コロナ禍で医療リソースはCOVID-19対応に集中し、移動制限も重なった結果、途上国では三大感染症(HIV、結核、マラリア)の死亡者数が一時的に増加した。現在は減少傾向に戻りつつある一方、根本にある医療アクセスの課題は解決されていない。
複数の要因が絡み合う構造的な悪循環が、世界人口の半数近くを医療から遠ざけ続けている。その壁を、テクノロジーとコミュニティ設計の組み合わせで崩そうとしているのが、片平雅大が率いるFihankra Healthだ。

片平雅大 | MASAHIRO KATAHIRA
特定非営利活動法人Fihankra Health 代表。訪問診療クリニックTORCH吉祥寺 院長。総合内科・在宅診療を専門とする医師。日本では訪問診療クリニックTORCH吉祥寺を開業し、誰もが質の高い医療を受けられる世界を目指して、日本とアフリカの医療の循環型モデルの構築を目指している。
衛星通信がつなぐ医師と患者
片平が医療ボランティアとしてかかわり続けてきたガーナの無医村では、医療アクセスが極端に悪いことから深刻な健康被害が頻発している。熱を出した子どもが農繁期に放置され重症マラリアに至るケースや、妊娠に気づかないまま必要な栄養を取れずに出産し、子どもが障害を抱えて生まれることもあるという。
妊産婦の死亡率は日本の約70倍、5歳未満の死亡率は約18倍。防げたはずの病気や死が、いまも積み重なっている。この現状を変えるために、現在試験導入しているのがStarlinkを介した遠隔診療だ。
医師がいない村において、村人のなかからコミュニティ・ヘルス・ワーカー(CHW)を定め、村人の体温・血圧測定や簡易マラリア検査を担う。その測定データをもとに、衛星通信でガーナ人医師がリアルタイムで診察し、CHWに預けている薬箱から処方を行なう新しい医療体制を築いている。医師が物理的に村に来られなくても、診断から投薬までが完結する仕組みだ。

現場が問う持続可能性
他方で、仕組みを構築しながら浮かび上がってきた課題もある。医療費が払えないから保険に入らない。収入が不安定だから病気を放置する。こうした経済的なハードルと医療リテラシーの低さが重なり、村人に診療を受けてもらうことすら難しい。コミュニティに深くかかわらない限り、優れたテクノロジーも仕組みも意味をなさないと痛感した。
同時に、助成金に依存した運営モデルの限界を見た。コロナ禍で多くのNPO・NGOの取り組みが資金難で活動を断念する現実を前に、経営の視点なくしてグローバルヘルスの課題には本質的に向き合えないと気づかされたという。
「そのなかで、現場の課題に向き合って解決策を探る、フィールドドリブンなイノベーションを重視しました」と片平は語る。その発想から、収入が不安定な農業に代わり養蜂を導入し、村人を下支えする収益モデルを構築した。収益の一部を保険料や医療費に充てることで、村人が自分ごととして健康に向き合える基盤をつくろうとしている。
今後はさらに手洗いやマラリア予防といった基本的な衛生知識を継続的に伝えていき、経済・教育・医療、複数の切り口からコミュニティ全体を底上げしていく方針だ。

技術と日本がひらく医療の未来
この方針の延長線上に人工知能(AI)がある。AI診断やAIトリアージを通じて現地のCHWを支援し、医師不足という根本的な制約を技術で補える可能性がある。また、遠隔診療とAIが組み合わさることで、このモデルはほかの地域や国へとスケールしうるという。

こうした変化が現実味を帯びるなか、グローバルヘルスの向上に不可欠なのは人手と知見だ。国際協力機構(JICA)を通じた長年のアフリカ支援で培われた信頼や、国民皆保険の実現とその国際展開を通じて培ってきたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(誰ひとり取り残さず医療にアクセスできる体制)のノウハウなど、日本の強みは小さくない。
医療資源が逼迫する超高齢化社会で、質の高い医療をいかに地方に届けるかについても、世界が日本の実践に注目している。
医療アクセスの課題は、途上国と日本で地続きだ。だからこそ、日本の担い手が増えることの意義も大きい。「まずかかわってみることが重要。その一歩をぜひ踏み出してほしい」と片平は呼びかける。Fihankra Healthが先導する新たなアプローチが、そのひとつの道標になるはずだ。

※「グローバルヘルスをめぐる事実と、未来を書き換える日本の実践者たち」の詳細はこちら。

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