少ない。アジア太平洋でも8%にとどまる。
ゲレイロ氏は「AIを使って色々な情報を見つけたり、楽しんだりするだけでなく、完全に信頼して任せられるレベルまで整えていく必要がある」と話した。
「旅行のおすすめ情報」についても、「人々は、まだAIよりも人を信頼している」と同氏。日本の回答者が最も信頼しているのは「家族」(45%)、次いで「過去の経験」(38%)、「オンラインのクチコミ」(29%)。これに対し、「AIアシスタント」は10%にとどまった。
アジア太平洋地域で見ても、「家族」(50%)が最も多く、「過去の経験」(43%)、「オンラインのクチコミ」(40%)という結果になった。ただし、「AIアシスタント」は30%が支持しており、日本の旅行者よりもアジア太平洋地域の旅行者が積極的に活用している様子がうかがえる。
質の高い情報を得る経験がカギに
タビマエからタビナカ、タビアトまでのトラベルジャーニーにおけるAIの利用でも、日本の旅行者はアジア太平洋全体より低い。その理由の一つとして、ゲレイロ氏は、日本人がもともと完璧を求める傾向があり、「想定する標準レベルが高く、AIのハルシネーションに対する寛容度が低い。日本の旅行者はアーリーアダプターではなく慎重。だが、質の高い情報を得る経験が増えれば、利用は急拡大していく」と見ている。
さらに、「AIの利用動向は変化が速く、どんどん変わっている」と付け加え、同社としてAIサービスをタビマエの計画段階だけでなく、タビナカの様々なニーズへと広げていく方向性を示した。
今後、AIエージェントが主流になる時期の予測については、アジア太平洋全体では「数年以内」とする前向きな見方が多いのに対し、日本の回答者は「5年以上かかる」「主流になることはない」と答える割合も一定数おり、ここでも慎重な姿勢の根強さが浮き彫りになった。
こうした理由はどこにあるのだろうか。全体的な背景にある人間らしさの欠如に加え、AIに対する最大の懸念はプライバシーで、アジア太平洋地域の回答者の54%が「プライバシーおよび企業による個人情報の使い方」を挙げた。
また、責任あるツーリズム、誰も取り残さないインクルシブなツーリズムの発展に、AIはどのように貢献できるのか?この問いでは、「デスティネーションの過剰な混雑や訪問時間の集中を緩和するのにAIは役立つ」を日本の回答者の65%が支持。アジア太平洋の回答者でも75%がこれを支持した。
ゲレイロ氏は、日本が2030年までに年間6000万人の訪日外国人旅行者誘致を目指すなか、ゴールデンルート以外への需要分散と、地域社会に恩恵をもたらす成長を後押しするうえで、AIの活用が有効だと指摘した。ブッキング・ドットコムのプラットフォームに蓄積された膨大なクチコミをAIが瞬時に検索し、旅行者の関心に合った内容やリアルな体験談を届けることで、地方への誘客に役立つとの見方を示した。
注目すべきインド市場の爆発力
同社の成長戦略のなかで、注目している市場はどうか?
ゲレイロ氏は、インドを挙げた。その理由として「驚異的な成長」を挙げ、「インド国内旅行とインドからの海外旅行の両方に力を入れている」ことを明かした。ブッキング・ドットコムでは、2030年までにインドの国内・海外の総旅行回数が、2019年比で倍以上の52億回になると予測している。
「日本の取引先と話すと、インド市場に注目しているところと、まだ関心が低いところに分かれるのが現状」(同氏)だが、同社のデータでは、2026年のインドから東京への旅行需要は145%増で推移しているという。ゲレイロ氏は「中流層の人口拡大により、これから消費トレンドも上昇していく」、「旅行先についても、欧州や中東からアジアへ関心が移っており、日本にとってチャンスだ」と指摘した。
日本の温泉旅館を世界へ発信
同社の成長戦略に欠かせない3つ目の要素として挙げられた「宿泊施設の新しい選択肢(オルタナティブ・アコモデーション)」とは、「その土地らしさを体現した独立系ホテル、ヴィラ、アパートメント、あるいはツリーハウスなど、ユニークな宿泊施設のこと(ゲレイロ氏)」。
ブッキング・ドットコムのプラットフォーム全体では、取扱の38%を占めるようになっており、「新しい選択肢というより、むしろ主流になっている。旅行者のニーズは原点回帰している」と指摘する。この分野の取り扱いを強化することが、ブッキング・ドットコムの差別化にもつながるとの考えを示した。
日本ならではのオルタナティブ・アコモデーションとして、同社が昨年来、パートナーシップ強化に乗り出しているのが、全国各地の温泉旅館だ。2025年は、旅館ビジネスの未来について考えるシンポジウム「オーセンティックジャパン」を開催し、ブッキング・ドットコムのAIツール活用方法などを旅館経営者にアピールした。
日本側でも、温泉文化のユネスコ無形文化遺産登録を目指すなか、温泉や旅館について、もっと世界に発信するべきとの気運が高まっている。ブッキング・ドットコムでは需給双方の「橋渡し役」を目指していく考えだ。

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